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第3話 仮面の男(ラスト)

     5 戦いの末に……


「お前は……死んだはず」途端に、厳鬼の叫び声が聞こえてきた。東の出現に、奴も肝を潰したみたいだ。

 一方、それに対して東は、自信と気迫に満ちた声で否定した。

「私は健在だ!」と。それから、潰れた車の中にいる、あの山下にも、「大丈夫か? 西村警部補」と呼びかけた。――やはり、信二が山下に成り代っていたという訳だ――

 信二は、「はい、しかし利き腕を負傷しました」と少し苦しそうな様子だが、しっかりとした声で答えたよう。

 どうやら、大怪我だけは免れた模様。それなら、もう一人の容態も気になるところ。

「本部長はどうだ?」と訊いた。

 そうすると、こちらも無事のようで、「まだ、気を失っています」との答えを得た。

 東は、その声で一先ず安心した。

 しかし……ここで一つ、大きな疑問も湧いてくるであろう。『何故東が無事だったのか?』ということだ。

 そこで、東は、不審顔で佇む族を納得させるためにも、その理由を語ることにした。


 実を言うと、爆破現場には、田浦というもう一人の捜査官も警護に当たっていたのだ。そして、その田浦こそが手榴弾を投げようとしている山下の第一発見者で、その投下を阻止すべく男の首を殴り気絶させたのだったが、不運にも既に手榴弾が投げられた後だったため、破裂を防ぐことができず壁の落下を招いて東が危機に瀕したという経緯だった。しかし、本当はそれで話が終わった訳でなく、壁の落下直後に田浦がとんでもない行動に出ていた。何と、身の危険も顧みず、東を救おうと覆い被さっていたのだ! 故に、東の方は掠り傷で済み、今ここでその雄姿を見せることができた。――ただし、残念ながら彼を守った田浦は全身打撲で重症になってしまい、現時点でも生死の境を彷徨っている状態だ――(また一人、犠牲者が増えてしまったようだ。田浦捜査官の回復を祈るしかない……)それから後のことは、これまでの流れ通りで、信二が山下に成り済まし厳鬼の動向を探る手筈だったところ、直前まで計画を知らされず警察署に連絡できなかったので、仕方なく彼は山下として本部長の誘拐に加わり、車に乗ると同時に運転手と斉藤を眠らせ逃走を謀る、といった展開になったのだ。


 これで、一連の成り行きを説明することができたであろう。悪党どもも納得したに違いない。

 ところが、その後、「調子に乗るんじゃないぞ!」という怒声が耳に飛び込んできた。厳鬼が、邪魔立てされたため、怒りに任せて叫んだか? (やはり、大人しくお縄につく気はなさそうだ)

 とはいえ、その後の振舞いに不可解な点も窺えたのだが……。何故か、側にいた子分を羽交い絞めにして、にじり寄ってきていた。

(はて? いったい何をするつもりだ)

 一方、そんな扱いを受けては、その子分も戸惑うばかりのよう。「ボ、ボス?」と不審な顔を見せてオロオロしていたという

 どうやら、とんでもない外道のやり口を見せられているに相違なかった。奴は、手下を弾除けにして、攻め込もうとしていたのだ!

 ただ、そうなると、確かに東の方が不利になったことは間違いない。銃を構えているけれど、丸腰の、しかも標的ではない男を先に撃つことはできないからだ。又しても、奴の悪巧みに翻弄させられたという訳だ。

 そして、そうこうするうちに、徐々に接近され……とうとう仕掛けてきたかッ! 厳鬼が子分を突き飛ばし、東の方へ追いやったよう。(先ずは手下に先陣を切らせたみたいだ)そのうえ、その子分の方も、奴の旨を察したみたいで、勢い勇んで迫ってきた? (ただし、それも疾うにお見通し……)

 東はひらりと身を翻し、男の攻撃をかわす。続いて隙だらけになったのを見計らい、2度の鈍い異音とともに腹と首に強拳を見舞った。男は呆気なくその場に崩れ落ちる。するとその後、他の子分たちもこの機と捉えたようで、東に向かって突進してきた。されど、それも無意味なこと、彼に通用するはずもなかった。「おりゃー!」連続の打撃攻撃で応戦する。右足で回し蹴りを放ち、左足で後ろ蹴りを食らわせ、あっと言う間に3人を倒してしまった。

 これで後は、厳鬼だけが残った。

……と思ったが、「むっ!?」いつの間にか、奴の姿が消えていた? 子分たちだけを戦わせておいて――どうやら、戦う気など毛頭なかったようだ――その隙にビル群の奥へと走り去ろうとしていた!

