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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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越後田園捜査録 ― 盗まれた野菜と、帰る空

新潟の朝は早い。

まだ空が白み始めたばかりの時間に、畑ではすでに人が動いている。


「……また、やられてるて」


しゃがみ込んだ農家の男が、土の上に散らばる葉を見てため息をついた。


抜かれた跡。踏み荒らされた畝。

だが不思議なことに、被害は大きくない。少しずつ、確実に減っていく。


「何回目だこれ……」


怒りというより、じわじわとした不安が広がっていた。


その場に、ひとりの女性がやってくる。


本間菜帆だった。


「おはようございます」


ゆるい新潟弁で、柔らかく声をかける。


「悪いね、朝早くから」


「いえいえ。こういうの、朝が一番分かりやすいですし」


菜帆は畑に入り、しゃがみ込む。


土を触る。足跡を見る。

抜き方を確認する。


「……これ」


ぽつりと呟く。


「どう思う?」


農家が聞く。


菜帆は少し考えてから、言う。


「慣れてない人ですね」


「え?」


「取り方が雑ですし、必要以上に踏んでます」


少し間を置いて、


「でも、逃げることだけは必死です」


農家たちは顔を見合わせる。


「プロじゃねえのか?」


「違いますねえ」


菜帆は首を振る。


「生活、ですね」


その一言で、空気が少し変わる。


夜。


菜帆は一人で畑にいた。


街灯の届かない暗がり。

遠くで虫の音がする。


しばらくすると、影が動く。


人影。


痩せた体。

ぎこちない動き。


外国人の男だった。


周囲を気にしながら、野菜を抜く。

その手つきは、明らかに慣れていない。


「……やっぱり」


菜帆は静かに立ち上がる。


「それ、誰の畑か分かってますか」


声をかけた瞬間、男が振り向く。


目が合う。


そして、逃げようとする。


「大丈夫です」


菜帆が言う。


「追いません」


その言葉に、男の足が止まる。


普通じゃない。

怒鳴らない。追わない。


戸惑いが、動きを止める。


菜帆はゆっくり近づく。


距離を詰めすぎない。


「お腹、空いてますよね」


男の顔が揺れる。


言葉は完全には通じない。

だが意味は伝わる。


「……ごめんなさい」


たどたどしい日本語。


それで、すべて分かった。


菜帆はしばらく黙る。


それから、静かに言う。


「だめですよ」


強くもなく、弱くもない声。


「盗るのは、だめです」


男はうつむく。


「でも」


菜帆が続ける。


「別の方法、あります」


翌日。


農家たちの前で、菜帆は説明していた。


「盗んだ奴を助けるのか!?」


当然、反発は強い。


菜帆は頷く。


「気持ちは分かります」


一度受け止める。


その上で、


「でも、この人、やめたら終わりです」


静かに言う。


「働けます」


「返せます」


「逃げる人じゃないです」


感情ではなく、事実を積み重ねる。


しばらく沈黙。


やがて一人が口を開く。


「……だったら」


腕を組んで、


「働かせてみるか」


空気が動く。


男は畑で働くことになった。


最初はぎこちない。

失敗も多い。


だが、逃げない。


毎日来る。


頭を下げる。


少しずつ、農家たちの表情が変わる。


「おい、そこ違うて」


「はい!」


「そうそう、いいじゃねえか」


笑いも生まれる。


季節が巡る。


そして、男は帰国することになった。


新潟空港。


小さな出発ロビー。


菜帆は、静かに立っていた。


男が近づく。


少しだけ、姿勢が良くなっている。


「……ありがとうございました」


ぎこちない日本語。


だが、まっすぐだ。


菜帆は笑う。


「いえいえ」


ゆるい口調。


「向こうでも、ちゃんとやってくださいね」


男は強く頷く。


「はい」


少し間を置いて、


「忘れません」


菜帆は少しだけ照れる。


「そんな大したこと、してないですよ」


そして、いつものように言う。


「戦隊ヒロインですから」


だが、その声は少しだけ柔らかい。


男は深く頭を下げ、ゲートへ向かう。


振り返らない。


その背中を、菜帆はじっと見送る。


やがて姿が消える。


外に出ると、風が吹いていた。


空を見上げる。


飛行機が、小さくなっていく。


「……うまくやれると、いいですねえ」


ぽつり。


新潟の空は広い。


人は間違える。


だが、やり直すこともできる。


その間に立つのが、菜帆だ。


責めすぎず、甘やかさず。


ちゃんと現実を見て、


ちゃんと人を見る。


それが、


戦隊ヒロインきっての人情派――本間菜帆のやり方だった。

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