泥とAIと恋のスラローム!? ― 北信越スマート農業フェスティバル騒動記
新潟県新発田市。
越後平野の北に位置するこの町は、城下町の風情と広大な田園が共存する場所である。遠くには飯豊連峰の山並み、足元にはどこまでも続く水田。日本有数の米どころの一角にして、近年はスマート農業の実験地としても注目されている。
そんな新発田市で、この日とんでもないイベントが開催されていた。
「北信越スマート農業フェスティバル」
主催は戦隊ヒロインプロジェクト。
そして全面協力は農機専業メーカー――
井坂農装。
会場には圧巻の光景が広がっていた。
蒼牙。
蒼牙。
蒼牙。
井坂農装の主力トラクター
蒼牙シリーズがズラリと展示。
大型機からスマート農業対応の最新機まで、まるで機械の軍団のように整列している。
農業イベントというより
トラクター博覧会。
見た人はだいたいこう言う。
「なんか…かっこいい」
会場を歩くヒロインたち。
スマートファームの女王
本間菜帆
トラクター操縦者
山口唯奈
グレースフォース
館山みのり・杉山ひかり
そして妙に場慣れしている
大宮麗奈
実況担当は
熊本の名MC・西里香澄。
そして今日のメインイベントは、
「蒼牙2000・改 田んぼスラローム」
である。
田んぼに特設コースを作り、巨大トラクターがスラローム走行するという、農業界でも前代未聞の競技だ。
操縦者はもちろん、
本間菜帆。
蒼牙2000・改のコックピットに乗り込むと、巨大エンジンが唸る。
隣で唯奈が腕を組む。
「負けんなよ」
菜帆は笑う。
「大丈夫です」
エンジンが轟く。
ブオオオオオオオオオ!!
蒼牙2000・改、発進。
泥を巻き上げながら巨大トラクターがスラロームを開始する。
そして実況席では香澄が叫ぶ。
「来ましたばい!」
「蒼牙2000・改!」
「どぎゃん迫力か!」
「トラクターなのに速かー!」
完全な熊本弁である。
会場の農家たちが笑う。
香澄はさらに興奮する。
「見てください!」
「菜帆さんのハンドルさばき!」
「田んぼのF1たい!」
すみれコーチが遠くで呟く。
「また言ってる」
蒼牙2000・改は泥を切り裂きながらコースを完璧に走る。
鋭い旋回。
正確なライン。
そして最後のカーブ。
ブオオオオオ!!
見事なフィニッシュ。
観客席から
大拍手。
農家のおじいちゃんが叫ぶ。
「トラクターってあんな走るんか!」
イベントは大成功。
夕方、機体の横で菜帆が蒼牙2000・改の外装を軽く撫でる。
「今日もありがとう」
蒼牙2000・改が答える。
「菜帆さんの操縦は完璧でした」
「私の仲間である蒼牙たちも喜んでいることでしょう」
その様子を遠くから見ていた人物がいた。
唯奈。
腕を組んでいる。
顔が明らかに不満である。
そこへ麗奈が近づく。
「なに」
「嫉妬?」
唯奈
「してねえし」
麗奈
「顔がしてる」
唯奈
「してねえっぺ!」
麗奈が笑う。
「トラクターに負けるヒロインってどうなの?」
唯奈
「負けてねえ!」
そこへ蒼牙2000・改が静かに言う。
「私には恋愛の感情はプログラミングされていません」
一同、沈黙。
麗奈が言う。
「だってさ」
唯奈
「……」
しかし蒼牙2000・改は続けた。
「ただし」
「操縦技術の評価は行います」
唯奈が食いつく。
「じゃあ」
「オラの操縦は?」
蒼牙2000・改
「菜帆さんが現在トップです」
麗奈
「はい決定」
唯奈
「なんだとおおお!」
田んぼの夕暮れ。
スマート農業の未来と、
トラクターを巡る
よくわからない三角関係
が静かに始まりつつあった。




