表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

第4話 もう一つの宿命(3)

      4 復讐


 時刻は夜の9時過ぎ、金光たちは目的地に着いたようだ。

 ただし、その場はどう見ても来るべき価値がないような所だった。人の気配もなく、そのうえ街燈もろくにつけていない、吹き曝しの荒れた宅地に何棟かのビルや建物が点在している、うらびれた工場町だ。

 それでも気にせず、金光たちは車から降りて傲然ごうぜんと歩き始める。

 そして間もなく、窓の少ない、見るからに閉塞感が漂う4階建ての古いビルに到着した。――その佇まいは、前回爆破された建物に酷似していたとも言えるだろう――

 続いて2人の部下が、真っ先に入り口へ進み、金光をすんなりと通させようと、磨りガラスが嵌められた観音開きの大きな扉を開けた。

 そうすると、先ず目にしたのは伽藍としたフロアだ。中央にだけ忽然と長机が置かれ、3人の男たちがその上に据え付けられた――建物内の至る所に設置された監視カメラと繋がっている――数台のモニターを見ている。さらに奥の方へ進むと、廊下を挟んでいくつかの部屋があった。要は、どこにでも見受けられる一般的なビルだ。

 そんな建物内を、金光は我が物顔で歩き始める。しかし、広間に進むのではなく、隅に位置する全く目立たない小さなドアへと向かった。実は、金光たちが目指していた場所とはその下にある部屋、特別にあつらえた地下室だったのだ。

 それから、いつものように鍵を外して内部に入ると、下りの階段が現れ、地下室の入り口がもう目の前だった。ただし、こちらでも2人の男が警護に当たっていたという。

――そう、まさに鉄壁の守りだった!――これには、金光も自ら敷いた布陣であるとはいえ今更ながらに感心していた。(これなら、どんな族が押し入って来ても容易に侵入できないであろう)と。

 そして、漸く地下室の扉を目前にする。金光は、ゆっくりと押し広げた。

……すると、どうだろう。驚くべき情景が視界を埋め尽くしていた! ビルの、表の様相からは1ミリも想像できない華やかな空間が出現したからだ。[金光はドアを開くたび、必ずそう感じてしまう]内装が美しく飾られているのは勿論、それに合わせるかのように周りの雰囲気は活気に溢れ、そのうえ異様な緊張感にも包まれた約100坪ぐらいの部屋に、男女合わせて数十名の客が各々のテーブルに着き、グラスやおつまみの乗ったトレイを手にしたバニーガールたちの給仕を受けながら、カード、ルーレット、スロットマシンに興じていた。つまり、このホールは……賭博場、所謂〝法律違反のヤミ賭博が成されていた場所〟であったのだ! そしてこれこそが、金光を金光たらしめる本来の事業・・だった故、時間が許す限りこの場所を訪問しなければならなかったという訳だ。


 中年男は、ゆっくりと辺りを見渡した。今日も卒なく全てが上手く回っているかを確認しながら。

 するとそこに、「おーい、金光さん、景気はどうだい?」と言いつつ、近づいてくる酔っ払いの姿があった。常連客でそれなりの金持ちと思われる上条だ。

 金光は、先ずは差し障りのない返答で迎えることにした。「社長、そこそこですわ」と。それから、今晩の出来栄えを推し測ろうと思い立ち、「ところで調子の方はどうです?」と訊いてみた。この男がちょうど適したであったため、手っ取り早くその勝敗を知ることができたのだ。

 上条は、「だめだね。もう数百やられた」と答えた。

(どうやら、いつも通りこちらの思う壺に嵌っているような?)金光は、ほくそ笑んだ。ただ、そうなると、少し心配事も出てくる。逆の立場になって想像するに、客がいくら平静を装っていたとしても、腹の内は少なからずも不愉快であろう。それなら、できるだけ機嫌を直してもらわないといけない。金光はある提案を申し出る。

「それはお気の毒。まあ気分直しに上の階で休んでわ」と。それから、さらに接近したのち、上条の耳元で囁いた。「上にはと、それに奇麗所・・・も揃えていますので……」と。

 まさに、このビルは賭博だけではなかったのだ!



