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【FRE×雷鳴】業火ノ誓イ  作者: 九条智樹
サンダー・アストレイ
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第2章 歪んだ時空 -1-


「……なるほど。つまり、ここではシミュレーテッドリアリティを書き換えて、超常現象を再現する武装――天装が流通している。で、それを使って市民を護るソレスタルメイデンとその見習いが、お前たちというわけだな?」


「大まかに言うとそうだな」


 東城大輝は、刀を持っている少年――高倉柊哉と言うらしい――から聞かされた話を要約していた。


 場所は、天佑高校というそのソレスタルメイデンとやらを育成する学校の、カフェルームだ。高校と名乗っていながら東城たちには考えられないほど豪奢で、このカフェルームでもコーヒー一杯数千円取られかねないほどの高級感が漂っている。


 自分が能力など関係ないまともな生活を送るようになったとしても、こんな高級店に縁のある収入は得られる気が東城にはしない。


「本当に大輝――っと、馴れ馴れしかったな。東城君たちはソレスタルメイデンを知らないのか?」


「呼びやすいように呼べばいい。俺も高倉って呼び捨てにしたいし。――で、少なくとも、俺たちがいたところに天装なんて物騒なものはなかったよ。まぁ裏には俺たちみたいな人間もいたから、大差はないけど」


 うむと東城は頷きながら与えられた情報を整理し、一つの結論に至る。



 どうやら、東城と柊は異世界トリップしてしまったらしい。



 至った突拍子もない結論に、東城は全身の力が抜けるのを感じた。


「――流石にこれは、俺でも理解の外だぞ……」


 彼は最強の超能力者の燼滅ノ王(イクセプション)である。曲がりなりにも、アルカナ、すなわち二十二種ある超能力のそれぞれの頂点に君臨する能力者とも幾度となく戦ってきた。


 もはや大体の超常現象はこの目に納めてきたと言っていいだろう。もしそうでないものがあったとしても、今までの経験的に『まぁあり得なくもないな』と片づけられたはずだ。


 しかし、今回は流石にスケールが違い過ぎる。

 どんな超能力を組み合わせれば異世界への扉が開くのか、皆目見当もつかない。そもそも異世界などが存在していること自体が驚きだ。


「――で、俺が高倉から真剣に説明を受けている間に、お前たちは何やってんの?」


 一旦無茶苦茶な現状は棚上げにし、呆れた様子で東城は振り返る。

 そこでは、銀髪ツーサイドアップの少女――鹿島メイに柊美里が、プロレスさながらに押さえつけられながら激しい攻防を繰り広げていた。


「にゃはは。店内では電撃は使えまい! となれば逮捕術を心得ているメイちゃんの勝ちは揺るぎないのだよ!」


「なんで無抵抗の一般人を今さらになって押さえつけてるのよ、この馬鹿ツインテール!」


「ふん、ツインテールとツーサイドアップの違いも分からないとはね! 女子力の底が知れるというものだよ!」


「こんな馬鹿力で抑えつけてるアンタに、女子力云々を言われる筋合いはないわよ! ――っタタ! だから痛いって言ってんでしょうがっ!」


「……お前らが仲良くなったのは良く分かったから、いい加減にしてくれ」


 堂々と高級なカフェの店内でプロレスごっこ&漫才を続ける二人に、東城はため息をつくしかなかった。

 唯一の救いは、店内に人がいないことだろう。高級なカフェと言っても校内にある施設だけに、ここに足を運べるだけの金持ちが少ないらしい。ほぼ貸し切り状態で、他人にこんな醜態を晒さずに済んでいる。……とは言え、店員さんには大迷惑であるが。


「メイ、いい加減しろ」


「ちぃ……っ! ミー君に言われたなら仕方ない……。あと一つ絞め技を決めて――」


「さっさとどけ、この馬鹿ツインテール!」


「だからツーサイドアップと言っておろ――うにゃあ!?」


 柊が力技で起き上がったせいで馬乗りになっていた鹿島は体勢を崩し、そのまま後頭部から床に落下した。


「ふぅ……。よしこのままやられた分は返す――」


「やめろ、柊。それより俺たちがどうするかって話の方が重要だ」


 復讐に出ようとした柊を東城が制し、冷静な提案をする。

 二人の制止が効いたのか、柊も鹿島も互いに睨みあった状態ではあるが大人しくなり、どうにか話し合いが続けられる雰囲気を取り戻した。


「……異世界トリップは、この世界じゃよく起こることか?」


「漫画や小説なんかじゃ良くあるけど、流石に現実で起きたって話はないよ」


「だよなぁ……。ちなみに、ここって何て国だ?」


「ん? 日本だよ」


「――は?」


 元の世界に戻る手段が見つかりそうになく頭を悩ませていた東城だったが、その言葉を聞いて固まった。


「日本? ジャパン?」


「そう」


 その高倉の返事を聞いて、東城はすぐに思い至る。


 ――そりゃそうだ。

 ――だって、彼らの顔はどう見ても日本人顔で、どう聞いたって日本語でコミュニケーションが取れているんだもの。


「……異世界じゃないとしたら、SF的には並行世界(パラレルワールド)とか……」


 そこまで言って、東城はある事実に気付く。


「……なぁ、高倉」


「何だ、何か分かったか?」


「天装って、超常現象を再現した武器だって言ってたよな? そこら辺、詳しく」


 そんな馬鹿な、とそう思いながら東城は問いかける。


「ん? 昔は超能力者がいたんだよ。二〇一〇年代かな。頭一つでシミュレーテッドリアリティを改竄して、自由に空を舞ったり火炎を操ったり。でもどうしてか数ヵ月で超能力者は姿を消して、それを憧れた一般人がその能力をどうにか再現したのがこの天装だ」


 まさか。


 まさか、まさか……っ。


「な、なぁ。今って、西暦何年だ?」


 その東城の問いに、高倉は「要するに何を訊きたいのだろう?」という様子で首を傾げながら答えてくれた。



「二〇九三年の、六月二十二日だよ」



 最後の駄目押しを受けて、東城は現状をようやく把握した。


 ――どうやら、異世界トリップではなくて。

 これは、タイムトラベルだったらしい。



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