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第4話 もう一つの宿命(5)

        7 二人の勇士


 厳鬼げんきは、車のルーフの上で仁王立ちしていた。そして、銃を足元に向けるなり、

「出て来なさい」と叫んだ。その顔に笑みを浮かべて、こんな所で襲撃に遭うとは思いも寄らなかっただろうと予想しながら。[要は、金光が訪れるルートは事前に調査済み、先回りして罠を仕掛けることぐらい造作もないことだった]

 一方、仮面男の登場で、金光たちも腹をくくったみたいだ。大人しく車から降りるしかないと思ったに違いない、無抵抗なまま外に出て来た。だが、言うまでもなく厳鬼と子分たち5人が待ち構えていたのだから、ただちに剛と岩城の銃を取り上げていた。金光の部下は全くの丸腰になってしまったという訳だ。

「まあ、金光さん、初めまして」そして先ずは、厳鬼が白々しい挨拶で男たちを迎えた。

 しかし金光は、「あんた、厳鬼とかいう……わしに何の用だ?」と言っただけで、後はそっぽを向いたまま。どうやら、これほどの対偶・・を受けては警戒心しか浮かばないようだ。

 すると、次に厳鬼はそうした中年男の様子を顧みることなく、ゆっくりと回りを歩き始めた。それから、

「いけませんねえ、私と貴方は同じ穴の狢。シーッ、シーッ、そうでした、世間には知られてはいない。貴方は真っ当な事業家でしたね」と回りくどい言い方で、早速攻めにかかる。

 だが、その声を聞いても、苦虫を噛み潰したような顔を見せただけでだんまりを通したか? 奴も噂になっていることを知っていて、今更そんな戯言を聞かされたところで何の意味もないと思ったに違いない。

 やはり、それなりに裏街道を渡って来た人物よ……。仮面男の――己が優位に立っているという甘美な優越感に浸るため、相手の弱点を突いた会話で甚振ろうとしたが――話に乗ってくるはずもなかったのだ。そして、結果的には、少々金光を切れ気味にさせたようだ。

「だから、どうする気なんだ?」と奴は声を荒げた。

 ならば、仕方ない。本題に移るとしよう。

 厳鬼は、改めて話を切り出した。

「貴方の裏仕事をいただこうと思いまして」と唐突な乗っ取り宣言を口にしたのだ。

「な、何だと! 誰がきさまなんかに!」だが、予想通り、金光は激昂を顕にして拒んだ。どう踏んでも、すんなり行く話ではなかったという。

「ふふ、なるほど。そう言うと思いました。さぁて、貴方をどう待遇するか?」とはいえ、厳鬼の方も退く訳にもいかず、思案している風に腕を組み、「考えるために私のネグラに招待しましょうかね」と続けたのだった。

「むううっ、つまりわしを拉致する気だな……」金光にとって最悪の危機か? 流石にこの状況で逆らうことは不可能、命すら取られてもおかしくないのだから。

 厳鬼は口元を緩ませ、「その通り」と告げた。

 これで何とか……奴との合意・・は決着を見たということだ。


 そして、次なる思惑の元、仮面男は動き出す。今度は徐に剛と岩城の方へと近づいていった。この取巻き2人に特別な用があったからだ。

 厳鬼は、いぶかしみながらアゴを上げ、さらに薄目で彼らを軽視したなら、確信して言い放った。

「おい、お前たち、もうばれているのよ。どいつがあずまだ?」と。(つまるところ、これも解決しなければならない要件の1つだった訳だ)

 するとどうだろう。男たちは動揺するような素振りを見せただけで、

「違う。俺は違うよ!」「とんでもない、俺も違う」とお互い顔を見合わせ懸命に否定し始めたか? どうやら、どちらかが白を切っているみたいだ。

……が、それもよかろう。厳鬼は、そんな言い分など気にも留めない。

「まあいいわ、最初からお前たちに用はないから、2人ともども死んでもらう!」と言うなり、素早く銃を取り出した。結局は、手っ取り早く疑わしき者は葬るつもりでいたのだ。 

 よって、眉さえも動かさず怯える男たちに銃を向け――「よせ、待て、待ってくれ!」という、さらなる剛たちの叫び声がその後に続こうとも――トリガーに指をかけた。

 さあ、もう逃げ場はないぞ! どうする部下ども。この危機を、避けられるものなら避けてみろッ!

