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鬼に恋して  作者: 八神
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1.11:夢

 その日の夜眠りについた士郎は奇妙な夢を見た。

 どこかの病院の一室を士郎は覗いていた。

 白い壁白い天井、個室なのかベッドは1つしか無い。

 そのベッドの上には何故か力也がいた。骨折をしたのか足にはギブスをつけている。これは夢だともう一度士郎は思った。記憶の中の力也は骨折などしたことがないからだ。

 しかし妙にリアルな夢だった。夢なのに登場人物の顔がはっきりと見える。

 力也のベッドに顔を預けて幼い自分が眠っていた。

 その隣では母親が温和な表情を浮かべ士郎の頭を撫でている。病室の窓辺には士郎の父親もおり外の風景を眺めていた。

 「ごめんね力也君。もう一度話を聞かせてくれるかな。」

 メガネをかけた士郎の父親が力也を気遣いながら声をかけた。

 「はい。罪人を追っている最中に自動車に轢かれて意識を失いました。」

 「なるほど。医者の話では足の骨だけ折れていたようだけど、能力を使って寸前に回避行動をとったのかい?」

 「いえ、急に飛び出したので能力を使う暇も無く生身で車とぶつかったと思います。」

 「ふむ。由美はどう思う?」

 「真治さんと同じ考えです。恐らくこの子が能力を使ったて治癒をほどこしたのでしょう。現場の半径1km内にあった草木が枯れていましたから。」

 「緋色の瞳か。この子には普通の暮らしをさせたかった。」

 ため息混じりに呟く真治の言葉に由美も顔を曇らせた。

 「力也君。このことは鬼道家の人間には秘密にしてもらえるかい。俺たちは何の能力ももたない役立たずな人間ってことにしたいんだ。祭りの準備もできている。罪を祓うだけなら祭りだけで十二分だ。」

 真治の真剣な表情に押され力也が頷く。

 「後は母さん・・・士郎に暗示をかけてくれ。俺たちのことも仕事が忙しくほとんど会えないってことにしてくれて構わない。ことが終わるまで瞳の記憶とともに全てを封印しよう。士郎に鬼道家の手が届かないように。」

 寝ている士郎の耳元で由美が何か言葉を呟いた。その瞬間それを聞いていた士郎の頭に突然痛みが湧き上がった。あまりの痛さに今まで見ていた病院の景色がぼやけていく。

 ゆらゆらゆらゆら。

 蝋燭に灯る小さな火のように滲んだ世界から士郎は自分が戻ってきたことがわかった。

 「緋色の瞳、祭り・・・。」

 ベッドから士郎は上半身をおこし軽く頭を押さえた。

 頭が痛い。喉もからからだった。

 水を飲もうと起き上がり、ベッドの下で布団をしいて寝ている力也を起こさないように慎重に部屋を出る。

 階段を降り台所にある冷蔵庫をあけた時、ふと士郎は外がやけに明るいことに気がついた。もう朝かと思ったがそういう光では無い。もっと赤い火のような光が外で輝いているのがわかった。

 居間の障子を開けそっと外を見る。すると庭の中の木々が燃え上がっているのが士郎の瞳に映った。普段あまり驚いたりする人間ではなかったがこの光景には驚いた。一瞬真美が放火したのでは無いかと思ったが、実際バケツに水を汲み外に出てみるとそれが間違いだということがわかる。

 木は燃えているのでは無い萌えているのだ。

 手を木に当ててみるとそれがよくわかる。生命のエネルギーとでも言えばいいのだろうか。それが視覚化され燃えているように赤く光り輝くのが見えたのだ。辺りを見渡すと周囲の山や建物の中にもたくさんの火が燃えていた。

 一瞬心を奪われかけた。見渡す限り灯る生命の力に圧倒されかけたからだ。しかしその光を遮り光がある。青白い火が赤い火に混じって見えた。その火は周囲の火を食らい徐々に大きくなっている。この火を消さなくては。説明できない感情が士郎にわきあがる。

 考える間も無く士郎は家を飛び出していた。

 民家を走り、商店街の方まで足を運ぶ。商店街には波際市で唯一の駅がありタクシーやバスが駐車するための円形の駐車場が見えてきた。

 雨があがり水溜りになったコンクリートで舗装された道路を士郎は走る。駐車場に人がいるのがわかった。

 一人は昨日士郎達の前に現れた鬼道真美、その真美を数人の男達が追いかけていた。その男達は一様に同じ光の火を灯していた。青いとても青い色の光。その色の光に士郎は寒気を覚えた。

 これが罪人の炎の色なのだと、士郎はとっさに理解した。しかし、何故この人間達は真美を襲っているのだろうか。じっと目を凝らすと真美を追っている人間達の目が灰色に濁っているのがわかる。正気を失っているのかもしれない。火に引き寄せられる蛾のように、普通の人間の火の光を求めて集まっているように思えた。

