表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

第3話 仮面の男(4)

      4 悪の策略


 一人の男が、ゆったりと大通りを歩いていた。

 大地を確りと踏み締め、まるで辺りに己の存在を知らしめているかのごとく歩を進めていたのだ。

 するとそこに、1台の車がどこからともなく現れたという。そして男に接近したなら、歩道の脇に止まり、

「おい、山下、済んだか?」と声をかけてきた。車の後部座席に座っていた、強面の斎藤が話しかけてきたようだ。

「へい、終わりやした」ならば、歩いていた男は、そう快活に答える。それから車に乗り込み、どう見ても一般人ではない風貌の2人が並んで座ったところで、車はまた走り始めた。

 続いて、斎藤はさらに問いかけてきた。その事実をどうしても確かめたいみたいだ。

「東を殺ったのか? 上溝はどうした?」と。

 男は、いかにもわざとらしく微笑んで答えた。

「東はコンクリートでペシャンコですわ、たぶん生きてないですな。上溝は捕まえて監禁してますわ」と。

 そうすると、「よし、よくやった。しかしこれからが本番だからな、気を入れろよ」と言った。

 どうやら、この斉藤という族は、山下を拾う目的で車を流してたようだ。

 車は、厳鬼たちと合流するためであろう、先を急いだ。


 午後2時ともなれば、銀行の業務は比較的多くの客が来店するため多忙になる。

 ここ、某銀行の支店でも同様だった。色々な人々がそれぞれの事情で受付に殺到していたのだ。OL風な女性、個人事業主、主婦らしき人等々……

 だが、そんな中に一風怪しげな男の姿もあった。ボストンバッグを持ち、野球帽とサングラスをつけて、さらにロングコートまで羽織った出で立ちで、他の客と同様に順番を待っていた。

 すると、その数分後に、漸く番が回ってきたようだ。その男は、徐に受付に近づいたなら、事前に用意していた封筒をポケットから取り出し、「すみません、これを支店長に渡して下さい」と言って、行員に手渡した。

 行員の方は、何の疑問も抱かず――客からの要望とあれば従うのであろう――「はい、少々お待ちください」と言ったのち、ただちに店の奥へ向かい支店長らしき男に封筒を渡した。これで何とか、支店長の手にメッセージが届いたという次第だ。 

 サングラス男は、ほぼ仕事が完結したと思い、微笑んだ。 

 ところが、支店長が封を切って書かれた紙を見た途端、何故か顔色が変わりブルブルと指を震わせたようだ。しかもその後、忙しなく行員たちに指示し始めた。はて? 明らかに様子がおかしい。それから彼は、かなりの客が来店しているにも拘らず、他の客を無視してサングラス男の近くまで寄り、少し距離を取ってから変に小声で言った。

「少し時間をいただけますか?」と。

 男は、疑問に思いながらも、全く動じることなく「はい」と一言だけ答えた。そして、バッグを持ったまま悠然と佇むのであった。

 

 警察署の正面入り口には、常時2名の警官が配置されていた。彼らは車の通行も少なくない活気のある本通りを前にして、警護に当たっていたのだ。

 ただし、今日も相変わらず平和な午後が単単と過ぎているだけで、何の事件も起こりそうになかった。2人の警官は、のんびりとした気分で職務を果たしていた。

……と思っていたのだが、「えっ!」次の瞬間、とんでもないことが勃発した!

――大爆音が轟いたのだ!――道沿いに駐車していた車が、突如爆発炎上したではないか!

「な、何だ? 何が起こった!」これには、流石に警官たちも驚いた。よって、すぐさま燃え盛る車に向かって走ったことは言うまでもない。同時に署内で待機していた警官3人も、この爆発音を聞きつけたのか、血相変えて飛び出してきた。よもやこんな所で唐突な爆破が起ころうとは、思いも寄らなかったに違いない。

 そして、現場に着いたところで、警官たちはすぐに原因を探ろうと試みた。ただし、酷く破壊された車は炎の塊と化し、そのうえ黒煙がもうもうと立ち上っているため、そうそう生身の人間が簡単に近づけるものではなかった。彼らは、どう対処しようか迷った。

……が、そんな中、新たな異変が発生した? 何故かガスの噴射音が聞こえ、白煙までも辺りに漂い始めたような。いったい何が起こっている? と思った途端、今度は目を開けていられないほどの激痛に襲われた。……ということは、まさか?――漸くここで、事態を飲み込んだか?――「これは……催涙煙!」そう、襲撃の始まりだったのだ!

