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【FRE×雷鳴】業火ノ誓イ  作者: 九条智樹
サンダー・アストレイ
19/19

終章 交差の終わり


 明けて、翌日の昼過ぎとなった。

 諸々の事後処理が高倉たちにはあるため、東城たちはずっと月山の改造部屋で待機していたのだった。もちろん、この豪奢な天祐高の中である。風呂も食事も困りはしない。


「――いやぁ、暇なのはいいんですがね? この状況は、いったい何なんでしょう?」


 そんな中で。



 東城大輝は、またしても椅子に麻縄で括り付けられていた。



「何って、アンタがまた逃げるからでしょ」


「今回は室内ですので、縄を焼けば火災報知機が鳴りますからご注意下さいませ」


 そう言いながら詰め寄る柊と七瀬の手には、昼食らしくお弁当があった。

 要するに、先日のリベンジである。


「ちなみに、どっちもおいしいとか引き分けとかいう無難なジャッジはいらないから」


「真剣勝負ですので、不正な審判はその身を亡ぼすと言う事を心得ておいて下さいな」


「俺がそんな重い役を背負う必要はないよね!?」


 驚愕する東城を余所に、二人は弁当を突きつける。


 柊の方は、シンプルなおにぎりと卵焼きとタコさんウィンナーという、まったくもって平凡なもの。


 七瀬の方はエビフライにほうれん草のおひたしなど、定番を抑えつつの豪華な色とりどりのおかずにかやくご飯が敷き詰められていた。


「私の勝ちはもはや明白ですが、どうぞご賞味くださいませ」


 にっこりと微笑む七瀬に対し、東城は冷たい汗をだらだらと流し続けるしかなかった。


 この場合、どっちが美味しいかなど関係ない。

 柊を選べば七瀬が、七瀬を選べば柊が、嫉妬に駆られて東証の命を狙いにくる。それはもう予測ではなく確定事項だ。


「た、食べないというのが賢明な選択――」


「まぁ、あーん、して欲しいだなんて大胆ですわね」


「誰もそんなこと言ってねぇよ!」


 ささやかな抵抗する東城に、七瀬も柊もお箸でつまんだおかずを同時に突き付けてくる。ここから先、僅かでも口を開けばフォアグラを作る際の鴨のように食材がねじ込まれること請け合いだ。


 ちょうど、その頃。


「ふへぇ……。ようやく始末書とか事情聴取とか終わったよ……」


「ほとんど俺に押し付けて眠りこけてたくせに何言ってんだよ、お前」


 ガラリと、その教室の扉が開けられた。高倉柊哉と鹿島メイが入ってきたのだ。

 そしてそこでは、縄に縛られた東城が、柊と七瀬に食べ物を与えられている状況があった。


「……これ何てプレイ?」


「果てしない誤解が生じてるぶぅ!」


 ツッコもうとした東城の口に、柊と七瀬それぞれからおかずがねじ込まれる。誤解も何も、こんな状況で鹿島のようなリアクションにならない方がおかしいというものだろう。


「馬鹿なことしてる場合じゃないだろ……。お前たち、仮にも時間を超越した迷子だっていう自覚ある?」


「それは俺以外に言ってくれませんかね……」


 タイムスリップした先の余所の施設で勝手に弁当を作り、挙句友人を麻縄で縛りつける輩と一緒にされるのは東城としても不本意だった。


「……それでどっちが美味しかったわけ?」


「同時に突っ込まれて判別できるほどグルメじゃね――言い終える前に箸を構えるのやめて!」


 身構える東城に対しにじり寄る柊と七瀬。

 それを見てため息をついて、鹿島は言う。


「どう見たって金髪つるぺたの敗北なんだからやめなよ」


「ようし、ありとあらゆる面で私に喧嘩を売ってるとみなしてアンタを全力で潰すわ」


 標的を東城から鹿島へと切り替えた柊の全身から紫電が迸る。――ちなみに、こうなることを予測していか月山によって、改造・修復待ちの天装たちは別の部屋へと移されている。


