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鬼に恋して  作者: 八神
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1.3:疑惑

 仲良し3人組が去った後、オカマこと平林拓也は普段通りの仮面を被った。生活指導の保高先生が校門の前にやってきたからだ。

 相変わらず晩生なあの少年はまだ鬼道力也へ告白をしてないようだ。同性愛を否定される世の中では、自分の気持ちを隠したいのはわかる。わかるがそれは辛いことだ。ただ純粋に人を好きになっているというのに差別されるのはおかしい気もする。

 長年オカマをやっている感だが、少年の恋は脈ありだと拓也は感じていた。

 「ああん。もうじれったいわね。襲っちゃえばいいのに。」

 「ん、何か言ったか平林?」

 頭で思っていたことがつい口に出てきてしまったようだ。慌てて真面目な顔を取り繕い、いつものような声では無い男の声を作る。

 「何でもありません先生。」

 好青年のように振舞うのは正直もう慣れた。自分の見た目が悪くないせいかもしれない。大抵の人間は外面ばかり見て人の内面を見ようとはしないから優等生になるのは簡単なことだった。

 「ここにいる2年の生徒会役員は入学式の準備にとりかかるように。」

 バラバラと役員が校門から移動を始める。拓也は見た目がいいという理由で新入生のお祝いの花を制服の胸につける係だった。大学進学に有利だからという理由で生徒会に入ってみたが、正直な話肩が凝って仕方が無い。

 校舎の入り口である玄関の前に予め用意していた机を2つ並べる。受付と書かれた紙を張りいつ新入生や父兄が来ても大丈夫なように準備をする。受付の席には女性の副生徒会長と、もう一人3年の女生徒が座り名簿や名札の在庫チェックをはじめた。

 「悪いんだけど平林君。名札が足りないから体育館裏の倉庫までとりに行ってもらってもいいかな。」

 「わかりました。」

 自分で行きなさいよと言う心の声を無理やり飲み込んだ拓也は、言われた通りに体育館裏へと向かった。さっきから自分は肉体労働しかしていない気がする。女だからといって体つきなどほとんど変わらないのだからできることなど一緒だろう。

 こういう女に限って、普段はか弱いふりをしてるくせにいざ女だからとか言われると文句を言うんだわ。ああ、やだやだ。などと愚痴をいいながら裏手へと回り込む道で体育館の中を覗くと、他の生徒会の生徒によってパイプ椅子が並べられ始め式の準備が整いつつあるのが見えた。

 「ちょっといいか。」

 体育館裏の倉庫から名札の入ったダンボール箱を取り出し、元来た道を戻ろうとすると不意に男子生徒に話しかけられた。

 誰だったかしら。

 男の顔に見覚えは無い。恐らく他のクラスの生徒だろう。

 「単刀直入に聞く、さっき校門で八神士郎と話してたけど友人なのか。」

 男子生徒は周囲を仕切りに見渡し落ち着きがなかった。何かに怯えていると言ってもいいかもしれない。しかしそれ以上に気になることがあった。

 「・・・あなた、匂うわね。もしかしてお仲間さん?」

 同性愛者は匂いでわかる。匂いといっても本当にゲイのフェロモンを嗅ぎ分けているわけでは無い。男子生徒の外見や雰囲気で拓也は何となくだがこの生徒がゲイであるように感じたのだ。最も士郎が同性愛者だとわかったのは向こうがカミングアウトしてくれたからだが。このセンサーには自信がある。

 「それで話が進むならいくらでも答えてやる。そうだ。俺はホモ野郎だ。それでおまえは八神士郎の友人なのか。悪いがこっちは急いでいるんだ。」

 「ええ、そうよ。士郎ちゃんに何か御用?言っとくけど告白だったら自分でやりなさいよ。」

 「もちろんそれは自分でやる・・・じゃなくて。そうじゃない。何て説明したらいいんだ。とにかく士郎が危ないんだ。」

 「とりあえずあなたの名前を教えなさい。話はそれからよ。」

 拓也に話しかけてきた男子生徒は荻窪弘樹と名乗った。そこから先導するように少しパニックになっている弘樹から情報を取り出していく。

 「なるほど、それであなたはどうしたいの?」

 全てを聞き終わったとき拓也は弘樹に尋ねた。嘘を言っているようには見えないが、正直な話自分ですら見抜けた無かったことをその女生徒が見抜けたとはとうてい思えない。しかし優しく誰にでも平等な士郎を恨む理由が他に見当たらないことも事実だ。