(……うむむっ、仕舞った! 謀られたかッ? まさに一筋縄ではいかない族よ)

「待て!?」東は警告した。銃を向けながら……

 とはいえ、発砲は、無理な状況か? 「くうっ!……」彼は葛藤せずにはいられなかった。

 そして、結局のところ、銃を下げるしかなかったのだ!

 それでも、まだ終止符は打たれていない。東は、厳鬼を捕まえるために、すぐさま後を追ったのであった!――


 厳鬼が逃げる。一目散に逃げる。次いでその後を、東が追った。信念で追い迫った。

 けれど、逃げ込める当てがあるのだろうか? めったやたら走り回っているとしか思えなかったが。

 するとその直後、前方のビルに差し掛かったところで、唐突に角を曲がり路地裏へと入り込んだよう。

 となれば、勿論――何やら怪しい雰囲気が漂うが――東も従うまでよ。

 ところが、「むむっ?」角を曲がった瞬間、異変が起こった! たった数秒間、視線から逸れただけなのに、何と、その姿を見失ってしまったのだ!

 これには、彼も焦った。すぐさま顔を大きく左右に振って探してみる。……が、駄目だ! 見つけられない。とどのつまり、大失態を犯してしまったようだ。 

「むむっ、何てことだ!?」東は、大いに悔やんだ。

……と、後悔したものの、(おっと、まだ諦めるのは早かったようだ)――頭上で甲高い音が響いた?――鉄板を踏む上がるような音が、上から聞こえてきたのだ! あれは非常階段を上る音。

 よって、すぐさま上空を見上げてみると、まさしく仮面を付けた男が、屋上を目指して走っているという光景を目にした。

「よし、見つけたぞ!」何とか、悪漢を捕えるチャンスを再度得られたのだ。東は奮起した。そして、今度こそ逃がしはしないと決意を固め、同じく非常階段を駆け上がっていった。


 東は、どんどんと階段を上った。屋上に、思わぬ罠が待ち受けているかもしれないというのに。

 するとその時、突然嫌な心持になった。例の、忘れもしない、あの周期的なノイズが耳に入ってきたからだ。そうして、屋上に着いたところで、やはり、あの代物を目にする羽目に……。そう、言うまでもなく、〝ヘリコプター〟だ! ローターの回転音を響かせながら上空で待機していた。ただし、今回は早急な逃避だったためか、ヘリは着陸せず空中でホバリングして縄梯子だけを垂らしている状態だった。

 そしてそこに、何の躊躇いも見せることなく、厳鬼が飛び付いたよう。それから、阿吽の呼吸というべきだろうか、ヘリはそれに合わせて徐々に高度を上げていった。……となると、「むむっ?」このままでは逃げられてしまうぞ! 東は焦った。それでも、望みを捨てず、息せき切ってヘリの真下へ走り込んでいったら、何とか追いついた……。いいや、駄目だ! 一歩の遅れでもう縄梯子には届きそうになかった。これでは、捕まえられない! (うむむむっ!?)東は、呆然と佇む。

 しかし……実を言うと、そう落胆するほどでもなかった。まだ方法は残っていた。何故なら、彼には奥の手があったからだ。

 すぐさま、ベルトのバックルから細いワイヤーを引き出した。(それは、先端に鈎の付いた、十数メートルもの長さをバックル内の糸巻に収納させた特殊軟化炭素鋼。強固にベルトと繋がっていて200キログラム以上の荷重に耐えられる7つ道具の一つ)そうしてただちに、その綱を投げつけた。

 忽ち、縄梯子に絡まる。これで彼も、宙吊り状態だ。ちょうど夕日が沈もうとしている中、2人の強者をぶら下げたヘリがあっという間に大空へ舞い上がっていく光景が、映し出されていったのだ。

 厳鬼との死闘が、新たな舞台で、またも開始されたのであった!――――


 厳鬼は、急いで縄梯子を上った。それから、やっとのことで機内に潜り込み、透かさずヘリの下を覗き込む。そうすると、同様に縄梯子を上ってくる東の姿を目にした。

 やはり、名うての強者、簡単には見逃してくれなさそうだ。

 仮面男は、憂慮した。

 ならば……

――唐突に2発の銃声を響かせた!――容赦なく東を狙い撃ったのだ! 彼の進行を止めるべく、厳鬼は機内にあった銃を手に取り、ヘリから身を乗り出し撃っていた。これで終焉を迎えられるに違いないと……

 しかし、そう上手く当たるはずもなかった? 間一髪、惜しくも弾は、東を掠めただけで終わったよう。

「ええい、クソー!?」故に、厳鬼は悔しがった。それでも、諦めるという言葉を知らない悪党よ。もう一度狙えば命中させられるかもしれない、との思いに駆られて、さらに1発の弾丸を東に見舞っていた! 

