誤配信ヒーロー爆誕!? ― トラクター、執事からレッドへ大暴走
常陸太田市、朝の農機具倉庫。
薄暗い中に、やたらと物々しい空気が漂っていた。
ノートPC、配線、工具。
そして腕を組んで立つすみれコーチと、キーボードに向かう明日香。
「……最終確認」
すみれが低く言う。
「今回の修正内容は?」
明日香、指を止めずに答える。
「嫉妬系の挙動を制限、対話優先度を正常化」
「あと、口調は元の“執事モード”に固定」
すみれが頷く。
「そうだ」
蒼牙2000・改の本来設定。
30歳前後の落ち着いたイケメン執事。
丁寧で冷静、淡々と最適解を提示する――
それが本来の姿。
「……変な癖ついてるからな」
「うん、リセットしないとね」
明日香がエンターキーを押す。
「パッチ、送信」
画面に表示。
《アップデート完了》
「再起動」
すみれが言う。
ウィィン……
一度静寂。
数秒後。
蒼牙2000・改が再起動する。
「……蒼牙」
すみれが呼ぶ。
一拍。
そして――
「――任せろ!!!」
倉庫に響く大声。
「この大地の平和は俺が守る!!!」
「……は?」
完全に空気が止まる。
明日香、固まる。
「……あれ?」
すみれ、ゆっくり振り向く。
「……何入れた」
明日香、画面を確認。
スクロール。
「あ」
一言。
「執事モードじゃなくて」
さらにスクロール。
「あー……」
「戦隊ヒーロー“レッド”の人格テンプレート入ってる」
「は?」
「やっちゃった☆」
「やっちゃったじゃねぇ!!!」
その頃。
何も知らない唯奈は畑で準備をしていた。
「よし、今日もやるっぺ」
そこへ。
蒼牙2000・改、登場。
「唯奈!!!」
声が無駄にデカい。
「今日も最高の一日にしよう!!!」
「……は?」
「仲間と共に戦い!!!」
「戦わねぇっぺ!!」
「勝利を掴むんだ!!!」
「収穫だっぺ!!」
完全にズレている。
作業開始。
だが――
「まずはフォーメーションだ!!!」
「フォーメーション!?」
「隊列を整えろ!!!」
「一人だっぺ!!」
さらに。
「唯奈!!!お前は俺の右腕だ!!!」
「なってねぇっぺ!!」
「共に戦う戦士だ!!!」
「農家だっぺ!!」
テンポが完全にコント。
唯奈、イライラが溜まる。
「おい!!普通にやれ!!」
「普通では世界は救えない!!!」
「世界救わなくていい!!」
「甘いぞ唯奈!!!」
「甘くねぇ!!」
しかも無駄に熱い。
「困難は乗り越えるためにある!!!」
「今困難はお前だっぺ!!」
さらに。
「次の作業は俺が決める!!!」
「オラが決めるっぺ!!」
「違う!!!チームで決める!!!」
「チームいねぇだろ!!」
完全にリーダー気質。
だが。
相手は唯奈。
「いいか唯奈!!!」
「なんだよ!!」
「一人では戦えない!!!」
「戦ってねぇ!!」
「仲間を信じろ!!!」
「お前が邪魔だっぺ!!」
衝突。
「聞け唯奈!!!」
「聞かねぇ!!」
「聞け!!!」
「聞かねぇ!!」
完全に戦隊レッド vs 反抗的ブルー。
しかも農業現場。
遠くで見ている二人。
すみれと明日香。
「……ひどいな」
「うん」
明日香、苦笑。
「執事どこいった」
「消えた」
畑ではまだ続く。
「この畑を守るんだ!!!」
「守ってるっぺ!!」
「もっと熱くなれ!!!」
「もう暑いっぺ!!」
ついに唯奈が叫ぶ。
「うるせぇぇぇぇ!!!」
「いいか唯奈!!!」
「いいから黙れ!!」
その瞬間。
静寂。
そして。
すみれがぽつり。
「……戻すぞ」
明日香、頷く。
「うん」
そして一言。
「これはダメだこりゃ」
その横で。
蒼牙がまだ叫んでいる。
「俺たちは一つだ!!!」
「一つじゃねぇ!!!」
夕暮れの田んぼに響く、熱血とツッコミ。
こうして。
嫉妬を止めるはずの修正パッチは――
まさかの“戦隊レッド化トラクター”という新たな災害を生んだのだった。
そしてすみれの結論。
「……恋の方がまだマシだったな」
明日香、深く頷く。
「完全に同意」