 ゲイだと自覚する前の、昔の女だなんて昼ドラみたいな展開はあるのかしら。

 口には出さずに拓也は頭の中で話を整理していった。

 「今全校生徒を見てきたがその女生徒の姿は見当たらなかった。彼女を探し出して、彼にこれ以上の危害を加えないように話をつけたい。」

 弘樹から下駄箱の中に入っていたという封筒の中身を見せられたとき、さすがの拓也も驚愕した。どれ程の恨みがあればこんなことができるのだろう。画鋲程度なら肉体に与えるダメージは少ないという考えが逆に犯人の狡猾さを際立たせていた。封筒に差出人の名前は無く匿名。犯人を特定できるものといえば、筆でかれた文字と指紋そして弘樹の記憶。

 「あなた士郎に惚れてるのね。」

 「・・・ああ。」

 「わかった。犯人探し私も協力するわ。お仲間ですもんね。」

 「助かる。俺は今日はもう帰ることにする。『いじめ』られて証拠が紛失するのはまずいからな。」

 「あなた随分と男らしいじゃない。どうして『いじめ』られてるの?」

 「中学の時に友人に告白し振られたんだが・・・。その友人は同性愛者を極端に嫌っていたらしくてな。数日もたたんうちにホモだと学校中に広まったよ。」

 「それであなたはまた告白するつもりなの?そんなに苦しそうなのに?」

 「ああ、恋文は入れ忘れたけどな。このことが片付いたらちゃんと口で告白しようと思う。罵られようが嫌われようが、この思いだけは自分なりに蹴りをつけねえと消えないからな・・・。」

 ―犯人探し手伝ってくれてありがとう。―

 弘樹はそれだけ告げると倉庫から立ち去った。

 「いけない。早く私も戻らないと。」

 体育館の方が騒がしい。新入生と父兄が集まり始めているのだろう。ダンボールを抱えなおし全速力で玄関へともどる。

 「間に合ってよかったわ。もう少しで無くなりそうだったの。拓也君も新入生にバッチつけてあげてね。」

 「わかりました。」

 受付をすませた生徒たちの胸に順々にバッチをつけていると、校門の方に一台黒塗りの車が現れるのが見えた。中から出てきたのはとても堅気の人間とは思えないサングラスをつけたスーツ姿の男達。その男の一人が車のドアを開けると後部座席から見たことも無いほど麗しい少女が降り立った。

 (いけすかない小娘が来たわね。)

 周りにいる人間の反応を見て拓也は口をとがらせた。確かに少女は高校生だとは思えない大人びた魅力があったが、私のほうが可愛いと思う。

 周囲の視線を少女は気にもせずにこちらに向かって歩いてくる。その高飛車な態度が拓也の気に触った。

 「あら、あなた。指を怪我しているのね。」

 少女が受付で文字を書く際指に絆創膏を張っているのに拓也は気がついた。

 「琴を弾くものですから。」

 少女は優雅に微笑んだが絆創膏は血がうっすらと滲み出ている。少女の書いた名前はとても美しく封筒の文字と酷似していた。

 (こいつだわ。間違いない。)

 バッチを渡しながら拓也は少女を油断無く見据える。あれほどの画鋲を封筒の中にいれ手に持ったなら自分も怪我をしてもおかしくない。先ほど弘樹が言っていた少女がこの女生徒だということがハッキリとわかった。

 少女が受付から立ち去った後、受付の名簿リストを拓也は盗み見た。

 鬼道真美。

 名簿にはそう記載されていた。

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