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第1話 ここに仕組まれた計画が……(1)

      プロローグ

 それは謎のバッグから始まった!


 港から都心へ伸びるメイン通りの一角に比較的大きな公園があった。

 しかし、通例として多くの車が行き交うような交通の要所に位置するのであれば、都会らしいモダンな風貌であるはずだが、何故かこの公園だけは場にそぐわない外見をしていた。いつの間にか木々が鬱蒼うっそうと生い茂り、まるで人里離れた森の様相を呈していたのだ。

 それ故、夕方近くになると街灯が点いていたにも拘らず、あまり好んで中を通る人はいなかった。誰もが、その閉塞感で覆われた場所に恐怖したからであろう。

 だが……ある日のこと、そんな〝憩いの場〟に、そそくさと近づく人影が存在した。

――奇妙な出来事の始まりであった!――


 突然、夜のとばりが降りる頃、公園に沿って設けられた歩道の上に、1人の男が現れた。それから、

「あーあ、今日も いつものように公務員としての仕事を終えたか。俺、平田浩一は毎日毎日単調な生活を送っている。まあそれが俺の人生だがね!」と愚痴を漏らしながらも、辺りを窺った後、ゆっくりと歩を進めて公園の入り口で佇んだ。一見、ごく普通の一般人のような容姿だが、心なしか精悍せいかんな顔つきを覗かせた黒い背広姿の男だ。

 すると次に、その男は、少々意外な行動に出た。人が避けるであろう深閑な公園の内部へ、躊躇することなく入って行ったのだ。周りを大木で囲まれた遊歩道を――これが、彼の日常なのかもしれないが――通い慣れた帰り道のように歩き始めたという。

 そして何事もなく、数分間歩き続けた……

 ところがその後、今度は急に立ち止まった。彼の視線に、おかしな物が入ってきたせいだろう。ちょうど大木の根元に鎮座していた……そう、あれはボストンバッグか? 人の気配もないのに、何故か白い鞄が、木陰に沿わすような格好で放置されていたようだ。


      1 起


「何で、こんな所に?」俺は目の前にあるバッグを見て呟いた。そして周りを注意深く見回し、人がいないか確かめてみたが、誰の気配も感じられない。ということは、明らかに忘れ物のようだ。

 さてさて、こうなるとどうすべきか?……俺は迷った。それでも、このまま捨て置く訳にもいかないと思い、取りあえず中身だけでも確かめてみることにした。もしかして大事な物が入っているかもしれないからだ。

 俺はゆっくりと近づき恐る恐る手に取った。やはりどこにでもあるボストンバッグだな、と感じながら。

 そして、気持ちを落ち着かせたなら、一気にチャックを引いて中を覗いてみた……

 と、その途端、「あっ!」俺は少し驚いた。何と、白い粉の入ったビニール袋で一杯になっていたのだ! これは、どう見ても怪しいとしか言いようがない。俺はただちに厄介な代物だと悟った。そこで、今更ながら関わらないでおこうと判断し、すぐさまバッグを元の樹の下に戻した。後は、素知らぬ振りでその場を立ち去ろうと背を向けた。

 ところがここで、さらに驚く出来事が……

「ちょっとあんた、忘れているわよ」とほんの側から大声が聞こえてきたのだ。

 これには、俺も度肝を抜かされた。まさか夜更けの、しかも暗闇から、突然声をかけられるなんて思いも寄らない、一瞬頭が真っ白になる。

……が、結局は、(当然と言えば当然なのだが)俺の視界に入らなかっただけで、すぐ横に見知らぬおばさんがいたようだ。

 俺は、(おいおい、急に声をかけるなよ。びっくりするじゃないか)と思った。それでも、忠告に対しては無下にもできないので、確りと答えた。

「ええと……いえね、俺のじゃないんですよ。ここにあった物で」と。

 しかし、このおばさん、おせっかいなうえに意外と鋭かったようで、その釈明が通用しなかった?

「でもあんた、中見てたじゃない」と切り返されてしまう。

 うっ、確かにそうなんだが……。弱った! どうやら不幸にも、強者のおばさんに遭遇したようだ。こうなると、納得するまで彼女は退かないだろう。……とはいえ、まだ音を上げるには早過ぎるような?

