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鬼に恋して  作者: 八神
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1.10:相談

 「適当に座っててよ。今飲み物を持ってくるから。」

 2階にある士郎の自室へ案内された力也は、おうと返事を返しスポーツバックの中からタオルを取り出した。

 雨で塗れた体を拭い制服の上着を脱ぐ。衣装ダンスを勝手にあけハンガーを取り出すと水が床に染み込まないようにビニールを下に引いた後に部屋干し用のポールにかけた。

 片付けられた簡素な部屋。

 思えばここにくるのも4年ぶりのことだった。

 パソコンは新型になっているものの他はほとんど前に来たときと変わってはいない。本棚、勉強机、そしてベッドだけがおいてある簡素な部屋。

 部屋を一通り眺めていると、本棚の中にDVDが大量に並べられていることに力也は気がついた。ほとんどが海外のテレビドラマで連作物の作品が多かったが、その中で一作だけ単品の作品があった。

 ブロークバック・マウンテン。

 そのDVDのタイトルはそんな名前だった。

 「これって、そういうことなのか。」

 力也が手に取ろうとした時鋭敏な聴覚が階段を登ってくる士郎の足音を感知した。慌ててDVDをもどし窓の外で侵入者やストーカーがいないかどうか見張っている振りをする。

 「お待たせ。温かいお茶と炭酸飲料どっちがいい?」

 「お茶。」

 「了解。」

 持ってきた飲み物とお菓子を自分の机の上に置き、急須から湯飲みに士郎はお茶を注いだ。

 「熱いから気をつけてね。」

 笑みを浮かべて渡してくれる幼馴染に内心力也は動揺していたが、それを顔には出さずにむっつりとした表情を浮かべた。士郎もお茶を自分用の湯飲みに注ぎ椅子に腰掛けて一口飲んだ。暖かいお茶で一心地つけたのか、はぁと緩みきった表情を少年は浮かべていた。

 本当に警戒心の無いやつだなと士郎を見て思う。

 「それでさっきの鬼道真美だっけ。力也の妹さん。彼女が僕を狙っていた理由と、八神家と鬼道家の関係を聞きたいんだけど・・・。」

 士郎に話を切り出され力也は考えをまとめながら話をすることにした。そしてこれを話せばこいつとの関係も終わってしまう。そう覚悟もしていた。

 「家の家系は代々罪を犯した人間に死をあたえる家系だった。罪っていうのは窃盗とかそういう軽いものではなくて、殺人とか人を殺すという行為だな。そういうことをする人間は徐々に鬼になり害をなすと伝えられてきた。」

 「忍者と陰陽師を半分にした感じだな。」

 「まあそんな感じだな。今も警察が捕まえられない犯罪者を捕まえたり暗殺を行ったりしているんだが、人を殺すことで俺たちも徐々に鬼に囚われる。」

 「鬼に囚われる?」

 「そうだ。人を殺すことが罪ならば、人殺しを殺すことでも徐々に罪をかぶるらしい。今日まで俺はそんなことは迷信だとばかり思っていた。人殺しが鬼になるということも含めてな。」

 士郎に説明しながら少し過去のことを力也は思い出していた。

 そうだ、俺は迷信だと思っていたから逃げ出したんだ。

 家からも一族からも。

 人を殺すのは嫌だった。例えそれが犯罪者であっても傷をつければ同じように泣き叫ぶ。

 体から溢れ出る血は同じ匂いがする。

 「鬼道家だけで話が完結しそうだな。八神家はいったい何をしていたんだ。」

 「話はここからだ、聞いてくれ。八神家の役割は鬼道家が被った罪を祓うことだそうだ。幼いころに親父からそう聞いたことがある。自分達がやっていたことですら迷信だと思っていたんだ。一族の人間は自分達がその手を血に染めているのに、何もしない八神家の人間を恨んでいた。わかるか。被った罪なんて誰の目にも見えないからな。」

 一口お茶を飲みのどの渇きを潤す。

 唇が乾いてきた。ここから先を言いたくない。

 「4年前八神家の人間・・・おまえの両親が殺される事件が起きた。その事件については俺も詳しくは知らない。鬼道家の人間の誰かが手を出したのだと思い。俺は親父を問い詰めたが、親父達は士郎と仲のいい俺には教えてくれなかった。」

 「そうか親父とお袋は殺されたのか。」

 「すまん。今まで黙っていて。」

 茶碗を置き頭を床につけた。

 「いや、俺が殺されなかったのはたぶんおまえと仲が良かったからだと思う。ありがとう。俺と一緒にいてくれて。」

 そうではない。士郎の父親と母親は家の行事について士郎にばれないように気を使っていた。だからこそ親父は士郎を無害だと判断したのだろう。

 「そろそろ夕飯の準備に行くね。今日は力也もいるし天ぷらにでもしようかな。」

 椅子から立ち上がり部屋を出ようとする士郎に力也はかける言葉が見つからなかった。

 自分に惚れていた人間の死だけではなく、両親が幼馴染の親族に殺されたことを知った士郎の頭はパンク寸前だろう。おそらく俺自身ともどう付き合っていいのか図りかねている。

 「どうすればいいんだ。」

 立ち上がりまた窓を見た。

 どしゃぶりの雨はまだやみそうになかった。激しい雨音が窓の外から響いている。

 「それ以上近づいたら殺す。今俺は気が立っているんだ。」

 窓の外を眺めながら背後から近づいてきた人物に警告する。窓の外にうつる自分の目が黄色に染まっているのが見えた。まるで鬼の目のようだと吐き気がする。

 「殺して罪を被ってあなたも鬼になる?士郎が生き残るんだったらこの身を捧げてもいい。それが八神家の分家である私たちの役目。」

 「そうだなそれもいいかもな。」

 「何よ。張り合いが無いわね。さっきのは冗談よ冗談。私も鬼道家は嫌いだけどあなただけはまともだってことを知っているからね。」

 「それで何のようですか富樫先生。そんな短剣じゃ俺は殺せませんよ。」

 「化け物ね。こちらを見てもいないのにわかるなんて。ちょっと話をしに来ただけよ。鬼道家の跡取り息子はどういう行動をとるのか気になってね。たまには生徒に先生らしく助言でもしてみようかしら。今現在起ころうとしている問題は三つ。その内二つは鬼道真美が死んだ後に起こる。一つ目、今現在彼女が行っている仕事を継ぐ気があるのか。二つ目、鬼になった彼女を殺すことができるのか。三つ目、八神家がいない今あなたはどうやって仕事をし続けるのか。犯罪者を殺し、妹を殺しても結局自分の罪がたまって鬼になるんじゃ何もせずに他の人間に解決してもらうほうが楽よね。恐らく妹さんもそのつもりでやっているんだと思う。士郎と仲良くできて八神家の秘密がわかるのなら仕事を継ぎ、そうでないなら関わるなってね。」

 「状況説明しかしてないっすよね。」

 力也がぼやくと富樫は扉に手をかけた。どうやらこれ以上話をする気はないようだ。

 「考えがまとまらない時は状況を整理することも必要よ。まあ、どれもあなた次第なんだけどね。」

 扉を閉める音がして富樫先生の気配が2階から消えるのを確認した力也は能力を解除した。しばらくの間力也はただぼんやりと雨音を聞き続けていた。

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