 忽ち、鈍い発射音が聞こえた。(そして、結局はそうなる筋書きだった?)警官たちは意識が遠ざかり、あっという間に倒れてしまう。(麻酔弾を撃たれ、敢え無く動きを封じられたよう)

 ならば……この一連の悪事を仕掛けた者は、いったい誰だ?

 煙の切れ目からゆらりとその姿を見せた。手には蛇頭を模した取っ手のステッキを持ち、仮面の上に誂えたガスマスクを付けて。

――言わずもがな、厳鬼の登場だったのだ!――


 一方、そんな騒ぎを、警視も目にしていた。ただし、彼の方は今しがた役所で行われた午前の定例会議から帰ってきたばかりで――しかも、部下との連絡が取れないままこの襲撃に遭遇したため――全く状況が分からなかった。そこで、先ずは部下たちと情報を共有すべく、100名以上が控えているであろう大部屋へ移動することにした。

 警視は、1階駐車場を後にして、息せき切って廊下を走った。そして、どうにか部屋に辿り着く。だが……内部に入った途端、「はっ?」目を丸くした。大広間でも、異変が起こっていたのだ! というのも、通常その部屋は、大勢の警官がたむろしているはずなのに、今日に限ってたった数名・・しかいなかったからだ。

 故に警視は、呆然としながら、「どうなっている。他の署員はどこだ?」と思わず声を漏らした。

 すると、部下の1人が焦り気味で答えた。

「今日は、緊急の要請で皆出払ってます。署内に残っているのは我々と、会計課にいる30名ほどの者だけです」と。

「何?」けれど、それは納得のいく答えではなかった。何故なら、警察署内には数百名以上の警官がいるのだから。そのため、警視は今一度、

「ほぼ全員が出て行っただと?……。いったい、彼らはどこへ?」と問いかけるしかなかった――


 漸く、通報を受けた警官たちが、某銀行の支店に到着していた。

 そしてそうなると、入り口にいた客たちは、その殺気立った警官たちの姿を目にして騒ぎ始め、同時に支店長らは警官たちの元へ駆け寄り、怪しい男を指差して受け取った封筒を見せてきた。どうやら、これから大捕り物の幕が開けそうだ。ただし、肝心の男の方は、何故かまるっきり留意する兆しを示さないままで、素知らぬ顔をしていた。

 それなら、今のうちに包囲しようと警官たちは考え、徐々に男との距離を詰めていった。そうすると、その物々しさに周りの客が慌てて飛び退いたことで、やっと男も気づいた様子だ。

「えっ! なになに、どうしたの?」とオドオドした態度で、弱々しく言った。

 だが、警官は容赦しない。すぐさま拳銃に手をかけて怒鳴った。

「バッグをゆっくり置け! それが済んだら両手を上げるんだ」と。さあ、遂に犯人との戦いが幕を切って落とされたか? この凶悪犯が何か仕出かす前に、素早く取り押さえなければならなくなったのだ。警官たちは緊張した。

……と、思ったのだが、

「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕が何をやったっていうの? 関係ないですよぉー」と何故か怯えた口調で怪しい男は弁明し始めた? そのうえ、意外にも素直にバッグを置き、手を真直ぐに上げたよう。

 はて? これはどういうことだ。何か変だ。余りにも簡単に事が進み過ぎる。警官たちは一瞬、言葉を失った。そこで、今一度、男の真意を確かめることにした。

「爆弾はどこだ?」

「ええー! 爆弾て、何のこと? 僕はただ頼まれただけのバイトですよ!」

 はあっ? 今度は全く話が合わなくなったぞ。これには、警官たちも迷った。それでも、油断はできない。嘘をついている可能性もあるからだ。彼らは、さらに問い質す。

「お前、爆弾犯ではないのか?」

「ち、違いますよ! 冗談じゃない」

「それなら、バイトだと言ったが、何を頼まれた?」

「はい、ここの支店長に日頃お世話になっているから贈り物を届けて欲しいと言われたんです。それで、誰が来たか支店長に分かるために帽子とサングラスとコートを渡されて身に着けろと……そうそう、それから、まず最初に封筒を渡すよう言われた訳です」

