文章
文章を読んでいた。
それは、ある女流作家の書いた小説で、彼女は少し前に、ヒット作を出していた。僕はそのヒット作は読んでいなかったし、だからもちろん、この女流作家のファンって訳でもなかった。その小説を買ったのは、ほんの気まぐれだったのだ。
女流作家の文章はつまらなかった。
もちろん、綺麗に整った読み易い文章ではあった。でも、それだけだった。ああ、この作家は人から、よく思われたがっているんだな。僕にはそれが感じ取れた。かっこつけた文章。他人からよく思われよう、思われよう、と努力している。でも、その努力を繰り返せば繰り返すほど、文章はどんどんと偽モノになっていく。中身のない空っぽの、うわべだけのものに。
だけど、
少しだけ、様子がおかしかった。
僕は彼女の書いた文章から、妙な気配を感じ取っていた。はじめ、それが何なのか僕には分からなかった。でも、徐々にその正体に気が付いていった。彼女は苦しんでいる。そう、この女流作家は苦しんでいるのだ。恐らく、彼女自身も気付いているのだろう。自分の書いている文章が、偽モノである事に。そして、彼女はそれを否定したがっている。しかし、どうすれば自分の文章が本当になるのかは分からない。それで、苦しみもがいている。他人からよく思われたい。でも、その為にだけ書く文章には中身がない。中身が欲しい。でも、中身はどうやったら手に入れられるのだろう?
やがて、彼女の文章は悲鳴を上げ始めた。もちろん、表面上は普通の文章だ。壊れたりはしていない。しかし、注意深く読むと、微かなそれを感じ取る事ができる。
しかし、悲鳴を上げ始めた文章には力があった。苦しみが、文章に吐き出されてくる。でも、彼女はそれに気付いていない。いないからこそ、力は失われなかった。そして、僕はそれを、面白い、と感じたのだ。この小説は、そんなに売れなかったし、どうやら評価も低いみたいだったけど…
もちろん、ここまでは分かりませんよ。
というか、分かった気になっても、ただの気の所為だと思います。