 すると、今度はこの発砲で……東の姿が掻き消えたかぁ? 縄梯子にいたはずなのに、影も形もなくなっていた。……ということは、まさか、弾が当たって落下したという結末か?――何という呆気なさだ。とうとう彼をこの世から葬ってしまったようだ!――

 厳鬼は、この終幕に満足した。口元を緩めながら縄梯子を機内に収容する。

 ところが、その直後、嫌なものが目に入ってきたか? ヘリのスキッド部に纏わりつくように垂れ下がる、黒い影だ!

「ちっちッ!?」

 そう、つまり、紛れもなくヘリの足にしがみつく東の姿だった!――どうやら彼は、弾を避けると同時に飛び移っていたのだろう――

「しぶとい野郎め!」となれば、忽ち厳鬼は顔を顰める。漸く排除したと思ったのに、それが一瞬で難事に変わったのだから。それでも、嘆いている暇はない。東は、その俊敏な動きで、もうドアに到達しそうだ。早く、前進を止めなければ、攻められてしまうぞ!

  そこで、今度こそは仕留めようと意気込み、銃を持つ手を大きく外に出して狙った。……が、これも、駄目か? その企てを見抜かれていたようで、瞬く間に腕を掴まれ銃口を逸らされてしまった。こうなると、命中させることなど不可能に等しい。

 しかし、そうだとしても、「なにくそッ!?」厳鬼は気後れすることなく――それがこの男の性というべきか――勢いに任せて連射したのだった! 

 そして結局は……やはりそんな弾が東に当たるはずもなく、ただの無駄玉になってしまったか?

……と思いきや、いいや、今回はそれで済まなかった。その不用意な発砲がとんでもない結果を齎したのだ!

――何と、機体の下部に被弾して、数個の穴を開けてしまったではないか!――しかも、その部位は燃料タンクだった故、ただちに液体が噴き出す。

 これは……大変な事態になったぞ! どんどんと燃料が漏れ始めたのだから。このままでは、ガソリンが底をついて墜落してしまう。

 けれど、そうは言っても、今の厳鬼には先のことを心配する余裕はなかった。何故なら、今もなお、東からの反撃を受け続けていたからだ。[抵抗する間もなく銃を持つ手をヘリのドアに叩きつけられ、飛び道具は地上へと落下。さらにそこから、東の強拳が飛んできた]それでも、足場が悪いこともあり、何とかその攻撃を凌げた。そして結局は、ヘリから落とそうとする、もみ合いの争いに発展する。

……とはいえ、その間にも燃料は漏れ出ていた。残り時間も、あと少しだ! それなのに何たること。2人の兵士は、いつしか街中を過ぎて海に面した崖の上空を飛行しているヘリの上で、命を懸けた戦いに固執していたのだった!


 ただし……そうした争い事も、終了させなければならない時が来るもの。

 突如、異常な振動が発生すると同時に警告音がけたたましく鳴り響いた! 

――遂に燃料が底を尽きかけ、エンジン出力レバーも利かなくなってきたのだ!――。まさしく……時間切れ! もう、助かる余地などなくなった!?

 ところが、ここで、ある幸運な光景を目にする。微かな望みにも思えるのだが、眼下に広がる崖の頂上に平地を発見したのだ。(そこなら辛うじて着陸できそう)加えて、パイロットもその場所に気づいたようで、早急にその地へ向かおうとしていた。

――ならば、急いでくれ!――

 だが、次の瞬間、より激しく機体が振動し始めたかッ? そのうえ、エンジン音も奇妙な音に変わった?……

 すると、その途端、とうとう恐れていたことが起こったのだ!

 機体が急速に高度を下げ始め、操縦士が必死にレバーを操作しようとしても……全く機首を立て直せない状況になっていた!

 これでは、ただの落下する金属の塊、どうすることもできない。

 しかも、そう悟った直後に、絶望的な光景も目の当たりにしたではないか!

