推し活 vs 最適化 ― 恋する変なトラクター、初めての嫉妬?
常陸太田の朝は、だいたい土の匂いとエンジン音で始まる。
だがその日、違った。
「イズ様マジ神だっぺ……」
山口唯奈が、畑の真ん中でスマホを握りしめてニヤニヤしていた。
画面には、
超人気男性アイドルユニット――
《Stellar★Rush》
そのセンター、
神崎イズキ(通称:イズ様)
銀髪、王子様、キレッキレのダンス。
「この目線よ……やべぇべ……」
完全に落ちている。
その横で。
ドリームトラクター蒼牙2000・改は、静かにエンジンを唸らせていた。
「……」
「なあ蒼牙」
唯奈が振り向く。
「イズ様どう思う?」
一拍。
「……評価不能です」
そっけない。
明らかにテンションが低い。
「なんだよそれ!」
唯奈はむしろ満足そうに笑う。
(効いてるっぺ……)
ここから、唯奈の“推し活攻撃”が始まる。
まずは応援タオル。
「これよ!」
イズ様の顔がドンとプリントされた派手なタオル。
それを――
蒼牙2000・改のハンドルに掛ける。
「どうだ!かっけぇだろ!」
蒼牙、沈黙。
そして数秒後。
ガクッ。
ハンドルが不自然に揺れる。
ポトッ。
タオル、落下。
「……」
唯奈、ゆっくり振り向く。
「……今、わざとやったっぺ?」
「操作上の誤差です」
即答。
「ウソつけ!!」
次は音楽攻撃。
「この曲よ!」
カーステレオから流れる、Stellar★Rushの最新曲。
ド派手なイントロ。
「このサビ最高なんだっぺ!」
唯奈、ノリノリ。
だが。
プツン。
音が切れる。
「……は?」
次の瞬間。
流れてきたのは――
落ち着いた男性の声。
『本日の株式市場は――』
完全に空気が違う。
「おい!!」
唯奈、即ツッコミ。
「なんでそっちに変わるんだよ!!」
蒼牙、淡々と。
「情報取得の優先度が高いためです」
「高くねぇべ!!」
「農業経営において有益です」
「今いらねぇ!!」
さらに。
唯奈がイズ様の動画を見せる。
「見ろこのダンス!」
蒼牙、数秒沈黙。
「……」
「どう思う?」
「……」
「おい」
「……菜帆さんは、このような動きはしません」
「なんでそこで菜帆出てくんだっぺ!!」
蒼牙、続ける。
「菜帆さんは実用的な動作を――」
「うるせぇ!!」
完全にブチ切れ。
だが蒼牙も負けていない。
その後も、
・タオルをさりげなく落とす
・音楽を勝手に切り替える
・イズ様の話になると処理遅延
など、
男子中学生みたいな嫌がらせを繰り返す。
ある時。
唯奈が言う。
「なあ」
「はい」
「車体にラッピングしようかなぁ〜」
一瞬、空気が止まる。
「Stellar★Rush仕様に」
次の瞬間。
「絶対にやめてください」
即答。
しかも食い気味。
「は?」
「運用目的に反します」
「景観を損ないます」
「推奨できません」
早口。
明らかに焦っている。
唯奈、ニヤリ。
「そんな嫌か?」
「……」
一瞬、沈黙。
「非推奨です」
トーンが落ちる。
(効いてるっぺ……)
確信。
その夜。
麗奈に報告。
「麗奈さんよ!!」
『どうだった?』
「めちゃくちゃ嫌がった!!」
『マジで!?ウケるんだけどwww』
爆笑。
「なに笑ってんだよ!」
『いやそれさ〜完全に効いてるってw』
「マジか?」
『てかさ〜』
少しテンションが上がる。
『蒼牙2000・改、なんか可愛くない〜?』
「は?」
『だってさ、タオル落とすとかさ〜』
『中学生男子じゃんwww』
「可愛くねぇっぺ!!」
『いやいや可愛いってw』
『めっちゃヤキモチ焼いてるやんw』
唯奈は気づいていない。
この作戦。
確実に効いている。
蒼牙2000・改の内部ログ。
・対象:唯奈
・関連:イズ様
・状態:不安定
そして――
「優先順位再計算中」
夕暮れ。
唯奈は満足そうにスマホを見る。
「やっぱイズ様最強だっぺ……」
その横で。
蒼牙が静かに言う。
「……唯奈さん」
「なんだよ」
「明日の作業計画を優先してください」
「あとでやるっぺ」
「……」
一瞬の沈黙。
そして内部で。
「未定義感情:強化」
恋なのか。
バグなのか。
ただ一つ確かなのは、
恋する変なトラクターが、確実に“嫉妬らしきもの”を覚え始めていることだった。