 そこで、俺はもう一度「ですが、本当に」と説明しようとしたら、(ええっ! 何でそうなるの?)今度はいきなり、「どうしました?」と言って見回りの巡査が、俺のことを胡散うさん臭そうに睨みつけながら登場してきたではないか! 全く、何というタイミングだ。しかも、この巡査の出現でおばさんの方も勢いづいたのか、

「ねえねえ聞いてよ、お巡りさん。この人ったらねえ、持ってたバッグを置いて行こうとしてたから、忘れてるって言ってあげたのに自分のじゃないって言うのよっ、さっきまで大事そうに抱えていたのにね。それっておかしくない?」とまくし立て始めたものだから、簡単には事が収まりそうになくなった。下手をするとバッグの中身まで確認されそうな雰囲気だ。

 いやはや、参った! このままでは確実に疑われてしまうぞ。

 それなら……もう打つ手は、一つしかない。俺はそう決意し、すぐさま行動に移す。

「ああ……ははは、うっかりしてました。そうそう自分のバッグなんです。最近仕事が忙しくて……。ご迷惑かけました」と言うが早いか、バッグを引ったくり、逃げるようにその場を立ち去ったのだ。とにかく、面倒なことだけにはしたくない一心で、素早く反応したまでのこと。

 結果、後に残ったおばさんと巡査は、不審そうな表情を見せるが、何も言わず立ち尽くしている。どうにかこうにか、難儀な場面をやり過ごしたみたいだ。

 ふっー、助かったー。だが、当然ながら、その後は反省する羽目になっていたが。

 俺は、帰る道すがら、やっぱり本当のことを話すべきだった、と後悔した。ただ、言ったとしても、根掘り葉掘り聞かれていろいろ調べられるだろうし、事によっては警察にマークされる可能性もあるしな、とも考えた。それから、持っているカバンを恨めしく見た後、次なる対処も思い描いていた。さてさて、このバッグをどうするんだ? 夜中にコッソリ捨てに行くか、あの木の下へ。いやいやあそこは駄目だ。顔を見られているからもっと別の場所へ、などと……

 するとその時、突如メールの着信音が鳴った。

 これには、少々慌てた。なんせ色々あったので。

 俺は、すかさず携帯を確かめてみた。どうやら、弟の信二からだ。『兄貴、後で寄るわ』というメッセージが目に映った。

 しかし、ここで思った。このややこしい時に信二かよ! と。あいつもややこしい性格だから嫌な予感がしたのだ。そうしてそんな心配をしながら歩いていたら、いつの間にか自宅マンションに到着していたという。

 俺は一先ず、深夜を待つことにした。


 夜中12時になった。俺は、夜の街を、

「ああ、嫌になるね。いざ捨てるとなると、どこへ持っていけばいいんだよ?」とぼやきながら、宛てもなくテクテクと彷徨さまよっていた。なんにせよ、これだけの異物品・・・を、自分や他人に迷惑がかからないような所へ捨てなければならないのだから、慎重にならざるを得なかったのだ。そのため、散々に歩き回って最適な投棄場所を探していたという訳だ。

 するとここで、高架下のトンネルに出くわしたか? 偶々遭遇したみたいだが、何だか嫌な場所に来てしまったようだ。というのも、見るからに薄暗い不気味な空洞が永遠に続くかのような所で、しかも人っ子一人いないというシチュエーションだったためだ。……とはいえ、一本道で選択肢がない状態か? ならば仕方ない。俺はそう思い、気持ちを奮い立たせ、トンネル内へ入っていくことにした。

 ゆっくりと、歩を進めた。

……が、その時だ。予期せぬことが起こった! 突然、後ろからコツコツという不審な靴音が聞こえてきたのだ。

 俺は、すぐさま立ち止まって後方を確認した。これは、何だ? まさか、誰かにつけられているのか? と慄きながら。けれど、薄暗いドーム内では到底人影など見えるはずもなく、それに聞こえていた足音もいつの間にか掻き消えていたような? やはり、勘違いだったのだろうか? 俺は暫くその場で立ち尽くし様子を探った。

……とはいえ、いつまで待てばいいのやら。結局は、こんなことをしてられないと自分に言い聞かせ、再び歩き始める。

 ところが、その後、えっ! またも足音が聞こえてきたか? 今度こそ間違いなく、確かにつけられていることが分かったのだ!

