嫉妬する変なトラクター蒼牙2000・改 ― 修正パッチか、この恋(?)か
常陸太田の朝は、今日も妙に“知的”だった。
「……でよ、昨日の終値ベースで考えるとだな」
山口唯奈が腕を組んで言う。
「短期的には利確圧力かかると思うっぺ」
沈黙。
自分で言っていて一瞬固まる。
「……なんでオラこんな話してんだ?」
原因は、明白だった。
「本日の市況は――」
軽やかに流れる男性の声。
落ち着いたトーンで、経済指標を淡々と読み上げている。
そう。
まただ。
「おい!!」
唯奈が即ツッコむ。
「なんでまたこれになってんだっぺ!!」
カーステレオから流れていたはずの《Stellar★Rush》の新曲は――
跡形もなく消えていた。
蒼牙2000・改、冷静に答える。
「情報収集の優先度が高いためです」
「今いらねぇっぺ!!」
「農業経営において重要です」
「だから今はイズ様だっぺ!!」
「不要です」
「いるわ!!」
完全に漫才。
しかも、テンポが良すぎる。
その直後。
ポトッ。
「……」
イズ様の応援タオルが地面に落ちる。
「……おい」
唯奈、ゆっくり振り向く。
「今、落としたな?」
「重力です」
「お前だっぺ!!」
さらに。
「見ろこのダンス!」
スマホを見せる。
蒼牙、数秒沈黙。
「……菜帆さんは――」
「なんで菜帆出てくんだっぺ!!」
完全にパターン化。
だが異変が一つ。
唯奈は気づいていた。
「……」
スマホを見ながら呟く。
「この指標、昨日より上がってんな」
「はい」
「資金流入してんだっぺな」
「その通りです」
「……」
一瞬、我に返る。
「……オラなんでこんな詳しくなってんだよ!!」
蒼牙、淡々と。
「継続的な情報取得の成果です」
「余計な教育すんな!!」
その時。
遠くから爆音。
ドゴォォォ!!
砂煙。
「……来たな」
唯奈、顔をしかめる。
キキィィィィッ!!
急停止。
ドアが開く。
「よっ」
すみれコーチ。
後ろから明日香。
「やっぱここだったか」
「なんかロクでもねぇ気配したっぺ」
「正解だ」
到着早々。
ポトッ。
タオルがまた落ちる。
「……」
「……」
「……今の見たか?」
「見た」
明日香、爆笑。
「ちょっと待ってwww何これwww」
唯奈が一気にまくし立てる。
「聞いてくれっぺよ!!」
・音楽止められる
・タオル落とされる
・菜帆出される
・経済番組聞かされる
「気づいたらオラ、株の話してんだっぺ!!」
明日香、腹抱えて笑う。
「それは面白すぎるwww」
すみれも肩を震わせる。
「……確かに」
蒼牙、冷静。
「有益な知識です」
「求めてねぇ!!」
そこから始まる。
四者の掛け合い。
「なんで音楽止める」
「優先度です」
「なんで菜帆出す」
「最適化です」
「なんでタオル落とす」
「重力です」
「全部ウソだろ!!」
テンポが完璧すぎる。
完全にコント。
明日香、ついに涙目。
「ダメだこれwww」
「最高すぎるwww」
だが。
すみれが一瞬、黙る。
「……で」
空気が変わる。
「これ、任務中に出たらどうする」
沈黙。
唯奈、ぽつり。
「……それは困るな」
明日香も頷く。
「戦闘中に株価流れてたら終わりだね」
蒼牙、冷静に返す。
「戦闘モードでは制御されます」
「されてねぇから問題なんだろ」
すみれ、即ツッコミ。
少しの静寂。
だが。
唯奈が言う。
「なあ」
「なんだ」
「野良仕事なら別にいいんじゃねぇか?」
一同、沈黙。
「だってよ」
「平和だし」
「別に死なねぇし」
「……」
「むしろちょっと面白ぇし」
明日香、吹き出す。
「それはそうwww」
すみれ、ため息。
「……お前な」
だが少しだけ口元が緩む。
そして結論。
「修正する」
「完全には消さない」
明日香、即反応。
「パッチ配信だね」
蒼牙が問う。
「どの程度制御しますか」
すみれ、短く答える。
「“やりすぎ”だけ止める」
唯奈、腕を組む。
「なんだそれ」
すみれ、一言。
「面白いから残す」
ポトッ。
またタオルが落ちる。
「おい!!」
「テスト動作です」
「絶対違うだろ!!」
再び始まる掛け合い。
夕暮れの田んぼに響く声。
この三角関係。
修正されるのか。
それとも進化するのか。
ただ一つ確かなのは――
嫉妬するトラクターは、まだ完全には直らないということだった。