「……馬鹿は放っておいて、用があるから来たんだよな。とりあえず話をするにしても俺の自由は大事だと思うんだ」


「……縄斬ってあげるから、動かないでくれ」


 呆れたように言いながら高倉は布都御魂を抜き、そのまま納めた。斬った動作はまるで見えなかったが、途端に縄はひとりでに落ちた。神業のような太刀筋である。


「助かったよ、高倉」


「あら。わたくしの料理がまるで苦行であったかのように聞こえる台詞なのですが?」


「その台詞は縄で縛らずに飯を食わせてから言え」


 七瀬が可愛らしく頬を膨らませて抗議するのも一蹴して、東城は高倉の方を向く。――その間も、ずっと鹿島と柊が放電し合っているのは言うまでもない。


「で、ティタニアのことか?」


「そうだ。一応、今のところは素直に取り調べに応じてるらしい。まぁそれでもティタニアの動機に関しては勘違いってことで片づけられそうだけど」


「本人がそもそも『絶対の成功』じゃなくて運に任せた賭けを望んでたみたいだしな。賭けに負けたらそれ以上執着しないって決めてたんじゃねぇか?」


「そうだと思いますよ」


 そう話す東城と高倉の背後に、音もなくシノが現れる。一瞬驚いた二人だが、シノは気にした様子もなく続けた。


「彼女としては、ソレスタルメイデンという組織の破壊ではなく、自らの過去にけじめをつけたかっただけなのかもしれません」


「……まぁ、そうなんだろうな。結局、俺たちは巻き込まれ損ってわけだ」


「ですが、あなた方が来たからこそティタニア・クロスを止めることが出来ました。運命論は好きではありませんが、巻き込まれたのではなく、ティタニア・クロスを止める為に来た、と考えることも出来ると思います」


 そのシノの言葉を受けて、東城が少し考える。


 本当に、偶然で自分たちはこの世界に来たのか。


 そもそもクロノスとテミスを用いて時空間に穴を開けたと言っても、テミス自体は目に見える範囲にしか空間を繋げることが出来ない。過去という視認できない場所へ繋げる為には、何か機械で座標を補助する必要があるだろう。

 しかしわざわざ補助した上で、そんな単純な行為で本当に失敗などするのか。それも、かつて最強と呼ばれた東城の付近にゲートを繋ぎ、この時代において東城たちを無条件で信頼してくれるような高倉たちと、引き合わせるように。


「――運命じゃあ、ないかもな」


 東城には、運命だとかそんな曖昧な理由には思えなかった。

 これは、彼女自身が敗北を得たいと、そう望んだから引き起こされたのだ。それは彼女の願いであり、神が賽を振ったわけではないはずだ。


「まぁ役に立ったんなら良かった」


 思考を切って周りを見渡した東城は、東城はふと気づく。


「……ところで、月山は?」


 鹿島、高倉、シノとこのティタニアの件に関わったソレスタルメイデン関係の人が集まっている中で、月山貞一の姿だけが見当たらないのには多少の違和感を覚えずにはいられなかった。


「あー……」


 バツが悪そうに高倉は言う。

 何か重大な隠し事があるような、あるいは、何か言わなければいけないことを先延ばしにしているような感じだ。例えるなら、〇点のテストを隠そうとしている子供のような感じだ。


 それを見て、東城はまさか、とあることに思い至る。


「……ところで、俺たちはいつ帰れるんだ?」


「あぁ、えっと、それはな……」


「落ち着いて聞いてくれんなら答えるけどなー」


 言い淀んだ高倉と交代するように、疲弊した様子でようやく戻ってきた月山が続きを受け持った。


「ったく、先生たちに俺と柊哉が勝手に出張ったことごまかすのにも散々苦労した上に、こんな作業があるとか……」


「何の話をしてるんだ?」


 東城の問いに、月山はびしりと指先を突きつけ、


「お前、ティタニアの顔面思いっきり殴っただろ」


「ん、あぁ。まぁ女を殴るのはよくなかったとは思うけれど……」


「じゃねーよ。んなことはこの時代の俺たちの職業じゃ全然躊躇してらんねーんだから。そーじゃなくて、ティタニアのつけてたモノクル、あれが空間移動の天装、テミスだったって知ってるよな?」


「そりゃもちろん……」


 そこまで言われて、東城は気付いた。

 そもそも、柱時計の形をした時間を操る天装・クロノスを破壊してはいけないという制約があった為に、東城は自らの炎を全開にして戦えなかったのだ。


 では、そもそもどうやって東城たちはこの時代に迷い込んだのか。

 それはティタニアが改造し接続されたテミスとクロノスによって、時空間をまたぐゲートが開けられたからである。


 では。

 クロノスを壊していけないのなら、テミスも同様なわけで。

 テミスはモノクルとして彼女の顔の上にあったわけで。

 彼女の顔を殴るということは、少なからずテミスを破損する恐れがあるわけで。


「――え、まさか」


 気付いた東城の全身から、ぶわっと冷たい汗が噴き出ていた。



「テミス、ちょっと壊れたんだよ」



 全力で鹿島と放電し合っていた柊でさえ、その言葉を聞いて固まっていた。

 それはそうだ。

 だって、その言葉はつまり。


「そういうわけで、大輝たちが帰るのはもう少し先の話かな。貞一が直し終えるのに三日とかかかるだろうけど」


「まじ、かよ……」


 東城はその場に膝をついて、がっくりとうなだれた。

 東城大輝はこの雷鳴の響く世界の中で、またしばらく途方に暮れるのだった。



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