 となれば、「うわぁー!?」焦りと恐怖で冷静さは吹き飛び、無我夢中で駆け出す羽目に! 顔を強張せ、必死になってどこをどう走ったか分からないほど走りに走っていた!

「はあ、はあ、はあ、くそっ!」

 ただし、そうは言っても、限界はある。

「駄目だぁ、もう、もう、はしれ、ない」結局は、走り疲れて立ち止まる。

 するとここで、突然目の前に明るい光が見えてきた。……ファミレスだ! 俺は渡りに船とばかりに、迷わずその店に走り込む。

「はあはあはぁ……いったい誰が。もういやだ」そして弱音を吐きつつも、すぐに奥の席へと駆け入って、できるだけ体を隠した。その後、ウエイトレスが注文を取りに来たが、適当に頼んで兎に角入り口だけを懸命に見続けた。

 そうすると間もなく、小太りの中年男が入ってくるのを目にする。。俺はその姿に恐々として、

「こいつか? まさか、どう見ても普通の人」と疑ってみるも……はっきり言って分かる訳がなかった。(たぶん違う気もする)そのため、もう少し様子を探ってから判断しようと考え、そのままじっと入り口を見つめることにした。

 そうしたところ、いかにも怪しそうな、サングラスにマスクをした男が入店してきた!

 俺はそれを目にして、「こいつだ。絶対にこいつだ。夜中にグラスかける奴なんか、いるわけない」と確信する。同時に、今まで感じたことのない恐怖心に襲われ、心臓が爆発しそうに高鳴った。要するに、この男は何者で、俺をどうする気なんだ? と怯えたのだ。

 そのうえここで、余計な体の変調・・も加わったか?――尿意を催していたのだ――やはり緊張のせいだろう。そこで、止む無く、グラサン男に注意を払うとともに目立たなく腰を屈めてトイレへ向かった。それから、便器を前にしたのだが……くーっ、恐怖心が邪魔をして尿が出ない。

 ええいクソッ! 俺は苛立った。それでも、懸命に搾り出そうとした結果、どうにか用を足すことができた。

 ふううっ、これで多少なりとも一息つけた。後は、どうにかしてあの男の目を盗んで逃げ出せばいいだけだ。……と思って、次に用心深くトイレの角から覗いてみたら、予想外な光景を目にする。

「えっ! いない。あの男がいないぞ」グラサン男の姿が掻き消えていたのだ。ということは、「ええ、あいつじゃないのか? そうなのか」俺は一気に肩の力が抜けた。……が、まだ安心するのは早いような。俺は慎重に席へと戻った。

 ところが、テーブルに着いた途端、「あっ! バッグが……ない」何と、厄介なバッグも消えていることに気づいた。バッグを席に置いたままトイレに入ったため、あの男が持って行ったに違いない。つまり、悩みの種が消えて突然のエンディングを迎えたという訳だ。

 俺の顔が、徐々に緩むのを感じた。そしてどっかりと席に座り込み、今日の出来事は何だったんだと振り返っていた。


     2 承


 何とかいつもの日常が帰ってきたようだ。

 俺は穏やかな気持ちでファミレスを後にしていた。まあ、最初から要らぬことをしなければよかったという話で、これに懲りて変な物には手を出さないでおこう、と反省しながら。

 ところが、その安心感は幻想だったかッ?

 次の瞬間、駆け寄る足音がしたかと思ったら、4人の厳つい男たちが現れ、行く手を塞いだのだ! しかも、必死の抵抗も虚しく、あっという間に奴らが乗る車の後部座席へ拉致されてしまったではないか!

