2.7:変化
夜空を色とりどりの花が彩っていた。
春は桜が綺麗で見とれるほどだったが、夏の花火もまた趣深い。皆はどこかと辺りを見渡したが、二人の女の子が騒いでいたのですぐに見つけることができた。
「たまや~。」
「かぎや~。」
並べられたパイプ椅子に座り、恵子と香織二人の女生徒が楽しそうに花火を見て掛け声をあげる。それを見ている桂の顔は緩みまくりで、こちらまで幸せな気分になった。
「八神君。間に合ってよかったね。あれ、力也は一緒じゃないの?」
「力也なら後からくると思うよ。」
先ほど自分がしたことを思い出し顔が赤くなる。答えを聞く勇気は今の自分には無かった。情けないとは思ったが弘樹を見習い自分も少しだけ勇気を出してみた。
「学校始まったらどうしよう・・・。」
「何か言った?」
「な・・・何でもないよ。」
「変な八神君。そういえば八神君はこの掛け声の由来知ってる?」
香織の質問に士郎は記憶をたどった。
「玉屋、鍵屋っていうのは実在する花火師のことだね。この二人の花火職人は好敵手で川開きの際に競うように花火を打ち上げていたんだって。」
「すごい。八神君って物知りだね。」
「おやおや香織さん。八神君を狙うとはお目が高い。」
「ちょっと恵子やめてよ。そんなんじゃないって。」
照れたように笑う香織になおも恵子が絡む。何故か酔っているような感じがした。
「西村さん何飲んでるの?」
「甘酒よ。げっぷ。」
甘酒なら仕方ないなと思い花火を見る。そして同時に緋色の瞳で周りを見た。
小野寺神社に集まった人間の中に火が灯っているのが士郎の目に映った。オレンジ色の光が花火を見たことで透き通った桃色の火にかわる。まるで桜のようだ。青い火のように嫌な感じが全くしなかった。これは成功したということだろうか。
1時間ほどの花火大会が終わりパイプ椅子を片付け終えた4人は本殿へと戻った。
「何処いってたんだ力也。」
本殿の中の宛がわれた部屋に入ると力也は既に戻ってきていた。どことなく上の空でいつもの覇気が無い。告白の件もあり何となく力也と目を合わすのが恥ずかしく桂に会話を任せた。
「ちょっと身内から電話があってそれに対応していた。」
「身内?」
「ああ、妹の付き人から連絡があってな。どうやら花火は成功したようだ。」
「あれ小野寺のとこだけじゃなくて鬼道家も花火関係してたのか。」
「ああ、そんなとこだ。あと士郎、妹が直接また話がしたいそうだ。休み中は忙しいらしいから新学期が始まったらになると思う。」
いったいどういう心境の変化だろう。考えられるとすれば花火大会で自分の罪が癒されるのを感じたという所だろうか。彼女は弘樹のことをどう思っているのだろう。
「・・・わかった。」
こうなることはわかってはいたが、何だか普段通りに話せない。
花火大会が終わったというのにまだまだ長い一日になりそうだった。