 一方、1階のフロアでは、3人の男たちが淡々とモニターを監視しているだけの、全く代わり映えのしない光景が続いていた。

 もう、来客も途絶えて久しい。

 だが、そんな状況下で、ふと入り口の扉に目が行った。車のヘッドライトと思われし2つの光玉が、磨りガラスを通して見えてきたからだ。

(新たな客か?)故に1人の監視員が、当然ながらそう思う。……が、その後、何故かライトが見る見る大きくなり、あっという間に眩い光で磨りガラスが一杯になったッ?

 と、その途端――忽ち、衝突音が響き渡った!――何と、諸に車が激突してきたではないかァー! しかも、扉を木っ端微塵に破壊しただけで終わらず、そのままの勢いで――甲高いタイア音をけたたましく鳴らしながら――フロアへ雪崩れ込み、長机まで突っ込んできて止まった!

「うおおっー! な、なんだ?」となれば、監視員も思わず叫び声を上げた。後ろに仰け反り、唯々目を丸くしたのだ。

 まさしく、とんでもない出来事が起こったようだ!

 それでも……驚いてばかりもいられない、何が起こったのかを見極めなければならないのだから。

 そこで、監視員たちは気持ちを落ち着かせ、ドライバーの様子を窺おうと運転席を覗き見た。

 すると、車のドアが開く音とともに、浅黒いブーツがゆっくりと床を踏んだか?


――〘そう、言わずと知れた、彼女の登場だったのだ!〙――


「だ、誰だ? お前は……」よって、先ずはそう尋ねてみる……

 ところが――3発の銃声がした!――何と、有無も言わせず、男たちの足が撃ち抜かれた?

〈ぎゃーああーー〉3人は痛みで這いつくばる。

 続いて奥の部屋で控えていた男たちも、この騒ぎに気づいたみたいで、血相変えて飛び出してきたが……

――耳を劈く大爆音が轟いた!――突如、手榴弾を浴びせられ、〈うおおっー!〉忽ち男たちの断末魔が周りを覆った。一瞬で吹き飛ばされたのだ!

 全く、信じられない展開だ! これほどの好戦的な初見参は前代未聞。鬼の形相で唐突に現れたかと思ったら、何の説明もなく、あっという間に数名の男たちを黙らせたのだから……

 ただし、もう正体など知る必要がなくなったとも言える。敵であることは嫌と言うほど理解したからだ。故に監視員たちは、足の痛みを堪えながらも反撃の機会を探ることにした。とはいえ、3人のうち2人は疾うに戦意喪失のようで、監視員のリーダーだけが、その責務を果たそうと銃を握り締めていた。

 そうすると、次にその訪問者は、「最初から、こうすれば良かった」という呟き声を発したのち、地下に通ずるドアへと焦点を合わせたか? (なるほど、例の場所・・を知っての襲撃のよう)そして、警戒心も見せず、背を向けたまま大きな歩幅で歩き始めたという。

 ならば、今をおいて他にはない! リーダーは、すぐさま銃口を向けた。

 そして、慎重に狙いを定めたなら――哀れ訪問者の命もこれまでよッ!――遂に引き金を……引いたァー!


――忽ち、1発の銃声が響き渡った!――

 とうとう彼女が……凶弾に?


……と言いたいところだが、否、違う。銃声が鳴ると同時に身をかわされた。驚異的な反射神経によって難から逃れられてしまったのだ。[弾丸は敢え無く壁にめり込む]

「へっ?……」これには、流石にリーダーも目を見張った。彼女の驚異的な身体能力に感嘆したという訳だ。しかし……感心している場合ではなかったかもしれない。既に訪問者の鋭い視線が彼に向けられていたからだ。

 よって、ただちに彼女の鉄拳制裁が始まった? 電光石火の早業で接近されるや否や、手にする銃を蹴り飛ばされ、そのうえ、

「ちっちっちっ……女を後ろから撃とうとするのは、うーん、男として最低ね!」と一言注意されたかと思ったら、頭部にも一撃を食らわされてしまった。

 男は、堪らず白目をむいて倒れ込む。いやはやこの族にとっては最悪の日だ。目を覚ましたのちには、足の痛みと強烈な偏頭痛で苦しむことになるだろう。男の顔に後悔の念が浮かんでいた。

 一方、それに対して彼女は、全く無頓着な様子だ。まるで些細な騒動が終わったとでも言いたそうな表情で、地下に通ずるドアへと進んでいった。

 そして、銃で鍵を撃ち壊したなら、瞬く間に内部への侵入を完遂したのであった!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