第3章 再戦の時 -1-
東城大輝は、目を覚ました。
きょろきょろと寝ぼけ眼で当たりを見渡すと、そこに転がっている大量の武器を見て一瞬肝を冷やすが、すぐさま寝る前の状況を思い出した。
「そっか、タイムトラベルしてたんだったっけか。てっきり夢かと……」
「この状況でよく寝れるわね……」
呆れたような声がする。
ふと横を見ると、柊がやれやれと肩をすくめていた。
「いや、時差があって活動時間延びるから仮眠取っとけ、って言ったのはお前だろ?」
「だからって普通は座ったまま爆睡しないわよ……。アンタ、思いっきり私にもたれかかって来てたからね?」
じとっとした目で柊に睨まれ、バツが悪そうに東城は視線を逸らす。
「それは悪かった……。ってか、お前は寝てねぇのかよ」
「寝たわよ。でも、私たち能力者って研究所にいた頃に、能力以外も割と教え込まされてたからね。気を張って寝る訓練とかあったし。――ていうか、その為に座って寝たんでしょうが」
「あぁ、そういやオッサンに拾われてすぐの頃の俺もあんまり寝てなかった気がするな」
言われて、東城は一年前に自分が始めて拾われた頃を思い返す。
今でも寝起きだけは良いし、何か起これば起きられる自信がある。そういう意味では、余り熟睡はしないように身体に仕込まれていたのだろう。
「まぁ、柊がいるなら多少寝すぎても大丈夫だろ」
「……まぁ、いいけど」
何か文句を言おうとしたらしいが、柊は少し顔を紅くしてその文句をひっこめてしまった。――東城は知らないことだが、この甘えのような言葉が、柊以外には向かないとかつて西條に言われたことを思い出したのだろう。
「……ラブコメの臭いがする。さぁ、ぶち壊しにゃあ!」
ばーん、というふざけた効果音が似合いそうなほど勢い良く入り口のドアが開かれる。
「ふははは。わたしの眼が黒いうちは金髪つるぺたのラブコメ路線などぶち壊してくれるわ!」
「別にラブコメ路線なんか走ってないし、そもそもそれがアンタに関係あるわけ!?」
鹿島も柊も再会して早々取っ組み合いを始めていた。――何だかんだ言って、これはこれで仲がいいんじゃないだろうか。
「……なんであいつらいがみ合ってるんだろうな」
「前世に恨みでもあんじゃねぇの?」
さらりと適当に流しながら、東城は欠伸をする。
「ところで、休めたか?」
「まぁな。十二時間近く入れ替わると感覚がちょっとおかしくなるけど、仮眠も取ったしある程度はマシになってる」
高倉の問いに答えながら、東城はふと思う。
「……で、高倉」
「何だ?」
「天装って、機械だよな?」
「まぁ超能力を再現してるって言っても、分類上そうなるな」
「放電受けたら、壊れんじゃねぇ?」
そんな東城の視線の先で、柊と鹿島は今まさに放電しながらの殴り合いへと喧嘩の規模を引き上げていた。
「ちょ、メイ!? いくら依頼品じゃないからって本格的に壊れたらどうすんだ――」
「女にはね、駄目だと分かっていても、やらなきゃいけない時があるんだよ」
「それは今じゃないけどな!」
馬鹿なことを言いながら戦おうとする鹿島と、彼女を必死になだめようとする高倉を見ながら、東城はまた呑気に欠伸をする。
「平和だなぁ……」
「テメー、人の私物が壊されよーとしているこの状況のどこを見て、そんなセリフを吐いてんだ? 言っとくけど、ただの天装でも一個数十万すんだからな?」
東城のリアクションに青筋を立てつつツッコミを入れるのは、月山だった。
「まぁ少なくとも殺伐とはしてねぇだろ。タイムトラベルなんて大仰なことをしてきた連中が相手じゃ今すぐ事態が急変したっておかしくねぇわけだし、最悪の事態と比べりゃ平和だ」
「俺にとっては死活問題なんだが……?」
完全に他人事な様子の東城に怒る気も失せたらしく、月山は深いため息をつくばかりだった。
「……そう言えば、俺たちに用があって戻って来たんじゃねぇのか?」
「そのつもりだったが、この惨状を見てそんな気は失せたっつーの」
「あなたたちに、自由時間を与えに来ました」
不貞腐れている月山の横にいつの間にか立っていた少女――シノが代わりに答えてくれた。しかしすぐに意味が分からず東城は「自由時間?」と訊き返していた。
「午前中の内に担任にはあなたたちのことを報告しました。結果、タイムトラベルの辺りは半信半疑でしたが、もし事実なら過去の技術が転がってる部屋にいるのは良くないだろうというで、午後からは私たちと一緒に行動をしてもらうこととなりました」
「あぁ、なるほど」
東城は頷きながら、ふと気付く。
「ってことは、この校内の案内してもらえるってことか?」
「午後の実技の実習は、後ろで見学してもらうことになります。なお他の生徒には転校予定の生徒の見学という扱いになっていますので」
ふむ、と東城は頷く。
ここにいても暇だから自由時間をくれるというだけでもありがたいのに、謎の正義の組織について色々見させてもらえるというのだ。これで好奇心が湧かなければ、人という種族ではいられない。
「じゃあさっそく今から頼めるか?」
「構いませんが――あの三人はどうしますか?」
シノがそっと柊、鹿島、高倉で三つ巴のバトルが始まっている空間を指示していた。
「そのうち収まる。先に行こう」
「……了解しました」
一瞬無表情なシノの眼が「それは冷たいんじゃ……?」と言っているようなきもしたが、東城はそれを無視してさっさと扉の外へと出る。
背中に「ちょ、置いてくわけ!?」とか「シノちゃんどこ行く――うぉ、金髪つるぺた、その不意打ちは卑怯――!?」とか「お前らいい加減に――ちょ、俺まで蹴りかかんじゃない!」とかいう声を受けながら、東城はそっと扉を閉めた。