 こうなると、「うわぁー、助けて! 助けてくれ」と騒ぎ立てずにはいられない。よもやまだ脅威が続いていたとは露知らず、大声で叫ぶしか手がなかった。

 とはいえ、そんな抵抗が族どもを怯ます訳もなく、

「うるせえ! 黙れ。足腰立たなくするぞ!」と左側に座ったリーダーらしき男に脅されてしまった。

 俺は、敢え無く消沈する羽目に……

 それでも、諦めきれず、「何なんですか? 誰かと間違っていませんか」と咄嗟の機転で無関係を装ってみるも……今度は右側の強面こあもて男に、

「にいちゃん、分かっているだろうが?」と詰め寄られた。

 駄目だ! 後部座席の両側からごつい男に挟まれては、まるで蛇に睨まれた蛙状態。どう見ても言い逃れできそうな雰囲気ではない。

 そして言うまでもなく、次なる質問が飛んできた。

「ブツは?」

 俺は、無駄を承知で今一度、「何のことですか、僕は平田浩一という普通の庶民なので分かりま……」と話を逸らそうとしたものの、やはり奴らには通用しなかった。またも右の男に、然もうとましそうな顔で、

「にいちゃん。能書きはもうええちゅんや、わしらのバックはどこや?」と問い質されてしまった。

 こうなると、もうお手上げだ! 俺は、「…………」沈黙で返すしかなかった。

 だが、その様子を見ていたリーダーは、次に俺のことをなだめにかかった。こんな場面は、日常茶飯事なのかもしれない。

「バックさえ戻ればあんたには何もしないからさ。さっさと渡した方がお互いのためですよっ」と。

 それでも俺は、「…………」沈黙を通した。顔を伏せ両手をシートの下に垂らし、話すことを躊躇ちゅうちょしたのだ。というのも、この状況ではバッグが盗まれたことを言っても、すんなりと信用してくれるかどうか分からなかったからだ。

 するとここで、助手席からも怒鳴り声が聞こえてきた。今までおとなしく座っていた若い男が、ごうを煮やしたみたいで、

「さっさと言わねえか、俺はずっとお前を見張っていたんだからな。お前がバックをパクったせいで、俺がトバッチリを受けてんだ。早く言え! 言え、このやろう!」と詰め寄ってきたのだ。

 ただし、その叫びは場の空気を乱すこと以外の何物でもなかったため、すぐにリーダーが止めに入ってきたのだが。

「待て待て、黙れ。ヒデ!」と。しかも、その声を皮切りに内輪揉めへと発展したか?

 リーダーが、「こうなったのも、お前があんな公園の木の下にブツを置いて逃げたからだろうが」と責めたなら、ヒデと呼ばれた男は不服そうな表情を浮かべて、

「サブ兄い、それはないよ。今日の取引で俺がブツの運搬だろ。車で事務所に向かってたら、いやあビビったね! あの公園の前で検問してやがんの。仕方ないんで車捨てて歩きだわ。で、公園の中通ってると警官がうようよいてよ。俺みたいなチンピラがデカイバッグ持ってんだから、職質されたら……即、務所だわ。だからよ、バッグを木の下に置いといて、隙を見てから持って行こうと隠れていたんよ」というふうにペラペラと喋りだしたのだ。

 俺は、奴らの会話を耳にして、やっと事情が分かってきた。

 そしてなおも、「こいつがパクってたんだわ。俺は焦ったわ。そんでこいつをずっとつけてよ」とヒデが言ったところで、

「うるせえ! ペチャクチャ喋るな。この馬鹿!」とうとうサブの逆鱗に触れたようだ。ヒデの余計な暴露話に、我慢がならなかったのだろう。

 結局これで、内輪揉めは終わった。ヒデも口を閉ざし、恐縮した様子で「……すいやせん」と言って体を丸めた。

 そうして後は、重い空気が車内に満ちたのだ。

 すると今度は、左側の男が、何とか話を本筋に戻そうと思ったのだろう、やんわりと話し始めた。

「あんちゃん、そういうことや。観念して、はよう吐いてんか。バッグどこ? あまり時間がないねん。取引相手も感づいてな、血相変えて探しているみたいやし。やつら、怖いよう。わしらみたいに優しくないから。あんたのためにも危ないものは早いとこ手放さないと。どこや?」と。

