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鬼に恋して  作者: 八神
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4.5:弟のような存在

 寝ぼけ眼をこすりながらベッドから起きた富樫恵美は半裸の状態で家を徘徊していた。

 手探りで洗面所へ向かい、顔を荒ってコンタクトをつける。ようやく視界を確保すると、自室で私服に着替えて何か食べようかと台所へと向かった。

 久しぶりの仕事も家業も無い休日だった。

 富樫の里長からは、最後の時のために英気を養うよう言われていた。

 今日から残り2週間、家業は無くなり、冬休みまでだが仕事は教師としての顔だけになる。恵美は女ではあったがこの波際市に残る『居残り組』の一人だった。

 自分も残る決意をしたのは、士郎と力也がこの市に残ることを決意したからである。数年も同じ家で暮らしていれば情も沸く。

 士郎は恵美にとって弟のような存在だ。そして教え子である力也も。

 幼馴染として士郎と一緒にいたために、鬼道家ではあるが、彼もまた恵美の中で、憎むに憎めない存在になっていた。もちろん大事な弟を奪おうとする点では、相変わらず憎い男ではあるのだが。

 台所の戸を開けると中から甘い匂いがした。

 戸を開ける音に気がつき士郎がおはようございますと挨拶をしてくる。

 「おはよう。朝から精がでますな。」

 士郎が作っていたのはケーキだった。

 机には各種材料と完成したケーキが数種類おかれている。

 「全くせっかくの休日なんだから力也を誘ってデートにでも行ってきなさいよ。そういえばあんた達ちゃんとしたデートはしたのかしら。告白して終わりじゃないのよ。むしろ告白してからが恋は勝負なんだから。」

 恵美の指摘に士郎は苦笑をしてみせた。

 「恵子達にも気にしてました。」

 「そりゃあ気になるわよ。だって男同士よ。男同士なのよ。何するのよ。色々な意味で。」

 「エロ教師。」

 士郎が悪態をつく。

 それと同時にチョコレートでケーキの上に文字を書いていた少年の顔が赤くなった。素人目からしてもそのケーキはほとんど市販で売っているものと同じような出来のよさだった。

 「ああ、今年も彼氏ができなかったわ。彼氏私も欲しいな。」

 「先生がしている事を知ってしまうと、返す言葉も無いです。」

 「士郎ちゃんが今起きている事件をちゃちゃっと全部解決して。本家の嫡男として富樫の里の長に私の休暇を申請してくれればいいのに。」

 「そういえば富樫はどっちの分家なんですか。」

 「どっちでもないわよ。」

 驚く士郎にこの際だからと説明をする。

 「別に日本が全て八神と鬼道のものってわけじゃないもの。八神と鬼道の管轄はそうね関東甲信越あたりかな。富樫は忍から派生した諜報機関で、お金を貰って従事しているの。とはいっても八神家とは数百年単位で契約してるから裏切りとかも無いわね。」

 「そうでしたか。ということは他にも色々な派閥があるんですね。」

 何か気になることがあるのか少年は物思いにふけるような表情をした。

 「ところでこんなにケーキを作ってケーキ屋でもやるつもり?」

 「違いますよ。クリスマス会に向けてどのケーキにしようかと試作品を作っているんです。富樫先生は25日予定あいてますか。」

 「残念ながら空いてるわ。」

 「なら家でクリスマス会をやるので一緒に騒ぎましょう。力也と西村さんと鈴木君はくる予定です。真美と拓也も誘ったんですが断られました。」

 「二人とも忙しいから仕方が無いわね。」

 「そうですね。これよかったら味見してみてください。」

 士郎から渡されたチーズケーキを一口頬張る。

 見た目どおりの美味しさに恵美は感心した。

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