プロローグ
頭上のシャンデリアは光を美しく反射し、私の煌びやかなドレスの上で輝く。
ありきたりな、貴族令嬢アルダト=リラである10歳の誕生日。
初めて、私は私の婚約者である王子に出会った。彼はミハイル、と名乗り私の手の甲にキスを落とした。
ふと王子の隣にいた側近の顔を見る———その瞬間私は全てを思い出した。
ここは乙女ゲーム『神託のヴァルキリア』の世界。
攻略対象であった王子の彼はミハイル。そして、王子の隣にいる彼は、イブリース。
イブリースは私の最推しで、ゲームを何十回もやり込んだきっかけの唯一の人。
思い出した後のことはぼんやりとしか覚えていない。何となく、慣れない社交辞令を述べて帰っていく婚約者を見送ったような気がする、だけ。
次の日の朝、目が覚めて鏡を五度見しても世界は変わらなかった。やっぱりここは『神託のヴァルキリア』の世界。
昨日のことを思い出し、前世からの癖なのかベットに転がり込んで身悶える。やっぱり夢じゃない、昨日私は最推しのイブリースに出会ってしまった。
前世私はどう死んだのかとか、どうして転生したのかとか、それも気になるけれどそれどころじゃなかった。
王室側近、イブリース。さらさらした天使の輪が見える黒髪と糸目が特徴のシャープなイケメン。隠された瞳は、最後まで一度も見られなかった。群を抜いて大人びた言動と思慮深さを持ついわゆる有能。
でも、私が好きになったのはそれだけじゃない。彼は黒幕だった。
国王暗殺事件の発端も、ゲームの主人公が記憶を失うのも、王子の婚約者であったリラが裏切ったのも、全部、彼が裏で糸を引いていた。
その理由は、国を守るためだった、と簡素な言葉で締められてはいたものの、当時初めてトゥルーエンドでこの一文を知った私は思わず涙した。
でもいつも物語の最後死んでしまう、ゲームを何十回と繰り返した私でもこの結末は覆せなかった。どうして彼は命をかけてでも国を守りたかったの?……今はまだ分からない。
今私が10歳なら、今から11年後。イブリースは死に、私———リラはおそらく追放される。
もしかしたら、本当はこの世界はまだ私が見ている夢なのかもしれない。けど、夢でも大好きなイブリースに会えた、出会えてしまった。
ならせめて、夢の中だけでも最推しには幸せになって欲しい。
私は、イブリースに魅了魔術で操られ呆気なくやられてしまった雑魚悪女アルダト=リラ。
操られる必要なんてない、私自身の意志で彼を助ける。
イブリースを救うためなら、私は真の悪女にだってなる。
一度、プロローグだけを投稿することにしました。ネタ被りが起こると怖いからです……。今後エピソードが貯まり次第地道に更新します