霧
ずっと頭の中でくるくるしていたものを、外に出した。
なんとなく、すっきりした気がした。
それと同時に、私が大切にしていたものが、全部消えた気もした。
わかりやすく言葉にした瞬間に、そうなってしまうことがわかった。
だから、誰にも伝わらないような、私だけがわかるものを書いた。
読み返して、私だけが思い出せるように。
誰に読ませるでもなく、私が今どうなっているのかを確認するように。
わかるものは、つまらない。
霧に包まれているものの方が、ずっと魅力的に映る。
現実がつまらないと、みんなどこかで分かっているのかもしれない。
現実を見たこともないけれど。
全部知っている気になって、あきらめているんだろう。
経験が、私たちをそうさせる。
今まで起きたことがないから起きるはずがないと、少しずつすり減っていく。
それを、成長と呼ぶ。
何を得て、何を失ったのか。
何を経て、難を失ったのか?
私が失ったのは、純粋。
何が起きるんだろうと期待すること。
私が得たのは、あきらめ。
どうせ何も起こりはしないだろうという、体力の低下。
期待を裏切られ続けた人間が、こうなっていく。
それが正しい姿だろう。
期待どうりにうまくいくなんてことは、ない。
そんな世の中は回っていかない。
誰もが凄ければ、社会は成り立たない。
私はこうして死んでいく。
今を見つめて、死にゆく姿を自覚しながら。
私は、延命治療でもしているつもりなんだろうか。
ここでいいやと納得しているのは私なのだから、私を殺しているのは私だろうに。
私も、理由を探している一人なんだろう。
どうしようもなく頑固だから、動く気配がないけれども。
もういいかなと、そんな言葉が頭をずっと回っている。
それは、もう満足したからでもあるけれど。
彼の言葉で、私の人生はいともたやすく余生になったことだし。
好きなことを言って、好きなことをして生きていきたいものです。
それができるほど、私は強くないのですが。
書くことが自分を殺すことなら、私はずっと、遺書を書いているのでしょう。
儀式のようなものでしょうか。




