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鬼に恋して  作者: 八神
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4.3:荻窪家

 ある日の休日。

 士郎は力也の怪我の様子を確かめに波際市にある病院を訪れた。

 主治医の話によると弾丸は背骨に弾かれて背中に埋まり大事には至らなかったそうだ。それでも弾を摘出して何針も縫う怪我を自分をかばったせいで力也が負ってしまったと思うと胸が痛くなる。

 それと同時に士郎は気づいてしまった。

 自分の親も同じように殺されたのだと。

 いくら鬼の瞳を持っていようと銃の弾が見えたとしても、体が人のものでは引き金を引くタイミングで体を逸らすしかない。もし気づけないほどの距離から撃たれたり、大勢に囲まれたとしたら少しぐらい武術をかじっていたとしても何の意味がないのだ。

 どうすれば力也の足を引っ張らないで戦えるのだろうか。

 鬼が波際市を取り囲もうとしているのが士郎の目には見えた。

 そろそろ時間が無い。真美の話だと山からは進入できないようだが、封鎖しているトンネルがいつまでもつかわからない。

 そんなことを考えながら、力也のいる個室に入った士郎は自分の見た光景に唖然とした。

 「何してるんだ。安静にしてなきゃ駄目だろう。」

 あろうことか筋トレをしていた力也を注意する。

 「見てくれ怪我はもうほとんど無いんだ。今入院しているのは、鬼道力也が銃に撃たれたのにもかかわらず、数週間で治ってしまう化け物だということを皆にばれないようにするための偽造工作ってやつだな。」

 病衣を脱いで上半身裸になり背中を向けた力也の体を士郎はまじまじと見た。

 よかった。痕はほとんど残ってないみたいだ。

 「そんなに凝視されるとさすがに照れるんだが。」

 ほっとしたのも束の間力也が士郎の肩に腕を回した。香水の匂いがほのかに香りどぎまぎする。

 「そうか俺の体にくらっときたのか。いいぞもっと近くで見てくれても。」

 「退院したらいくらでも見てやるから。今日はもう寝なさい。」

 「せっかく士郎が来てくれたのに寝てられるか。」

 「何だかんだで疲れてるように見えるぞ。緋色の瞳は誤魔化せないんだからな。ほら・・・側にいるから。」

 自分の言葉が照れくさく最後は尻すぼみになってしまった。そんな士郎を見て何を思ったのか力也が頭を撫でた。

 「ほんとおまえはよく気づくよなぁ。」

 病衣を着なおしベッドに入り込んだ力也がそうぼやく。やはり士郎が感じていた通り疲れていたようですぐに力也は寝息を立て始めた。

 「・・・何年幼馴染やってると思っているんだ。・・・馬鹿。」

 眠った力也を起こさないように小さく呟く。

 しばらく寝顔を眺めているとノックの音がした。力也を起こさないように静かに立ち上がり扉をあけると恵子が顔をのぞかせた。

 「こんにちは。あ、力也寝てるの?」

 「今さっき寝たとこ。」

 「力也も八神君が来て安心したんだね。ちょっと話があるんだけどいいかな。」

 話し声で力也を起こしては悪いと思い士郎は病室を出た。

 丁度喉が渇いていたので廊下を歩き自販機でお茶を買う。恵子は何も買わずに士郎の後につき従った。

 どことなく緊張しているような気がする。学園祭が終わったころから恵子の様子が普段とは違うことに士郎は気づいていた。

 「それで話って?」

 談話室のような広い空間においてある椅子に士郎は腰掛けた。

 「学園祭の劇の話なんだけど。」

 「ああ、西村さんが急にアドリブを始めたやつか。」

 「そうそう。実は喫茶店で話していたときにね、士郎君が話してなかった箇所を力也から聞いていたの。そこをどうしてもいれたくて、あんな語り口にしたわけ。」

 「どういうことだ。力也も、俺も。小野寺さんからその話を聞いたはずだけど。アドリブは最初の部分だけじゃなかったってこと?」

 「もう気づいてると思うけど私も八神家の分家なの。だから士郎君から聞いた話は全部知ってた。小野寺さんとは従兄弟だったしね。知らなかったのは八神清盛様が京に行かれた後の鬼若の話。来るなと言われてはいたが、鬼若は清盛様を追い京へ向かった。京に到着すると清盛様は既に帝の手にかかり死んでおられた。怒り狂った鬼若は自分の瞳を清盛様から返してもらい本来の力を解放して京を火の海にかえた。」

