第14話 迷宮都市ギエラへ──聖獣従魔とEランクの入城劇
「なあ、アガルドから聞いたんだが、魔獣を眷属にすると、召喚と送還が出来るんだって?」
ドロルは、窮奇の背に腰を落ち着けながら問いかけた。風が強く、目を細めていないと涙が出るほどだ。
「ええ、出来ますね」
窮奇は当然のように答えた。空を飛びながらでも声はぶれない。さすが聖獣だ。
「ほほう、そうか。それでは街に入る前に送還すれば、面倒な事にはならないか……」
ドロルは顎に手を当てて考え込む。
窮奇は首だけ振り返り、低い声で言った。
「急に入る事になったら、一層面倒な事になりますよ。始めに顔見せしたほうが良いでしょう」
「それもそうか。従魔の証があれば普通は問題なく入れるんだからな。あの街の衛兵達は何をしたかったんだよ、全く」
ドロルはため息をついた。
二人は迷宮都市ギエラへ向かう途中、小休止を取っていた。
窮奇曰く「ひとっ飛びです」と自信満々だったが、実際に参ったのはドロルの方だった。
同じ姿勢で、鞍も鐙もない野生の魔獣──いや聖獣──に乗るのは、想像以上に疲れる。
しかも飛行だ。風は強く、体は冷える。
ドロルは肩を回しながらぼやいた。
「ギエラに行ったら、色々買わないとな」
窮奇に合わせた鞍、鐙、その他の馬具。
飛行用のゴーグル。
寒さ耐性のある服。
そしてマジックバッグ。
今まで宿代と食事代しか使わなかった貧乏性のドロルは、かなりの金を貯めていた。
「鋼鉄の光」からせしめた金貨も手つかずだ。
簡単な食事を済ませると、ドロルは窮奇の背に飛び乗った。
「さあ、行くぞ」
「はい! 行きますよ!」
窮奇は翼を広げ、空へ舞い上がった。
◇
迷宮都市ギエラの門前に到着した瞬間、騒ぎは起きた。
窮奇と並んで入城待ちの列に立っただけで、周囲の者たちは驚き、距離を取り、ざわざわと騒ぎ始めた。
「聖獣だぞ……!」
「キラーベアを抱えてたやつじゃないか……!」
「なんでギエラに……?」
その騒ぎを聞きつけた門番が駆け寄ってきた。
だが、前の街とは違い、ギエラの門番は冷静だった。
「うかがっております。窮奇殿と、その主のドロル殿ですね」
窮奇を見て一瞬ギョッとしたが、すぐに態度を整えた。
どうやら、冒険者ギルドのギルマス・ダルトが事前に連絡してくれていたらしい。
「都合が合えば、是非領主がお会いしたいとお願いしておりました」
門番は丁寧に頭を下げた。
「任意なら断るぞ」
ドロルは即答した。
「はい、強制ではございませんので」
門番はそれ以上しつこく言わず、二人を通した。
門をくぐると、街の中は一気に騒然となった。
住民たちは驚き、恐れ、道をあける。
窮奇は堂々と歩き、ドロルはその横を淡々と進む。
そして──冒険者ギルドに到着した。
ギエラのギルドは魔獣も通れるように入口が大きく作られている。
窮奇と一緒に入ると、室内のガヤガヤした空気が一瞬で静まり返った。
全員が窮奇を凝視している。
受付嬢の一人がカウンターから出てきて、ドロルの前に立った。
「ドロル様ですね。ダルト様からお聞きしております。ギルマスがお待ちしておりましたので、ご案内します」
「いや、俺はギルマスに用事はないぞ」
「儂も用事はないな」
窮奇が低い声で言った。
受付嬢は目を見開いた。
「しゃ、喋った!!」
周囲の冒険者たちもざわつく。
「やっぱり、流石聖獣ですね……」
受付嬢は頷き、ドロルに向かって手を差し出した。
「こちらです」
「ギルマスに会うって言ってないんだが……」
ドロルは頭をかきながら、仕方ないという顔で受付嬢の後に続いた。
窮奇も静かに後ろを歩く。
ギエラの冒険者ギルド──
ここから、ドロルと窮奇の新たな物語が始まる。




