名古屋ブレンド・恋とズレ企画とハーモニカの音色
名古屋・久屋大通。
街路樹はライトアップされ、
「ここを歩くだけで恋が始まりそう」
と観光パンフレットが盛りがちに書きそうな夜。
その道端で、遥広報官はため息をふんわり吐いた。
「……美音ちゃん、なんであんな完璧なのに、今ひとつ仲間に溶け込めんだらねぇ」
隼人司令補佐官は、やわらかく笑って返す。
「河合さんは優秀すぎるんです。
戦闘、機動力、免許の数、全部ハイスペック。
ヒロインとしては理想そのものですが……
“人間味のスキマ”がないと、人気に跳ね返るんです」
二人は喫茶店へ入る。
外観はおしゃれでも、中身は昭和レトロな“名古屋の魂”がむき出しの店。
カップを置く衝撃でカウンターの灰皿が揺れる、あの雰囲気。
頼んだブレンドコーヒーには、当然のように小倉トーストが付いてきた。
遥
「……静岡代表としては、美音ちゃんが気になるだら。
話し方は優しいし、実力は申し分ないのに……
なんで人気が出んだら」
隼人
「人気は“隙”です。
河合さんにはその隙が少し足りません」
遥
「……いい子なんにねぇ」
隼人補佐官はカップを置き、わずかに身を乗り出した。
「では、美音さんの良さを引き出すイベントを考えましょう。
僕と遥さんで」
遥
「え? こんな雰囲気で企画会議やるだら?」
隼人
「はい。今夜は“恋と業務の境界線”を曖昧にしてみようかと」
遥
「言い方ェ……」
二人は顔を見合わせて笑った。
どこか懐かしい、新人の頃に戻ったような空気が流れる。
隼人
「まずは浜松らしさを押し出した案です。
美音さんと一緒に“浜松まつりの凧揚げ体験”はどうでしょう?」
遥
「戦隊ヒロイン、凧揚げる……?
まぁ映えそうだけど……なんかズレとるねぇ」
隼人
「では“ハーモニカ100人合奏企画”」
──昭和の商店街でありそうな発想。
遥
「うーん、こちらも……嫌いじゃないけどズレとるねぇ」
隼人
「それでも、盛り上がるはずです」
遥
「人気はどうだら?」
隼人
「……現状維持かと」
遥はコーヒーを吹き出した。
「現状維持て! うちら何しとるだら!」
隼人
「ですが、美音さんの魅力は引き出せます。
人気は……徐々に、です」
遥は苦笑しつつも、隼人の横顔に昔のときめきを少し思い出す。
(まったく……昔からこうだら。この人、説明は丁寧なのにズレとる……)
店を出ると、名古屋の夜風は少し冷たく、
遥はマフラーをきゅっと締めた。
隼人
「河合さんの件、僕に任せてください。
必ず彼女を“人気も実力も備えた勇者”に引き上げます」
遥
「……ありがと。ほんと頼れるねぇ」
ほんの一瞬、沈黙。
ほんの一瞬、隼人は遥の顔に視線を落とす。
遥
「……ねぇ、隼人くん」
隼人
「はい」
遥
「美音ちゃんの件で、また名古屋で会議やろまいかね」
(名古屋弁混じるのは照れてる証拠)
隼人
「喜んで」
二人の距離が、わずかに近づいた。
恋と仕事が同じテーブルに置かれる夜。
名古屋の街は、二人の再会に少しだけ彩りをくれた。