 「本来の力というのは?」

 「鬼道家の正統後継者にだけ伝われる伝承があるそうなの。八神家に鬼若が預けた緋色の瞳の力を鬼道家の血族のものが取り込むと、鬼若の真の姿である酒呑童子になれるんだって。力也は言っていた。」

 恵子の言葉で自分の頭の片隅に引っかかるものがあるのを士郎は感じた。

 確か父さんは火葬される時に瞳が無かった。

 平林啓太を使って八神家と鬼道家を殺したのはそれが理由だとすれば、瞳が無かったことの説明ができる。となると何に使うのはわからないが、酒呑童子を復活させるために鬼道家の人間を後は確保するだけだ。

 「力也が危ない。」

 緋色の瞳が微弱な罪の色を感知する。自体がわからない恵子をその場に残し全速力で力也の病室を目指す。

 「力也。」

 扉を開けると見知らぬ中年の男がいた。

 寝ている力也の腕を持ち上げ注射を撃ち込もうとしている。寸前で士郎が扉を開けたおかげでまだ針は腕に刺さってはいない。

 「ふっ。」

 軽く息を吐き出し一瞬で男の懐に入った士郎は、男を投げ飛ばそうとした。しかし男は軽やかに身を交わすと窓の縁に足をかけた。

 「どうりで力也が疲れているはずだ。おまえが毒を盛っていたんだな。」

 「まさか気づかれるとは思いませんでした。妻の術であなたの目に映らないようにしていたのですが、真治さんよりいい目に育っているようですね。その通りです。私は毎日毒を盛って力也君の体を麻痺させて連れ去るつもりでした。」

 「目的は酒呑童子の復活か。そんなことをしてどうするつもりだ。」

 「どうするって、決まっているじゃないですか。酒呑童子の討伐ですよ。我が荻窪家は京で暴れていた鬼若を鎮めた源氏一族の末裔でしてね。一族は罪について八神様とは違った考えをもっています。鬼若こそが全ての罪の原因で、鬼若を殺せば鬼になるという概念は無くなると。」

 「・・・そんなことをして本当に鬼は消えるのか。」

 「ここに迫っている鬼達がいるのがその証拠です。彼らは不完全ながら鬼若になった鬼道隆盛の命令を受けてここに集まっているのですよ。私を・・・、荻窪家を殺せとね。鬼若は他の鬼を操れるのです。」

 「あなたはもう包囲されてる。俺には見える。この山の周りに蠢く鬼たちが。だからもうこんなことはやめてもらえませんか。そして一緒にこの状況を変える方法を考えてくれませんか。」

 士郎の説得にも男は耳を貸さなかった。

 ただただ首を横に振り、2階にある病室の窓から飛び降りた。

 「八神君、力也は大丈夫?」

 「悪いけどすぐに富樫先生に連絡をしてくれ。荻窪家の人間が力也をさらいに病院に来ていたと。それと鬼道さんに警護をつけるように、事情はおって説明する。」

 荻窪と入れ違いで病室に入ってきた恵子に指示を出す。力也が襲われたことで気が動転し口調が荒くなった。

 力也に駆け寄るとこんな騒ぎがあったのにも関わらず彼は眠り続けていた。力也の体を鬼の瞳で観察すると、先ほどよりも炎が揺らいでいるのがわかる。毒に犯された体の症状の悪化を止めるために仮死状態になっているのだ。

 医学の知識が無いのにもかかわらず瞳は正確に力也の体調を伝えていた。

 「・・・ごめんね。」

 何をすればいいかはわかっていた。病室に飾ってあった花に士郎は手を翳す。おぼろげな記憶を頼りに花の内に湧き上がる炎を奪う。すると炎を失った花は枯れ士郎の手の平に炎が移った。

 その炎を力也の体にそっと押し当てる。

 毒で揺らいでいた炎が落ち着きを取り戻し、顔色も良くなっていった。

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