三つの正義、三つの田んぼ ― 宇宙刑事トラクターと人情派と野生児の現在地
常陸太田の朝は、今日も無駄にカッコよかった。
「状況確認。視界クリア。任務を開始する」
低く響く声。
ドリームトラクター蒼牙2000・改――
現在の人格モードは完全に“宇宙刑事”。
無駄に正義感が強く、無駄に決まりすぎている。
「了解です」
その横で、山口唯奈が素直に応じる。
これがまた異様だった。
つい最近まで、
「うるせぇ!!」
「お前が邪魔だっぺ!!」
と怒鳴り散らしていた野生児が、
今は――
「次の区画、行きます」
「任せろ」
「はい」
完全に助手ポジション。
畑の真ん中で、
トラクターと農家の娘が
やたらキマった掛け合いをしている。
「対象確認。雑草群、前方に密集」
「了解、排除します」
「油断するな」
「はい」
おかしい。
どう考えてもおかしい。
だが――
めちゃくちゃ効率がいい。
遠くで見ていた近所のおっちゃんが呟く。
「なんだあれ……新しい農法か?」
唯奈は、どこか誇らしげだった。
「どうだ」
「なんだ」
「オラたち、いいコンビだっぺ」
一瞬の間。
「当然だ」
「へへ」
完全に信頼関係が出来上がっている。
しかも。
蒼牙はもう――
一切、余計なことを言わない。
「菜帆さんは――」
あのセリフは完全に消えた。
唯奈は内心ホッとしている。
(あれ出ねぇだけでだいぶ楽だっぺ……)
一方その頃。
新潟。
「おばあちゃん、大丈夫ですか?」
本間菜帆がしゃがみ込んでいる。
水路を覗き込みながら、真剣な顔。
「ここ、少し詰まってますね」
「すぐ直します」
柔らかい新潟弁。
落ち着いた声。
「いやぁ助かるわぁ、菜帆ちゃん」
「いえいえ、私も勉強になりますから」
派手な戦闘もなければ、
爆発もない。
だが――
人はいる。
困っている人がいる。
「この辺の水の流れ、最近ちょっと変なんですよね」
「一緒に見てみましょう」
まるでどこかの人情刑事のように、
菜帆は一人、地道に現場を回る。
農機の不調、
収穫の相談、
水路の詰まり。
全部、真正面から向き合う。
「戦隊ヒロインですから」
そう言って笑う。
だがその顔は、
ちょっとだけ嬉しそうだ。
その頃、常陸太田。
「任務完了」
「収穫完了です」
「同義だ」
夕焼けの中、並ぶ二人。
「なあ」
「なんだ」
「これでいいのか?」
蒼牙は迷いなく答える。
「問題ない」
「任務は遂行されている」
唯奈、少しだけ考えて。
「……そうだな」
だが次の瞬間。
スマホを取り出す。
「……でもよ」
「なんだ」
「イズ様の新曲出てんだっぺ」
沈黙。
「再生するっぺ」
ポチ。
音楽が流れる。
数秒後。
プツン。
音が止まる。
「……」
「……」
「なんで止めた」
「任務中だ」
「ちょっとぐらいいいだろ!!」
「ダメだ」
「厳しすぎるっぺ!!」
完全復活、漫才。
遠くの畑から、おっちゃんがまた呟く。
「やっぱ普通じゃねぇな……」
その頃、新潟。
「じゃあ、これで大丈夫です」
「ほんと助かったわぁ」
菜帆が立ち上がる。
空を見上げる。
「……あの二人、元気かな」
少しだけ笑う。
その頃、常陸太田。
「任務優先だ」
「ちょっとぐらい推し活させろ!!」
「ダメだ」
「ケチだっぺ!!」
三人の距離は離れている。
だが繋がっている。
恋でもなく、
ライバルでもなく、
ただの仲間でもない。
それぞれの場所で、
それぞれのやり方で、
同じものを守っている。
そして何より。
この三角関係は、
めちゃくちゃ面白い。
夕焼けに染まる田んぼで、
宇宙刑事トラクターと助手が言い合いを続ける。
その光景を、
誰も説明できないまま――
物語は、ここで一度幕を下ろす。
だが終わりではない。
むしろ、
ここからが本番だ。




