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【FRE×雷鳴】業火ノ誓イ  作者: 九条智樹
サンダー・アストレイ
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第4章 業火と雷 -1-


 降りしきる雨の中、傘を片手に東城たちは天佑高からバスで三十分ほど離れたとある町を訪れていた。


「……本当に、ただの住宅街に古墳ってあるんだねぇ」


 そんな場違いな感想を鹿島が漏らす。

 そう。東城たちの目の前には、全長二〇〇メートル近い巨大な前方後円墳がそびえ立っていた。

 その巨大で完全な左右対称の巨大な墓標は、それが千年以上前に造られたものだと分かっているからかいっそ神聖にすら感じられる――というわけもなかった。


 住宅地の真ん中にポツンと錆びた柵で囲まれているその姿は、人工的に丘を造ろうとした失敗作か、あるいは天然の滑り台をうたい文句にしようとして失敗した前衛的な地形の公園にしか見えない。


「周りも家だらけで歩いて五分のところにコンビニまであるし、違和感は凄いよな。これでも県下最大の古墳らしいけど、正直、かなり有名なのが隣の県にあるし必然的にこうなるか」


 古墳と言うとどことなく神社・仏閣と同様に歴史的価値のある観光スポットのように思われがちだが、探せばそこら辺に転がっているものである。これもまた、さびれた神社があるのと同様かもしれない。

 そして、東城たちがこの古墳を訪れた理由もまたもちろん、決して観光などではない。


 ピリッとした感覚が肌を撫でる。

 一瞬にして殺気立ち、傘を投げ捨てて東城たちは臨戦体勢に入る。その全員が睨み据える先に、一人の女性が姿を現す。


「……随分な来客だな。人数も多いし、何よりアポも取らないとは」


 黒いイブニングドレスに身を包んだ栗毛の異邦人――ファーフナー・クリームヒルトである。


「どうしてここが分かったのか、訊かせてもらえるか?」


「推理って言うにもおこがましい単純な話よ」


 ファーフナーの問いかけに、柊が答える。


「アンタたち――アンタには自動人形を作る技術はないらしいから複数で断定するけど――が、二つの王族神器を組み合わせて、時空間を歪めたっていうのは分かった。でもそれだけじゃ何も分からない。だけど、私たちの手元には自動人形がある」


 柊は、壊れ月山に徹底に分解されたその自動人形の残骸を投げ捨てた。


「解析したら、これの中身は手作りらしいじゃない? っていうことは、これを製造するにはかなりの電力を食う。私たちがこの時代に飛ばされたのとアンタが襲いかかってきたのとのタイミングを考えると、目下製造中だろうしね」


「……電力には色々小細工はして数値はごまかしたはずだ。ソレスタルメイデンの捜査能力でもこんな短時間で見つかるとは思えん」


「短時間でも、アンタが交通機関に頼らないで移動したってことは防犯カメラで分かる。ならその範囲に絞って電力の流れを私が直接見ればいい(、、、、、、、)


 にやりと、柊は笑って見せた。

 つまり柊はその手で電線に触れ、街に張り巡らされた電流の流れを感じ取り、それを地図と照らし合わせたのだ。

 そうすれば電力メーターをごまかそうがどうしようが、そこに何も意味はない。透明な土管の中でかくれんぼでもしているくらい滑稽に、正しい電気の流れが柊には分かるのだから。


「おかげで、古墳の中を勝手にくり抜いて秘密基地を作ってることまで分かったわ。重要文化財を堂々破壊するとか、かなり罪重いわよ?」


「なるほど。ならば君たち全員を殺して、口を封じるとしよう」


 柊とファーフナーの視線が交差する。指先一本でも動かせば、すぐにでも衝突が起きるようなほど空気が張り詰める。

 しかし。


「貴女は馬鹿ですか?」


 そんな中で、その緊張感をぶち壊すほど呆れた声で七瀬は言った。――もちろん、と言うべきか、その視線の先は柊美里だ。


「何を生真面目に種明かしまでして、あまつさえ交戦を始めようとしているのですか。貴女の仕事はそこではないでしょう?」


「それは、そうだけど……」


 ここに来る前、一応の作戦会議はしてある。それはもちろん、味方にいる高倉たちがソレスタルメイデンという仮にもプロの戦闘集団であるが故だろう。

 そして立てた細かな作戦のどれもが、少なくとも柊、高倉、鹿島の誰か一人を基地内に残すことを最低限の達成目標としている。彼女たちの電気操作によって基地内の自動人形生産設備や、それそのものを破壊する為だ。


