米とAIと紹介特典 ― スマートファームの女王、本間菜帆の加入騒動
新潟という土地は、米どころである。
そして米どころには、だいたい二種類の人間がいる。
米を食べる人と、
米を作る人だ。
本間菜帆はもちろん後者だった。
新潟市郊外に広がる実家のスマートファーム。
ドローンが飛び、土壌センサーが働き、AIが水位を管理する。
しかし最も目立つのは、
巨大トラクター「蒼牙」
である。
その蒼牙を自在に操る若き農学部生――
それが
スマートファームの女王・本間菜帆(22)
だった。
そんな菜帆が戦隊ヒロインプロジェクトに加入することになった理由は実にシンプルだ。
推薦者がトラクターだった。
農業イベントのデモンストレーション後、
蒼牙2000・改がヒロ室へ正式な推薦を送ったのである。
「本間菜帆さんは日本農業の未来を担う人物です」
「戦隊ヒロインプロジェクトへの参加を推奨します」
ヒロ室の会議室で、遥室長は腕を組んだ。
「推薦者が」
「トラクターというのは」
「前例がありますか?」
すみれコーチが即答する。
「ありません」
真帆が言う。
「でも蒼牙2000・改が言うなら」
「間違いないと思います」
議論は三十秒で終わった。
こうして本間菜帆は、
戦隊ヒロインプロジェクト加入
となった。
ただし菜帆には新潟のスマートファームがある。
そのため彼女は
新潟在住のまま活動
という異例のスタイルとなった。
むしろそれは好都合だった。
ヒロ室では以前から
北信越ブロック構想
が検討されていたからだ。
ある日、遥室長がオンライン会議で言った。
「本間さん」
「あなたには東北・北陸地域の中心人物になってほしい」
「北信越ブロックのリーダー候補です」
菜帆は少し慌てる。
「私でよければ……」
しかし農業の未来、地域創生、青少年育成の話になると目の色が変わる。
「そういうことなら」
「私、頑張ります」
こうして菜帆は、
北信越ヒロインの中心人物
として動き始めることになった。
――そして。
ここからが本当の騒動である。
ヒロ室には制度がある。
お友達紹介キャンペーン。
ヒロインを紹介した人物には粗品が贈られる。
今回の紹介者は当然、
蒼牙2000・改。
粗品はこれだ。
・麗奈ちゃんプリペイドカード2000円分
・非売品戦隊ヒロイン手ぬぐい
ここで遥室長が真顔で言った。
「……」
「トラクターに粗品を贈るのは」
「適切でしょうか」
すみれコーチが腕を組む。
「まず」
「プリペイドカード」
「使えるのか?」
真帆が言う。
「エンジンに差し込むんですか?」
遥室長が考える。
「手ぬぐいは」
「ラジエーターに巻く?」
すみれコーチ
「それ整備不良になります」
三人は完全に真顔である。
日本を代表する優秀なフロント陣が、
トラクターへの粗品贈呈問題
を真剣に議論している。
真帆が言う。
「いや待ってください」
「紹介者が蒼牙2000・改なら」
「蒼牙2000・改に贈るのが筋では?」
すみれコーチ
「でも」
「受領サイン」
「どうする?」
遥室長
「タイヤで押印?」
議論は十五分続いた。
完全に無駄な会議である。
結局、
「これは法律問題では?」
という話になり、
法科大学院生ヒロイン
内田あかね
にリーガルチェックが依頼された。
数時間後、回答が届く。
あかねは冷静だった。
「蒼牙2000・改は法人格を持たない機械です」
「従って」
「紹介特典は」
「操縦者に帰属させるのが合理的です」
遥室長が頷く。
「なるほど」
すみれコーチ
「つまり」
真帆
「唯奈だ」
こうして粗品は、
蒼牙2000・改の操縦者・山口唯奈
に贈られることになった。
新潟の農道でそれを受け取った唯奈は、
袋の中身を見て言った。
「なんだっぺこれ」
「前に中村玲さん紹介した時にもらったことあっけどよ」
「相変わらずショボっ」
「麗奈ちゃんプリペイドカード」
「近所の農協のガソリンスタンドで使えねえんだっぺよ~」
強烈な茨城弁である。
隣で聞いていた菜帆は笑いをこらえる。
すると蒼牙2000・改が冷静に言った。
「麗奈ちゃんプリペイドカードは」
「私がもらっても仕方ないですからね~」
その声は実に落ち着いていた。
田んぼの上を夕方の風が吹く。
スマートファームの女王・本間菜帆。
AI農業の未来を担うヒロイン。
そしてその加入の裏側では、
今日もヒロ室の優秀なフロント陣が、
どうでもいい議論
を全力でしているのであった。