――何と、地表が、すぐ目前に迫って来ていたのだァー!――


〝もう……助からない?〟


〈うわあああっーー!?〉


――忽ち、耳を劈く爆裂音が、四方八方に轟き渡った!――とうとう、ヘリが墜落して爆発炎上したのだ! 壮絶な火炎を噴き上げ、辺り一面に火の粉を舞い上がらせながら。

 こうなると、どう踏んでも乗員は助からないであろう。機体は崖の中央で、燃え盛る高熱の炎と止め処なく発生する黒煙に包まれていたのだから。

 だが……そんな中、少し離れた岩場の奥で、何か黒い影が動いたようだ

 すると次に、その影はゆっくりと立ち上がり、炎の光に照らされながら顔を天に向けた。

 そう、彼は生き延びていたのだ!――言わずと知れた東九吾だ!――衝突の瞬間、辛くもヘリから飛び退いて難を逃れていたか! しかもそれだけでなく、崖の先端にも人影を目にする。

 もしやあれは……厳鬼か? どうやら、奴も無事だったみたいだ。結局、東と厳鬼だけがこの荒地で助かる運命だったよう。とはいえ、この場所は海に面した切立った崖だ。しかも、50メートル以上もの高さがあるのだから、もし足でも滑らせたら真っ逆さまに落ちて命がなくなるであろう。戦うとすれば、とんでもなく危険な所だった。……それでも、止める訳にはいかない。決着をつけなければならないのだ!

 よって、先陣を切ったのは――逸早く東の存在に気づいた様子だ――厳鬼の方か? ただし、急いで逃げる仕草を見せた。(一旦退いてから、その後に隙を突こうという腹積もりだろう)

「待て!」それなら、用心しながら止めるまでよ! 東は、そう叫ぶと同時にガンホルダーから銃を抜いた。

 そうすると、厳鬼の方は硬直したかのように立ち止まった。続いて降参したとでも言いたげに――銃はないが右手にステッキを持って――じわじわと両手を上げたという。(どうやら、これも想定内?)

 だが、ここで奇妙な動きを目にする。奴は手にする杖の先端をゆっくりと東の方へ向けたような?……

 と、その直後、――1発の銃声音が轟いた!――何と、予想もしない、厳鬼が発砲したのだァー! (やはりそう来たかッ? 奴の持っていたステッキは仕込み銃だったのだ!)

  しかし……心配御無用。一瞬、東も慄いたが……すぐさま目にも止まらぬ速さで真横に飛び退いていた。彼の眼力が勝り、何とか危機を回避していたのだッ! ⦅東はそれほどの強者。そうそう容易くられはしない⦆

 それにしても厳鬼とは、全く卑劣な奴よ! 奇襲攻撃を仕掛けてくるなんて……

 ならば、情けはいらない。次は東の番だ!

――銃声音を響かせる!――彼は、身を横たえながらも発砲していた。厳鬼のステッキを華麗に撃ち落とす。

「もう諦めろ!」それから、今度こそ悪足掻きは無駄だと諭した。

 流石にこうなると、厳鬼も負けを認めるしかないだろう。肩を落とし、おどおどした様子で、逃げられないことが分かっていようとも、前を向いたままズリズリと――後ろは崖なのに――後退する姿を見せていた。

 どうやら、漸く幕を下ろせたみたいだ!

 東は、ほっと胸を撫で下ろしたのであった。



        6 偽りの仮面 


(長かった1日も、遂に終わりを迎えたか……)

 東は、ゆっくりと厳鬼に近づいていった。既に夕日も落ちて空が薄暗くなってきた所為で足元が覚束おぼつかなかったものの、これでやっと奴を逮捕できると思いながら進んでいったのだ。

 すると、ここで、唐突に厳鬼の声が聞こえてきた。何を言っているのか風の音で聞き取れなかったが、頻りに訴えている様子だ。しかし、相手にしている暇などなかったため――暗闇が迫ってきているのだから――無視を決め込み、歩を進めた。

 それでも、近づくにつれ、その声ははっきりと聞こえてくるもの。それが、とんでもない話だったとしても……

「俺は、俺は本物の厳鬼ではないんだァー!」


(…………!?) 


「な、なんだとォー!」まさしく奴は、吃驚仰天きっきょうぎょうてんする暴露話を叫んでいたのだァー!