「戦闘中に逃亡される危険性を考慮し、戦闘の安全・確実性よりも攻略時間の短縮が最優先。基地内に自動人形が多くある事を想定し門番の撃破は必要最小限の人数で――が作戦でしたわよね? ならばここはわたくしが引き受けますから、お馬鹿な貴女は大輝様の後ろをくっついてさっさと作戦を遂行して下さいな」


「言い方が腹立つのよ、アンタは……ッ!」


 じとっとした目で柊は七瀬を睨んでいるが、七瀬の方は素知らぬ顔で受け流している。


「にゃあ、でも、わたしたちはいつもを知らないけれど、少なくとも今回は七海っちの言うことの方が正しいよ。さぁ、ここは七海っちに任せて中に行くよ」


「……お前、いったいいつの間に七海さんと仲良くなってるんだ?」


 冷静に呟く鹿島の言葉に、高倉は少しうんざりしたのと驚いたのが混じったような曖昧な声を出した。


「ふっふっふ。これがメイちゃん専用のコミュニケーションスキル――」


「別に仲良くなった覚えは微塵もありませんが?」


「まさかの全否定!?」


 言い合いながらも、柊を先頭に七瀬以外が緊張感を失ったままファーフナーの横をすり抜けようとする。


「通すと思ったか?」


 それを、バルムンクを振り翳したファーフナーが立ち塞がった。当然だ、七瀬が出張ろうが何だろうが、彼女の仕事はあくまで門番。たとえ全員を同時に相手にしようともここより先へ行かせるわけにはいかないだろう。

 だが。


「――思ってないけれど、アンタのそれは意味がないわよ」


 柊は小さくため息をついて、こう言った。



「だって、七瀬が無理やりでも道を作るに決まってるんだから」



 直後だった。

 振りかざしたバルムンクに宙に浮いた状態の水のランスがぶつかり、振り下ろすことを阻止していた。


「言っておきますが、これはわたくしが大輝様を安全に深奥へと導かんが為の行為であって、決して貴女を守ったわけではありませんわよ?」


「あー、そうですか。――だってよ、大輝」


「このタイミングで俺に振るなよ。……まぁ、ごちゃごちゃ言うなって前に七瀬に言われたことだしな」


 がしがしと頭の後ろを掻いて、東城はいつしか彼女に戦場を任せた日のことを思い出した。柊美里が所長にさらわれ、一刻も早く助け出さねばならなかったあのとき。

 彼女はまた今のように、たった一人で邪魔な敵を引き受けてくれたのだ。

 だから、東城はあのときの言葉を口にする。


「……任せるぜ」


「言われずとも」


 その東城の言葉に全く同じように七瀬は返し、それを合図に東城たちは古墳の中をくり抜いた基地の中へと飛び込んだ。




 走り去る東城の背中を視界の端に納めながらも、七瀬はファーフナーと向き合っていた。


「……掛かって来ないのですか?」


「面白い力を持っているな、君は」


 七瀬の問いを無視して、ファーフナーは彼女が握る透明の水のランスを指差した。


「これもティタニアの作戦の影響か。まぁ、いずれにしても私のすることは変わるまいよ」


 ずっと片手で握っていたバルムンクを、ファーフナーは両手で握り直す。


「珍しさと強さは等しくないのが相場なのだが――君ならその固定観念を覆してくれそうだ」


「御期待に添うつもりは全くないのですが――貴女に、いや、大輝様の覇道の邪魔をする全ての者に、わたくしは負ける訳にも行きませんので」


 にっこりと、一部の隙もなく完全に造りこんだ笑みで七瀬は笑う。

 二人の視線が交差すると同時、剣閃もまた交差した。



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