応援席のヒロイン
全国大会の舞台は、東京都内のエアードームの巨大球場。
その中でも、ひときわ目立つ白と赤の応援団。
近畿学院大学のチアリーダー、美月は、仲間とともにスタンドの最前列に立ち、肩をいからせて気合いを入れていた。
「いっちょやったらんかいッ!!」
場内のマイクを通して飛んだ河内弁の声に、他校応援団からどよめきが起きる。美月の声は、この全国の舞台でもブレなかった。
ドームの空調に流れる応援歌。キレのあるチアの動き。ブラスバンドが奏でるアップテンポのフレーズに合わせて、美月は誰よりも高く飛んだ。
――だけど、試合は厳しかった。
相手は関東大学リーグを無敗で勝ち抜いた強豪・東城帝国大学。エースはU-23日本代表候補、打線は全国屈指の破壊力。序盤から押され気味の展開。
それでも、応援の手は止めなかった。
「踏ん張りどきや! ウチらが背中押したる!!」
チアリーダーとして、戦隊ヒロインとして、そして一人の“応援屋”として――美月は声を張り上げ続けた。
七回裏、近畿学院大学が一点差まで追い上げる。ドームに歓声が響く。
しかし、九回表に追加点を許し、試合は3対5で敗れた。
スタンドに沈む沈黙。
選手たちはグラウンドに一礼し、帽子を取って応援席に向ける。
その瞬間、美月は目に涙を浮かべながら、満面の笑顔で叫んだ。
「よう頑張った! ホンマにカッコよかったでぇぇぇぇ!!」
チア仲間が肩を叩き合いながら泣く中、彼女の声だけが、ドームの空に突き抜けた。
試合後、記者のメモ(地方紙風)
近畿学院大学は惜しくも二回戦敗退。
勝負は敗れたが、一塁側スタンドから響く赤嶺美月さんのエールは、全国に響いた。
一糸乱れぬチア演技と、魂のこもった河内弁の声援は、彼女が戦隊ヒロインであることを知らない観客の心にも届いたに違いない。
「応援の力が、プレーを変える」。それを証明する存在が、今ここにいる。