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【痛みの帝王】 〜65歳で全ての激痛を経験した男、異世界で“痛みを操る”チートを得て成り上がる〜  作者: ボルトコボルト


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第35話 家宝の剣と影の気配──青年が渋々伸ばした手

 領主邸の門をくぐった瞬間、ドロルは眉をひそめた。


 空気が重い。湿った魔力が肌にまとわりつくような、嫌な感覚だ。


 窮奇が低く唸る。

「主殿……この屋敷、何者かが侵入を試みておるぞ」


「……だから来たくなかったんだよ」

 ドロルは肩をすくめた。


 領主家と関わるのは面倒だ。迷宮都市がどうなろうと構わない。


 危険になれば窮奇と逃げればいい──それがドロルの本音だった。


 兵士に案内され、二人は領主代理アランの部屋へ向かう。


 扉が開くと、アランが深く頭を下げていた。

「ドロル殿……来てくださり、本当にありがとうございます」


 ドロルは淡々と答える。

「話だけ聞きます。護衛を受ける気はありません」


 アランの肩がわずかに震えた。

 青年らしい弱さが滲む。


「……父は暗殺されました」

 アランは静かに語り始めた。


「毒か、魔術か……方法すら分かりません。

 主治医は行方不明。侍女は突然辞め……

 屋敷の結界も破られかけました」


 ドロルは表情を変えない。

「お気の毒ですが、私には関係のない話です」


 アランは唇を噛む。

 それでも続けた。


「あなたが商人を護衛してくれなければ……

 私は治療薬を受け取れず死んでいました」


「幻肢痛も……あなたが治療してくれた。

 私は……あなたに命を救われたのです」


 ドロルは軽くため息をつく。

「商人の依頼を受けただけです。あなたを助けるつもりはありませんでした」


 アランは一瞬、言葉を失った。

 それでも、必死に続ける。


「商人から聞きました。

 窮奇殿が隣領の兵士を無力化したと」


 ドロルは内心で眉をひそめる。

(本当は俺だけど……まあ、言う必要はない)


 アランは続けた。

「兵士たちは森で魔獣に殺されたと……森は危険な場所ですから」


「ですが──兵士が商人を襲ったのは“自然”ではありません。

 誰かが動かしているのです」


 ドロルは短く答える。

「……それは否定しません」


 アランは深く息を吸い、震える声で言った。


「どうか……私を守ってください。

 あなたしか頼れないのです」


 ドロルは即答した。

「断ります」


 アランの顔が青ざめる。


「……っ」


 ドロルは淡々と続けた。

「私は迷宮都市がどうなろうと構いません。

 この都市の住民ではない。

 危険になれば窮奇と逃げます。

 あなたを守る理由はありません」


 アランは絶望したように俯いた。

 その手が震えている。


 やがて、アランはゆっくりと箱を開いた。

 中には、古い銀の光を放つ宝剣があった。


「……これを」

 アランは震える手で差し出す。


「父が保持していた家宝の宝剣です。

 どうか……これを報酬として受け取ってください」


 ドロルは宝剣を一瞥し、静かに言った。

「宝剣だけでは受けません」


 アランは息を呑む。

 それでも、必死に続けた。


「……金貨も支払います。

 護衛の間、依頼を受けられず収入が途絶えるのは理解しています」


 アランは少し言い淀む。

 毒殺の恐怖があるのだろう。

 慎重に言葉を選んでいる。


「食事は……その……」

「私と同じ物を。

 毒の心配がないようにして……同じ料理を出します」


「寝床は……私の寝室の隣の部屋を使ってください。

 護衛のためにも、その方が……良いでしょう」


 窮奇が鼻を鳴らす。

「主殿、これは悪くないぞ。

 宝剣、金貨、食事、寝床……依頼として十分じゃ」


 ドロルは少し眉を寄せた。

 面倒事は嫌いだ。

 本当に嫌いだ。


 だが──条件は悪くない。

 そして、アランの必死さは本物だった。


 その時だった。


 窓が黒く染まり始めた。

 影がじわりと広がり、部屋の空気が冷たくなる。


 アラン

「な、なんですか……これ……?」


 窮奇

「影じゃ!迷宮の魔獣の気配!」


 ドロル

「……アラン殿を狙っている」


 影は窮奇の咆哮で弾けるように消えた。


 アランは震えた声で言った。

「本当に……私を……?」


 ドロルは静かに答える。

「ええ。あなたは“影の標的”です」


 部屋に静寂が落ちた。

 アランは震えながらドロルを見つめている。


 ドロルは深く息を吐いた。


(……面倒だ。本当に面倒だ)

(だが、この状況で放置すれば、アランは確実に死ぬ)


 ドロルはゆっくりと口を開いた。

「……分かりました。護衛を引き受けます」


 アランの目に涙が浮かんだ。

「ありがとうございます……!」


 ドロルは肩を落とした。

「……本当に面倒事は嫌いなんだよ」


 その言葉は、誰に向けたものでもなかった。

 ただ、青年の姿をした老練な冒険者の、静かな本音だった。

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