 確かに……そうかもしれない。ここに来て、俺も迷い始めた。男の言う通り、さっさと終わらせないと、もっと危険な目に遭う可能性もあるのだ。

 そこで、「あ、あのう……ファミレスで」意を決して話すことにした。

 とはいえ、俺の答えは――この決断にサブたちは期待して聞き耳を立てただろうが――疾うに決まっている。「盗まれました」と言うしかなかった。

「ああ何だって! てめえ、バカか!」途端に、罵声が聞こえてきた。流石にこの返答には、奴らも眉間にしわを寄せたみたいだ。

 それでも俺は、構わず話し続けた。「本当です、信じてください! 本当に、怪しいサングラスのマスク男に盗まれたんです」と必死の説明をしたのだが……やっぱり、駄目だった! 男たちは納得せず、さらに俺を詰問しようとした。

 ところが、その時、突然の異変が起こった! 俺の座るシート辺りから煙が立ち上ってきたのだ。

 これには、サブたちも慌てた様子だ。俺への追及など忘れて、「おい、何だこの煙は?」と叫んでいた。

 すると、運転手が青ざめた顔で、

「やばいっす。火が出たのかもしれません。ガソリンに引火したら大爆発しますわ!」と大変な事態を予言したのだった。

「何!?」忽ち、全員の顔色が変わった。そして、4人が即座に車から出ようとしたことは言うまでもないが、その中でもとりわけ右の強面が素早い動きを見せて、真っ先にドアを開け放ち外へ飛び出そうとした。

……となれば、そう、今こそ逃げるのに絶好の機会だった! 俺は覚悟を決め、その男の隙をついて力任せに突き飛ばしたのだ! 後は、無我夢中で疾風のごとく駆け出していた。

「待て!」無論その直後、男は転倒しつつも、大声で叫んでいた。けれど、それは既に遥か後ろでの出来事。

 俺は、闇夜の中へと姿を消したのだった。


  ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――

 その場には、咄嗟の出来事に目を丸くし、困惑した表情で立ち尽くす、4人の男たちの姿があった。

 とはいえ、迷っている暇はない。すぐにでも行動を起こさなければならなかった。

 そこでサブは、3人の男たちに命令した。

「おい、ヒデとタロウ。お前ら2人で車をどうにかしろ。ゲン、俺と一緒にやつを追うぞ!」と。

 そうして、族どもは一斉に動き出す。ヒデたちは車内を調べる一方、サブとゲンは平田を捕えるため、同じく夜道を駆けていったのだ。

  ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


「ふう、ふう、ふう、ふう……」俺は死に物狂いで逃げていた。今日1日で、町全部の道を走ったんじゃないかと感じられるぐらい、走りに走った。そして、もう体力も限界だと感じて、俺は一時逃げることを諦めかけた。……が、そんな中、偶然ある物に目が留まった。道沿いのビルの一角に数メートルに亘って据え付けられた木製の棚が――しかも、背丈ほどの植木で覆われているため――ちょうど隠れるのに最適だと気づき、見入ってしまったのだ。

 ならば、考えるまでもない。俺はすぐに身を潜めた。

 するとその数分後、奴らの足音が聞こえてきた。そのうえ、(おいおい、何てことだ!)俺の隠れる植木の前で止まったではないか! とはいえ……まだ大丈夫のようだ。

「おい、いたか?」そんな中、サブの声が聞こえてきた。

「あかん、こう暗うてはお手上げや」というゲンの声も耳にする。

 どうやら奴らも、暗闇の中では捜しあぐねるしかないようだ。

 そして結局は、諦めたみたいで、 

「どうせ、あいつも自分のマンションに帰るだろうよ。そこで待ち伏せするか?」とサブが提案していた。

「そうやな。そうするか。ヒデが住所を知っとるやろ」と言ってゲンも同意を示した。

 それから奴らは、元いた場所へ帰っていったのだった!

 俺はホッと胸を撫で下ろした。何とか上手く逃げ切れたのだから……



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