 一見それらしい答えではあった。とはいえ、警官は納得し難い。ならば次に、男の持ち物を調べてみることにしたが、爆弾どころか危険な物さえ持っていなかったという結果に。

「うーん」警官は思わず唸った。何とも不可解な捕物劇に対処の仕様がなかったのだ。結局、彼らは呆然と立ち尽くし、その脇に置かれた、多量の蜜柑が詰めこまれたバッグと男の渡した封筒の紙を見つめるだけだった。しかし――バッグは問題ないとして――その紙には、はっきりと『警告、爆弾あり、金を出せ、俺に危害を加えると振動で爆発する』とタイプされていたのであった。


 そして、警察署では、

「先ほど、銀行から爆弾予告の男がいるということで出動しました」という署員の声を警視が耳にしていた。

 だが、それでは理解ができなかった。数百人の警官が消えた理由にはならないからだ。

 ところが、その後、その署員が、

「ただ、おかしな話なんですが、26の支店と他に50余りの金融機関から同時刻に爆弾予告されたという要請がありまして――」と言ったことで、事の次第が全て解明したのだった!

「な、なにッ? 26と50……。そんなに多くの銀行から同時間に爆弾予告が入っただと?」警視は、その言葉に驚嘆した。と同時に、(仕舞った! そういうカラクリだったのかァー!)と悔やんだ。

 どうやら、知らぬ間に、思いも寄らない大人数を動員させる企てが厳鬼たちによって仕組まれていたという訳だ。

 となれば……今更ながらだが、こうしてはいられない。是が非でも奴らの侵入を阻止しなければならなった。そこで警視は、もう一度念を押して訊いてみた。

「署内には、本当に40名足らずの警官しか残っていないのか?」と。

 そうすると、署員が、「そうです……。あっ、でも、今日は本部長が上の階にいらしてます」と答えたのだが、その声を聞いたところで――既に手遅れだった?――とうとう催涙煙が部屋に進入してきたのだ。

 よって、もう部屋の中にいられなくなったか?

 煙が目と鼻に入り、涙と息苦しさで堪え切れなくなり、すぐさま部屋の外へ……

 とはいえ、その後はやはり予想通りの結果に。数発の発射音がして、無慈悲にも撃たれてしまった。そして、警視を含め全員が気を失い、その場に崩れ落ちた。要は、気づかぬうちに策を講じられ、いつの間にか厳鬼の軍門に下っていたという訳だァー!


 どうやら、大方の警官を眠らせたようだ。

 厳鬼は、口元を緩めて悠々と廊下を歩いていた。己の力だけで、完全に警察署を掌握したのだと満足しながら。

 しかし……ここで一つの疑問が湧いてくるだろう。『何故これほどまで大胆な行動を起こさなければならなかったのか?』という解せない動機だ。だが、勿論それには理由があってのこと。厳鬼には達成させなければならない、ある目的が存在していたのだ。

 悪の一団は1階を物色し始めた。そしてそれが終わると、上階に向かって進んだ。

 すると、上ったところで誰かが壁の隅に隠れて事態を窺っている姿を目にした。どうやらそれは……本部長のようだ! ならば、ただちに麻酔弾を発射する。本部長は呆気なく倒れ込んだ。そうして後は、その顔を確認してから、「こいつを運び出しなさい」と厳鬼が指示を出した。そう、つまり、これこそが仮面男の目的だったのだ。〝警察署に押し入り本部長を拉致したうえで、手荒れな方法を使ってでも彼から内部事情を聞き出そうと考えいた〟

 故に、第一段階は成功を遂げたか? 後は、本部長をアジトへ運ぶだけだ。

 そこで厳鬼は、斉藤と先ほど合流した山下にその移送を命令した。建物の外では、既に3台の車も準備させている。

 そして、厳鬼は手筈通り素早く移動し、2人の子分とともに先頭車に乗り込んだ。次いで真ん中の車には本部長とともに斉藤たちを乗車させ、残りの4人の子分を最後尾に乗せた。ちょうど本部長を乗せた車両を挟む格好で、3台の車が走り出したという訳だ。

 これで漸く、署内での蛮行が完了したのだ!


 厳鬼は、後部座席に深々と座りながら誇らしげに語った。

「ははは……これで警察の無能さが民衆に知れ渡ったわね。警察など、私の敵ではないということも分かったでしょう」と。

 確かに……そうであろう。己の計画を完遂し、その強さを証明できた訳だから。しかも、この悪業で厳鬼は裏社会から一目置かれるカリスマになったも同然か? 勢力拡大に繋げることも可能な状況となった。一方、それに対して警察は、誰も厳鬼の悪事を止められなかったことで、かなりの汚点が生じたに相違ない。厳鬼は、警官らがさぞかし腹に据えかえたであろうと思いながら、彼らの苦虫を嚙み潰したような顔を思い描いて高笑いするのであった。

「くわっはっはっははははぁぁ……」

 ところが、その直後、突然厳鬼の体に衝撃が加わった! 予想もしない激しい衝突で、前方へつんのめったのだ!

