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【痛みの帝王】 〜65歳で全ての激痛を経験した男、異世界で“痛みを操る”チートを得て成り上がる〜  作者: ボルトコボルト


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第1話:痛みの果てで、男は境界に立つ

 薄暗い病室。

 伊丹久蔵は、天井の白い板をぼんやりと見つめていた。


「……また、痛いな」


 声にするだけで、腹の奥がじわりと熱を帯びる。

 膵臓がん。医師からそう告げられたとき、久蔵は驚きもしなかった。


 ――ああ、またか。

 そんな諦めの感情が先に来た。


 尿管結石の激痛で七転八倒した日。

 痛風で足指が腫れ上がり、歩くことすらできなかった日。

 歯髄炎で眠れず、三叉神経痛で顔半分が焼けるように痛んだ日。

 群発頭痛で壁を殴り続けた夜。

 帯状疱疹で皮膚が触れるだけで悲鳴を上げた朝。

 心筋梗塞で胸が裂けるように苦しく、くも膜下出血で視界が白く飛んだ瞬間。


 思い返すだけで、身体が震える。


「……なんで、俺ばっかりなんだよ」


 誰に向けた言葉でもない。

 ただ、空気に溶けていく。


 看護師が入ってきて、優しく声をかける。


「伊丹さん、痛みはどうですか?」


「……まあ、いつも通りだよ」


 嘘だ。

 本当は、今すぐ叫びたいほど痛い。

 腹腔神経叢を圧迫する痛みは、内臓の奥で燃えるように続いている。

 骨にも転移しているらしく、寝返りを打つだけで骨が軋む。


「鎮痛剤、もう少し効くと思いますからね。何かあれば呼んでください」


「……ああ」


 看護師が出ていくと、病室は再び静寂に包まれた。


 久蔵は、ゆっくりと目を閉じる。


「……死にたい。もう、いいだろ……」


 誰にも聞こえない声でつぶやく。


 長年勤めたブラック企業をようやく定年退職し、

「これからは悠々自適だ」と思った矢先に病気の連続。

 運動もできず、暴飲暴食もしていない。

 健康管理?そんなもの、できるわけがない。


「……はは。なんだよ、人生って」


 笑うと腹が痛む。

 それでも、久蔵は笑った。


 その瞬間だった。


 ――ズンッ。


 腹の奥が、今までにないほど強烈に痛んだ。


「ぐっ……ああああああああ……!」


 声にならない叫び。

 背中まで電気が走るような痛みが突き抜ける。


 体性痛、内臓痛、神経障害性疼痛。

 全部まとめて襲ってきたような感覚。


「だ、誰か……鎮痛薬……くれ……!」


 ナースコールに手を伸ばそうとするが、指が震えて押せない。


「……ああ……もう、だめだ……」


 視界が暗くなっていく。

 痛みが、意識を飲み込んでいく。


 ――そのとき。


「……痛み、か。ずいぶんと、苦しんできたな」


 どこからともなく、声が聞こえた。


 男の声でも女の声でもない。

 若くも老いてもいない。

 ただ、耳に心地よい、不思議な響き。


「誰だ……?」


「お前の名は、伊丹久蔵。六十五年の人生で、数多の痛みを経験した男」


「……そんなこと、どうでもいいだろ……」


「どうでもよくはない。痛みを知る者は、痛みを制する力を持つ」


 久蔵は、ゆっくりと目を開けた。

 病室ではない。

 真っ白な空間。

 身体の痛みが、嘘のように消えている。


「ここは……?」


「境界だ。生と死の狭間。お前は今、死にかけている」


「……そうか。じゃあ、死なせてくれよ。もう疲れたんだ」


 声の主は、ふっと笑った。


「死ぬことは簡単だ。だが――お前には、まだ役目がある」


「役目……?」


「痛みを知る者にしか扱えぬ力がある。

 お前はその適性を持っている」


 久蔵は眉をひそめた。


「適性?俺が?こんなボロボロの老人が?」


「老人だからこそ、だ。

 お前は痛みを知り、痛みを耐え、痛みに折れなかった。

 その経験は、誰にも真似できぬ強さだ」


 白い空間に、光の粒が集まり始める。

 やがて、それは一つの文字列となった。


 《スキル:ペイン(痛みの制御)》


「これは……?」


「痛みを操る力。自分の痛みを消すことも、他者の痛みを奪うこともできる。

 痛みを力に変えることも可能だ」


 久蔵は、ぽかんと口を開けた。


「そんな……漫画みたいな……」


「漫画ではない。異世界だ」


「……異世界?」


「そうだ。お前はこれから、異世界へ転生する。

 痛みを知る者として、痛みを制する者として。

 その世界で、お前は――天下を取る」


 久蔵は、しばらく黙っていた。

 そして、ゆっくりと息を吐いた。


「……痛みのない身体で、生きられるのか?」


「お前次第だ。痛みをどう扱うかは、お前が決める」


 久蔵は、初めて自分の胸の奥に、微かな熱を感じた。

 希望と呼ぶには小さすぎる。

 だが、確かにそこにある。


「……わかった。行かせてくれ」


「よかろう。伊丹久蔵――新たな世界で、痛みを超えろ」


 光が久蔵を包む。

 その瞬間、彼は最後に小さくつぶやいた。


「……痛みのない人生って、どんなだろうな」


 そして、久蔵の意識は光の中へ溶けていった。

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