 そしてさらに、「俺は厳鬼の、影武者だ! ヘリに乗る前に入れ代わり、命令通り動いただけだ」と詳細な話までも語ったという。

 何てことだ! これには東も、心底驚いた。そして、もしそれが本当なら振り出しに戻ったも同然、新たな死闘がまたも繰り返されるではないか! と今更ながらに仮面男を凝視しながら――しかし、どう見据えても、目の前の男は厳鬼にしか見えなかったのだが――嘆いた。

 それなら、今一度あの時のシーンに立ち返って、(要するに、逃げていたあの一瞬にビルの非常階段ですり替わったというわけか?)と考えてみたものの……予想通り、到底真相に辿り着かなかった。あの瞬間、彼は仮面男を見失っていたのだから。それに、奴が本当のことを言っているとも限らないという疑念も湧いてきた。何故なら、この界隈かいわい切っての悪党だったため、もしかするとただの撹乱作戦かもしれないからだ。

 そこで東は、もう少し確信を得るために肝となる質問を投げかけることにした。

「お前が厳鬼でないと言うなら、本物は誰なんだ?」と。

 そうすると、仮面男は目を伏せた。やはりその質問はタブーだったに違いない。返答することを迷っている様子だ。(その事実をバラせば、どんな制裁が待っていることやら)とはいえ、その反面、はっきりと名を告げなければ、己が大悪人に仕立てられると感じたはずだ。そのため、少し間をおいてから――もう観念したに違いない――口を開き始めたか?

「そ、それは、かっ、か――」

 ところが、その時だ!――突然、銃声音が鳴り響いた!?――1発の銃弾がどこからともなく飛んできたのだ! そして、信じられない事態を招く……何と、〈ぎやぁーー!?〉仮面男を、射貫いてしまったではないかァー! しかも、それだけで終わらず、その凄まじい弾丸の威力によって男の体は後ろへ追いやられたと思ったら、(そんな、まさか!……)崖の頂上から遥か下方の海へ、真っ逆さまに落とされてしまったのだァー!

「むむむっ、何てことだ!? してやられたッ!」しもの東も、これには驚嘆した。漸く、大悪党の素性を知る手掛かりが得られる寸前だったのに……。だが、そんなことを言っている場合ではなかった? 〝次は自分自身が撃たれるかもしれないからだ〟そのため、彼はすぐさま岩陰に身を隠し状況を探った。

 すると、その後に銃声は聞こえてこなかった。どうやら、東を狙う余裕がなかった?

……となれば、じっと留まっている訳にもいかない。東は――兎にも角にも、真実を知ることも使命の一つであった故――危険を承知のうえで落下した男の生死を確かめるために崖の縁まで進んだ後、真下を覗き込んだ。

 けれど、その場は広大な海。波の音に漆黒の闇ともなれば全く様子が窺えず、仮面男の姿等、見える道理もなかった。要は、完全に敵の術中に嵌っていたという訳だ。それなら――続いて、最も知るべき疑問が脳裏を駆け巡った――スナイパーはどこにいるのだろうか? 東は辺りを隈なく見渡してみた。……が、奇妙なことに見晴らしの良い高地であるにも拘らず、人影は見当たらなかった。というより、それ以前の問題として、そもそもこの崖にスナイパーが潜んでいるとは考え辛かった。何故なら、この地は人が入り込むには相当困難な所であるため、短時間で狙撃手が現れることなどあり得なかったからだ。

 東は、首を捻った。

……と、その直後、ヒントと思える出来事が起こったか? 薄暗い空中を、まるで縫うように奇怪な物体が飛翔していた!

「あれは、鷲、なのか?」ただちに、推測される名が口をついて出た。だが、よくよく見れば、やはり違っていた。明らかに人工物! そう、あれは……パラグライダーだ! 海側に向かって悠々と飛行していた。まるで、暗闇に包まれた水平線を目指しているかのように……

 東は、その光景を見定めながら、(もう、これまでか?)と断念した。そして、銃を下げた後、ポツリと呟いた。

「船の捜索手配で、何とか逮捕できればいいのだが」と。

 それでも、その目にはまだ闘志を漲らせ、離れ行く小さな物体に焦点を当てていた。

 そんな中、背後から微かなサイレン音が聞こえてきた。加えて、下方に広がる遥か遠くの地表で――〝まるで二対の豆電球〟とでも言おうか――何列も連なって進んでくる光の和も目にした。

 それは、パトカーのヘッドライトであろう。この戦いの、終わりを告げるかのように近づいてきていたのだ。


 東は、これまでの長い戦いを回顧しながら、すっくと立ち上がった。それから、崖の上で燃え盛るヘリの炎に照らされつつ、傷に布を充てがい――今気づいたが、ステッキの発砲で上腕に掠り傷を負っていた――町の灯をじっと見続けるのであった。




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