 士郎が駐車場の物陰に隠れて様子を見ている間にも、追いかけてくる男達を少女は一人刀で斬り捨てていく。斬り捨てられた男は血を流しながら地面に倒れて動かなくなった。

 するとどうしたことだろう。その人間の青い火が消滅することなく少女の体にむかって突進していくではないか。

 少女はそのことに気づいていない。向かってくる残りの罪人を斬り伏せていく。5人ほどの人間を殺した少女は刀についた血糊を拭き鞘に収めた。、彼女の火は5人分の青い火を吸収し赤からワインのような赤紫になりかけていた。

 鬼道家は罪人を殺すことでその罪の拡大を防いでいる。しかしあの方法では力也の言っている通りに自分も罪人になってしまう。真美が鬼になることがあれば次は力也が家督を継ぐかもしれない。そうなれば恐らく力也も。どうにかしてこの負の連鎖を止めなければ。

 「終わったのか。」

 士郎が話しかけると少女はびくりと肩を震わせた。

 仕事に夢中で士郎がいたことに気がついていなかったようである。色々聞きたいことがあった。鬼道家のこと八神家のこと。そして過去に何があったのかを。

 しかし真美は士郎のことを本気で憎んでいるようだ。士郎が次の言葉を口にする前に斬りかかってきた。どういうわけか力也も真美も瞳の色が黄色になった時は、身体能力が向上するようである。

 武道経験者でも追いきることができないのでは無いかと思えるスピードで斬りかかってくる真美に対し、士郎は目を見開いた。

 頭上から振り下ろされる剣をぎりぎりまで引き付けた後に横に半歩ステップして避ける。そのまま真美の腕をとり足を払ってコンクリートの床に叩きつけた。カエルが潰れたような声が響く。

 「なあ質問があるんだけど。」

 コンクリートに穴が開くほどの勢いで叩きつけられたのにもかかわらず少女は動いていた。痛そうに頭は摩っているものの血すら出ていない。

 「痛っ。いったい何が・・・。」

 まだ意識がはっきりしないうちに真美の刀を遠くへ蹴る。話がしたいのに刀を振り回されたのでは話が進まない。

 「何で鬼道家は両親を殺したんだ。」

 「八神士郎か。貴様も能力に目覚めたのだな。しかし何故私が敵にぺらぺらと情報を話せなければならない。どうせ私は死ぬのだ。おまえも鬼に食われてしまうがいい。」

 「力也がどうなってもいいのか。」

 士郎が尋ねると真美は初めて人間らしい表情を見せた。

 「おまえが話さないならこちらにも考えがある。」

 「何をする気だ。両親の敵討ちか。拷問か。何をしても私はおまえに話などせんぞ。」

 「今俺の家には力也が泊まっている。これがどういうことかわかるか。」

 「まさか兄様を殺す気では・・・。」

 「話さなければ、寝ている無防備なおまえの兄にエッチにゃことをする。」

 真美の表情を見たとき力也で脅すしかない。そう考えた。考えたはいいが最低すぎる脅しの仕方だった。赤面ものの発言だったが効果は予想以上に出たようだ。真美は口を開け呆然としている。

 「は・・・早まるな。話す。話すからそれだけは。何というやつだ。というより兄様も兄様だ。何故こんな変態の家に泊まりになど。」

 「それで何で俺の両親を殺したんだ。」

 「何もしてない八神家が憎かったのよ。父上と母上はいつも嘆いていたわ。その手を血に染めるのは鬼道家。八神家は何もせずに利益という名の甘い蜜だけを吸ってるって。実働に当たるのが鬼道家でも仕事の報酬は八神家にも払う仕来りになっていたの。それが耐えられなかったんじゃないかしら。」

 「ふうん。何か昼どらみたいな理由だね。」

 「怒ってないの?」

 「何で俺が怒るんだよ。殺されたのは俺の両親であって俺じゃ無いだろ。」

 その返答に真美は衝撃を受けたような表情を浮かべた。それを気にせず士郎は次の質問を考える。確か夢の中の両親はもう一つ興味深いことを言っていた。

 「祭り・・・。角鎮めの祭りについて何か知っていることはあるか。」

 「その祭りは山寺神社住職さんだか神主さんだかが知ってるわよ。つまり私は知らない。あそこは八神家の分家の所有地でしょ。何であんた把握してないのよ。」

 「山寺神社か。」

 どうやら聞きだせるのはこれだけのようだ。帰ろうと少女に背を向けると大きな声で少女に怒鳴られた。

 ―兄様に手を出したらただじゃおかないんだから。―

 手を出す所か告白する勇気も無い自分はため息をつくしかなかった。

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