(うぬっ! どうした?)よって厳鬼は、何が起こったのか分からず焦った。……が、その後すぐに、部下の不注意で後ろの車がぶつかってきたのだろうと判断を下す。

 そこで、愚かな部下を戒めなければならないとの思いから、即刻止まるよう後続車に合図を送った。

 だが……「ぬっ?」何故か、車は静止しない。

 否、それどころか――金属の軋む衝突音が響いた!――またも、強大な力で突っ込んできた?

「うぬぬぬぅッッ!?」

……ということは、[漸くこの時点で厳鬼も悟る]この難は、部下のミスではなく、〝反乱〟だということを……(どうやら、配下の中に敵が紛れ込んでいたようだ)

 となれば、当然ながら怒り心頭に発する。そして、もうこれ以上好き勝手なことをやらせておく訳にはいかないと危惧し、すぐさま隣に座る運転手に回避行動を取るように指示した。

 だが、そうは言っても、後方から攻められているのだから、なかなか相手の攻撃をかわすのは難かしかった。そのため、何の対策も講じられないままでいたら、「うくくっ……!?」何と、これまで以上の強力な押し出しを貰い――鉄の塊が潰れる衝撃音とガラスの粉砕音が鳴り響いた!――道路脇のビルへ激突させられてしまったではないかァー!

 忽ち、ボンネットが拉げるとともにフロント部もグシャグシャに砕けて、ラジエーターからも水蒸気が噴き出した! 所謂、走行不能な状態に陥る。しかも、その間に本部長を乗せた車は一気に走り去っていったという。

 何ということだ! 結局、蓋を開けてみれば、とんでもない失態を演じさせられていたのだ!

「うくくくくぅッッ!?」厳鬼の怒りは極点に達した。

 しかし……これぐらいでの障壁で懲りる族でもなかった!

 仮面男はすぐさまドアを抉じ開け、外に飛び出したなら、トランクからロケットランチャーを引っ張り出した。そして、真横で止まっている――最後尾の子分たちも途方に暮れていたであろう――もう1台の車へ飛び乗った途端、高々と号令を発した。

「行けぇぇー!」

 逃げる本部長の車を捕まえるため、エンジンをフル回転させて突っ走ったのだ!

 さあ、生死をかけたカーチェイスの始まりだ。ランチャーを持って追い迫る厳鬼と、必死の逃走を試みる反乱車との追跡劇が、今ここに幕を切ったのであった!――


 厳鬼たちは追い迫った。どんどんと距離を縮めながら。

 すると……いつの間にやらほんの真後ろまで接近していた。たぶん前車も、衝突の影響を受けていたのであろう。それほど速く走れないのかもしれない。これは好都合な展開になったような? 厳鬼たちは一気に追い抜くことができると判断し、なおもスピードを上げた。

 そして、何とかサイドに並ぼうと……

 が、その時――突然、大音量のクラクションが耳を劈いた!――危ない!? 対向車だ。

 運転手は慌ててブレーキを踏み、ハンドルを大きく左に切る。途端にタイヤのスリップ音がけたたましく鳴り、強烈な横Gを受け、体が一瞬、宙に浮く。辛うじて……正面衝突だけは避けられたか!

 全く以て、瞬きも許されないぎりぎりの追跡劇だったのだ!

 それなら――ここで厳鬼は、ふと思い立つ――〝不運な事故〟を招かないためにも、より過激な手段に打って早く決着をつけようと。

 それ故、「もう少しだ、もう少し近づけなさい」と運転手に指示しながら、車の助手席から半身を出しランチャーで狙いをつけた。つまり、一気に爆破して終わらようという筋書きに変更した訳だ。しかも、ちょうど2台は、狙い易そうな広い大通りの――横道も見当たらず、直進するしかない――真っ直ぐな道路に出ていたため、実行するには絶好の機会だった。さらに付け足せば、厳鬼の手にするランチャーは強力な対戦車用、これが当たれば車など一溜まりもないので一瞬で終了させられるのだ。

 よって、準備は整ったかッ!

 厳鬼は、慎重に狙いを済ます。

 そして、指を引き金にかけたなら……息を詰めて、容赦なくトリガーを、引いたァー!