 そして、次の瞬間、とうとう厳鬼は、一思いに撃ち放ったァー?


「うぬっ?」

 否、しかし……


 駄目だ! まだ発砲などできない。何故なら、撃とうとした直後に予想もしない光景が目に飛び込んできたからだ。[仮面男は銃を構えたまま硬直する]

 ちょうど向かいのビル3階付近の螺旋階段に、有り得ない人影?

 そう、まさしくあれは……


――東九吾だ!――忽然と、目の前のビルに登場してきたではないかァー!



        8 死闘の果てに…… 


 これはどうしたことか? 別の場所に東らしき男が突然現れるなんて……


 厳鬼は、困惑した。己の得た情報がガセだったのだろうか? と疑った。

 だが、いくら思案しても、答えが出るはずもなかった。ただ言えることは、好敵手と思える者が目前に控えていて、攻撃の機会を窺っているということ……

 ならば、するべきことは一つしかない!

 仮面男は、ただちに大声で叫んだのだ!

「撃てー!?」(――もう誰であろうと構わない。敵と思えし者は抹殺するべし――)

 よって――忽ち雑多な銃声音が響いた!――強面たちがその声に従って拳銃をぶっ放す。

 ここにまたも、銃撃戦が勃発したという訳だァー!


 とはいえ……その攻撃は勇士の方も想定済みか? 金属の弾ける音が聞こえてくるだけで――手擦りに被弾したよう――仕留めるまでにはいかない。いいや、それどころか素早く壁の裏側へ身を隠され反撃の銃弾が飛んできた。加えて、他の警官たちまでもいつの間にか前方のビルに姿を現し、彼に加勢して同じく弾丸を浴びせてきたという。

 流石に、準備は怠らなかった?

 つまり蓋を開けてみれば、悪党たちが劣勢となる激しい銃撃戦を招いてしまっただけだった。

(やはり、そう簡単にはいかないようだ)この結末に、厳鬼も顔を強張らせる。

 それでも、まだ形勢・・を逆転させる術を承知している悪党よ。

 仮面男は、すぐさま金光を警官の弾除けとして抱え込んだ。多少の時間が稼ぐために。

 そして、次なる策謀に思いを巡らし、行動を起こすのであった。


 そんな中、囚われの身になっていたにも拘らず、一人の男もここぞとばかりに動き出したか!

 さっきまで弱腰だった金光の部下、が、まるで別人のように悪への燃え滾たぎる闘志を全身に漲らせ、近くの子分へ飛びかかったのだ。

 すぐさま腹に蹴りを入れると同時に男の腕から銃を奪い取ったなら、4発の銃声音を鳴らし悪漢たちの銃を撃ち落した。そして、飛び道具がなくなったところで、鋭い打撃を見舞ってあっという間に子分たちを叩きのめした。

 流石に素早い攻めだ。これこそが、彼の実力! 警官たちをも統制し、漸く銃撃戦を終わらせたのだ。一方、もう一人の部下、岩城はと言えば、口をあんぐりと開けたまま車の隅に身を伏せている? (この族は放っておいても害がなさそうだ)

 だが、まだ終わりではない。肝心の悪漢を取り押さえていないのだから。

 彼は、急いでその姿を探した。

 だが、何故か視界に入らない。

 すると、その時、エンジンの吹き上がる音を耳にした。どうやら、前方の道を塞いでいた大型トラックが動き出したようだ。

……ということは、奴かッ! 金光を人質にして逃げ出そうとしているに違いない。

 ならば、こうしてはいられないぞ! 捕らえるまでよ。

「待てぇー!?」彼は、大声を発しながら一目散に走り出した。猛スピードで離れていこうとしているトラックの、助手席側のドアを目掛けて必死に突っ走ったのだ! [それと同時に、助手席で打っ伏した金光を目にする]

 だが……駄目か? 車はどんどん速度を増していくばかりだ。これでは、到底捕まえられない。やはり、人の足では追いつくことなど不可能に近いのかァー?

 いいや、それでも彼は、諦めようとしなかった! 一心不乱に走り、後少し、もう少しで助手席のドアだ、と食い下がったのだ。

 そして、最後に有りっ丈の力を足に込めたッ!

〈たあー!?〉




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