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鬼に恋して  作者: 八神
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3.4:夕暮れ

 生徒会の仕事が終わり帰宅した平林拓也は、母親の様子がいつもと違っていることに気がついた。何というか普段より活き活きしている。台所で料理を作る様子もどことなく楽しそうで、良いことがあったことが伺えた。

 「何かあったの?」

 拓也が尋ねると鼻歌を歌いながら母親の望が返事をする。

 「お父さんが帰ってくるのよ。」

 珍しいこともあるものだと拓也は思った。今年は盆にも戻ってこなかったのに仕事が片付いたのだろうか。拓也が疑問を感じるのと同時にインターホンがなる。

 その音を聞いた母親がぱたぱたとスリッパを鳴らしながら玄関まで走っていった。まるで新婚のようで、本当にこの両親は仲がいいんだと感心した。

 母親に続き、拓也も遅れて玄関へ顔を出すと数ヶ月ぶりの父がそこにいた。

 「おかえり、こんな時期に父さんが戻ってくるなんて珍しいね。」

 家ではお姉口調を使わない拓也が標準語で話しかけた。

 母親と比べ久しぶりに見た父はどことなく調子が悪そうだった。仕事で何かあったのだろうか。普段威厳溢れる父が小さく見えた。

 「すまんが母さん。仕事の関係でこっちに戻ってきたから、少しよっただけなんだ。また外に出ないと。拓也きなさい。少し散歩をしよう。」

 困惑する母親をおいて父親が家の外へ出る。

 拓也も何かただならない雰囲気を感じ靴を履き父親の後についていった。父は何も言わずに黙って拓也の前を歩いている。どこに行くかもわからず、ただ黙って拓也もついていく。

 見渡す限りの田んぼ道を二人の人間が歩いていた。

 拓也の家は学校から徒歩で1時間ほどの距離にある田園地帯にある。

 警視総監の息子だから高層マンションに住んでいるというわけでは無く、母方の実家に二世帯で住んでいた。逆に警視総監の息子だからこんな所に住んでいるのかもしれない。父親は多忙でほとんど家に帰ることもできないのだから。

 「ここらでいいか。」

 辺りを見渡し周囲に人が見えないことを確認すると父親が歩く速度を緩めた。

 それまで拓也が父親の背中を追っていたが、二人が一列に横に並ぶ。

 夕暮れ時の太陽が山に吸い込まれようとしていた。

 辺りが暗くなり始め。うっすらと星が浮かび上がる。その光景は拓也を不安にさせた。

 「正直何から話していいかわからないが、私には時間が無い。」

 「・・・どういう意味ですか。」

 「私は4年前自分を操っていた一族に仕返しをしようとして、八神夫妻と鬼道隆盛を殺害するように仕向けた。そのせいで罪が溜まり鬼になろうとしている。」

 「言っている意味がよくわかりません。父さんは人を殺したのですか。それも僕の友人の両親を?それに鬼というのは何かの比喩?」

 「ああ、そうだ。両家は平安時代から続く一族で罪を裁くことを生業にしている。日本の行政、司法機関などを影で操り、人を殺すことを肯定している。私はそれが許せなかった。だからこそそのトップを殺した。殺せばこの行いが終わると思っていた。しかし、まだその悪行は続いている。そして鬼。鬼というのは本当にいるのだ。人は罪を犯すと鬼になる。心だけではなく体も徐々に異形へと変化していく。」

 「鬼道真美・・・。」

 父親の話を聞きようやく拓也も真美が何故殺人を犯しているのかがわかってきた。

 殺害している人間は前科ありの犯罪者。罪が溜まり鬼になることを防ぐために、真美は殺人をしている。問題は本当に鬼になるのか、ただのオカルト集団なのかという点である。父親は悪行だと決め付けているが何か裏がありそうだ。

 そもそも鬼はいると言っているのに、それを食い止めている一族を殺すとかわけがわからない。大方一族を殺すまでは鬼の存在を認知できていなかったのだろう。そして殺した後に気づいてしまった。

 「そうだ。彼女は今なお殺人を犯している。そして私を殺そうとしている。だからこそ、息子であるおまえに頼みたいことがある。私には鬼道家の分家に内通者がいる。その内通者に接触してこれからの指示を仰いで欲しい。内通者は荻窪家。おまえも通り魔事件のことを知っているだろう。彼の無念を晴らすためにも・・・。」

 「はぁ、いらいらしてきたわ。」

 あまりに父親が馬鹿なのでつい素の言葉が出てしまった。

 父親だからといって、何か理由があったからといって、犯罪者の肩入れをするつもりは拓也にはまったく無かった。

 「何だって?」

 「理由が何だろうと犯罪者の手伝いはできないわ。もちろん鬼道家や八神家の肩を持つつもりも無い。私は今まで通り自分の思うとおりの行動をとらせてもらう。ダディやマミィなんて正直どうでもいいのよ。」

 「拓也待ちなさい。」

 帰宅しようとする拓也の肩を父親が乱暴に掴んだ。

 「放しなさい。」

 拓也が肩に置いた手を振り払うと思ったよりも簡単に手が離れた。

 「私の邪魔をするようなら通報するから。」

 「・・・こんな話誰が信じるんだ。」

 自嘲気味に笑う父親の顔が拓也の携帯を見た途端凍りついた。

 「少なくともあなたのことを鬼道家や八神家は許さないんじゃないかしら。それとも誰かがまた弘樹君の時のように、私の証拠ももみ消すのかしらね。」

 今までの会話を全て録音されたとわかり絶望したのか、父親が地面にしゃがみこんだ。胸を押さえているように見えるが、何をされるかわからないという恐怖があり、拓也はその隙にその場を離れた。

 士郎ちゃんやリッキーはこのことを知っているのかしら。

 拓也はふと疑問を感じた。

 彼らも殺人を犯している。いやそんな感じじゃなかった。確かリッキーは実家から離れ一人暮らしをしていた。だとするとリッキーは家の家業が嫌で家を出てきたと考えられる。そのリッキーと士郎ちゃんは仲がいいことから、士郎ちゃんは何も知らないのかもしれない。

 つまり自分の父親が自分の親を殺したことも知らないという訳だ。話をするのが筋というものだが、いったいどうやって話をすればいいか検討もつかなかった。

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