――途端に、猛烈な噴射音が響き渡り、白煙を激しく吐きながらロケット弾が発射された!――とうとう、前車に向かって強力な矢玉が放たれたぞ。これでもう、敵車は一巻の終わりだ! 木端微塵に噴き飛ぶしかない。

 が、そう期待したものの……一瞬、嫌な予感が走る。徐々に反れ気味で、このままでは当たりそうもない気配……と思ったが、やはりそれは要らぬ心配だったか? すぐに軌道修正し、ターゲットへまっしぐら、あっという間に突っ込んでいった!

――忽ち、凄まじい爆発音が轟いた!――ちょうど後部タイヤに命中して、巨大な炎と猛烈な爆風を発生させたのだ。

 すると、車体は呆気なく宙に舞い上がり、[火達磨になることだけは逃れられたよう]それから天地がひっくり返ったと思ったら――耳を劈く壮絶な激突音を響かせた!――何と、天井から地面に叩きつけられていたではないか! そしてそれだけで終わらず、まだ衝突のパワーが尽きていなかったようで、道路と金属の摩れる甲高い音を姦しく鳴らすと同時に摩擦で発生したおびただしい火花を撒き散らしつつ、何十メートルもの道をズタズタにして滑っていったという……

 とどのつまり、とうとう本部長たちの乗る車は見るも無残な鉄屑となってしまったのだ! 裏返ったまま、ガラスが全て粉々に砕けたことは言うまでもなく、フロント部も強固なピラーが潰れた所為でペシャンコにひしゃげて。

 これでは、搭乗者の生存も危うくなったに相違ない。本部長たちの、無事な姿は見られるのであろうかッ?


 厳鬼は、この光景を目にして、ほくそ笑んでいた。これでやっと、追跡劇が終わったことで反逆者を捕えることができるのだから。

 そこで、先ずは反逆者の生死を確かめるため、マシンガンを片手に慌ただしく車から降りた。それから、潰れた車に仁王立ちで相対したなら――何発もの連続発砲音を鳴らした!――側面に向かって真横一文字に撃った! まだ抗う力が残っているかもしれない故、威嚇射撃で出迎えたのだ。

「出て来い、裏切り者!? 素直に姿を見せないと命がないぞ!」そして、そう警告を発し、敵の戦意を完全に削ぐことも忘れなかった。

 すると……運転席の壊れた窓枠から手を覗かせたか? どうやら、誰かが這い出て来そうだ。

 厳鬼は、たぶん首謀者に違いないと予想した。

 それなら――おっと、それは卑劣な行為だ――今言ったことは撤回することにした。何故なら、この反逆者だけは許せなかったため、見せしめとして蜂の巣にしてやろうと咄嗟に考え直したからだ。仮面男は、マシンガンを構え直す。

 さあ、反逆者にとっては、大変な事態になったぞ! まさに、絶体絶命の危機か! 

 そして、徐々にその上半身が垣間見えたところで、遂に、厳鬼は引き金を引……

「んっ?」

 ところが、その時、突如腹に響くような重低音[所謂エンジンのビート音]が聞こえてきた。それも、あっという間に接近してきて、気づけば、ほんの真後ろまで迫って来ていた?

……と、その途端、「な、なにィー!?」1台のバイクが、厳鬼たちの頭上を飛び越え、[乗り捨てた車の後部をジャンプ台にしたよう]続いて宙を舞いながら――5発の銃声音が鳴り響いた――何と、厳鬼たちの銃を見事に撃ち落としたではないかァー!

 まさしく、謎のライダーが登場するや否や、電光石火の早業で狙撃を邪魔されてしまったのだ!

 これには、厳鬼も仰天するしかなかった。予想だにしない荒技で丸腰にされたのだから……

――ならば、いったい何者が現れたというのだ?――仮面男は、目を見張った。

 すると、バイクは、甲高い音を立てて道路に着地したなら、タイヤのスリップ音とともに横滑りしてピタリと止まった。それから、力強く地面を踏み締め、謎の男が降りてきた。ただし、フルフェイスヘルメットを被っていたせいで、まだその素顔は分からない……。が、身に着けた〝黒い背広〟だけは目に入った?

(うぬっ!……ということは、もしや?)厳鬼は、忽ち身震いを覚えた。

 そして、ライダーがヘルメットを脱いだ次の瞬間、その予想は真実となったのだ!

 そう、その場に現れたのは――まさしく、東九吾!――

 正真正銘の東が、まるで阿修羅のごとく屹立していた!――――




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