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鬼に恋して  作者: 八神
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3.2:ロミオとジュリエット

 9月が終わりいよいよ学園祭のシーズンが鳥居高校にもおとずれようとしていた。

 鳥居高校の学園祭は3日間に分かれて行われる。1日目は最後の準備も兼ねた前夜祭、2日目は学生だけの身内祭、そして3日目は保護者や学校周辺の方々に一般開放して行われる灯炎祭である。

 昨年もそうだったが学園祭の出し物を決めるのは、骨が折れる作業だと士郎は思った。

 黒板の前に立ち進行役をしている士郎は、既にだらけ無駄話をし始めた他のクラスメイト達の注意を手を叩くことでむけさせる。

 作業を難航させている理由は二つある。

 一つはクラスの出し物を二つ決めなくてはいけないという点である。全員が納得のいく様な多数決制をとっていると、これが中々に時間がかかる。ちなみに二つの出し物というのは、この教室を使った出し物と体育館を使った出し物のことだ。

 1時間ほどの白熱した討論と多数決を終え、ようやく教室での出し物はたこ焼き屋に決まった。前々からたこ焼きを作ってみたかったので、今から楽しみである。

 「では、体育館を使った出し物は何にするか意見がある人は挙手をお願いします。」

 作業を難航させている理由の二つ目は、体育館で出し物をやらなくてはならないことである。

 体育館を使うということは、劇や演奏、ダンスなどなど。普段あまりすることの無い人前に立つという経験をしなくてはならない。

 恥ずかしい。面倒くさい。

 できることならクラスの出し物の方だけをやりたい。言いだしっぺは必ずやらなくてはならないという思いがあるからか、どの生徒も案すら出さないのだ。

 「ちょっと皆、さっきのおしゃべりはどうしたの。案を考えてくれたんじゃないの。ほらほら、時間が無いんだから右から順に案を出していく。」

 恵子が自分たちから見たら左側の一番黒板に近い生徒にチョークを突きつけた。あまりの剣幕にチョークを突きつけられた生徒がびくりと肩を震わす。

 「落ち着いて西村さん。脅しても案はでないよ。」

 冷静に士郎が諭そうとするが恵子は苛々しているようだった。ちらりと時計を見るとそろそろ終業時間になろうとしている。

 今日中に生徒会に提出しないと自分達二人が考えた案でやることになる。

 だからこそ恵子は焦っているのだ。結局、昨年は力也を除いて誰も参加してくれなかったので、三人でクラスでやる出店の宣伝CMを作り放映した。

 そのことがきっかけで今のように恵子とも仲良くなれたのだが、あの労力は尋常では無くさすがに今年もやると思うとげんなりしそうだった。それでなくても恵子は夏休み明けから塾など忙しいようだし、あまり負担をかけたくない。

 「皆聞いてくれ。」

 どう説得して案を出させようか考えていると、すっと力也が立ち上がった。低い声が教室に響き、クラス全員が青年がいる教室の一番後ろの席を振り返る。

 「案が無いようなら劇をやりたいんだが皆も参加してくれないだろうか。俺一人だけで演じてもピン芸人の漫才みたいになっちまう。」

 「劇って演目は何をするつもりなの?」

 「ロミオとジュリエット。」

 力也がそう言うとクラスの全員がどっと笑い声をあげた。その声に落ち着けと両の手を指揮者のようにひらひらさせる。

 「もちろん力也がロミオをやるのよね。」

 「力也がやるなら私がジュリエットやろうかな。」

 「それじゃあ私は衣装係をする。」

 「俺は木の役で。」

 「おい、それは俺の役だぞ。」

 カリスマというのはこういうのの事をいうのだろうか。先ほどまで口を塞いでいたクラスメイト達が口々に騒ぎ出す。恵子は助かったと言わんばかりに黒板に生徒たちの呟きを書き殴っていった。

 冗談でも言った奴は参加させてやるといった意気込みが伝わってくる。

 やはり恵子も昨年のことが相当堪えたのだろう。それでも今年も学園祭実行委員をやっているのは人がいいのか。お人よしなのか。

 「ロミオとジュリエットって言っても和風アレンジだからな。台本は俺と文芸部の恵子、そして士郎で作る。配役は俺がロミオをやらせてもらいたいんだが・・・皆大丈夫か。」

 パチパチと盛大に拍手がなり力也が恭しく一礼をする。既に動きが芝居がかっていて思わず士郎は噴き出した。

 「そして俺の相方になるジュリエットだが、普通に女の子を採用してもつまらんので士郎にやってもらおうと思う。」

 恐らく自分は今間の抜けた顔を浮かべているだろう。力也の話す言葉の意味がわからない。だって俺は男だぞ。何を考えているんだあいつは。まさかひらひらした服を着て壇上で演技をしろと本気で言っているのか。力也が案を出してくれた時には助かったと思ったが、自分は今、昨年以上の危機に面している。

 「いいね、力也。その案すごくいい。」

 士郎が拒絶の言葉を言う前に興奮した恵子が教卓を叩いた。裁判官がまるで判決を言い渡す時に槌を使って卓上を叩く仕草のようだった。

 ちなみにあの槌は日本の裁判所では使っていないようだ。英語ではgavelという。

 恵子も演技をする気満々じゃないか、これは断るに断りにくい。それに何故クラスメイト達も笑みを浮かべながら拍手をしているのだろう。日本はこんなにそういうのに優しい国だったのか。

 「さて主役が決まった所で残りの配役を決めていくわよ。」

 士郎の内心の葛藤など知らずに力也と恵子がどんどん配役を決めていく。

 まあでも皆が楽しそうだからいいか。

 諦めたように一息つき気持ちを切り替えて士郎は残りの仕事をこなしていった

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