AIに怒りはあるのか? ― 孤高のシロガネーゼ理世、トラクターの心を実験する
群馬県太田市の町工場で、数日間にわたる議論の末――
一つの結論が導き出された。
それは実にシンプルで、しかし決定的なものだった。
ドリームトラクター
蒼牙2000・改
このAIの弱点は何か。
柏木理世、太田すみれコーチ、稲生明日香の三人が出した答えは、
「感情がない」
である。
蒼牙2000・改は論理で動く。
統計で判断する。
確率で未来を予測する。
しかし、
怒らない。
焦らない。
腹も立てない。
理世は腕を組み、静かに宣言した。
「つまり」
「感情を揺さぶれば」
「判断アルゴリズムに揺らぎが生じる可能性があります」
すみれコーチは工具箱を閉めながら笑う。
「AIにケンカ売る実験ね」
明日香は真面目な顔で言う。
「魂の研究ですね」
こうして三人は結論を出した。
蒼牙2000・改を怒らせる。
そしてその舞台は決まっていた。
茨城県――
常陸太田市。
なぜなら蒼牙2000・改は現在、
戦隊ヒロインの一人
山口唯奈の農場で農作業をしているからである。
北関東爆走研究チーム
移動手段は、すみれコーチの愛車。
水平対向エンジンの四輪駆動スポーツセダン。
技術者が乗る車らしく、無駄に高性能である。
ただし問題が一つある。
運転が荒い。
北関東自動車道を走る車内。
理世
「少し速度が速い気がします」
すみれ
「研究はスピードが命よ」
明日香
「横Gが強いです」
車はカーブを曲がる。
理世
「今の必要ありましたか」
すみれ
「最短ルート」
明日香
「魂が置いていかれそうです」
理世はシートベルトを握りながら呟く。
「……AIより危険です」
高速道路を抜けると、車は山道へ入る。
カーブ。
坂。
またカーブ。
すみれコーチは楽しそうだ。
「いい道ね」
理世
「研究目的は到着です」
明日香
「修行みたいです」
やがて車は関東平野の北端に降りる。
そこが、
茨城県常陸太田市。
山に囲まれた静かな町で、
古い街並みと田畑が広がる地域だ。
水が綺麗で、農業が盛ん。
関東でも有数の米どころとしても知られている。
そしてここに、
山口唯奈の農場がある。
常陸太田の平和な午後
その頃。
農場ではのんびりした時間が流れていた。
広い畑。
遠くに山。
風に揺れる作物。
そしてその中で作業しているのが、
ドリームトラクター蒼牙2000・改。
操縦席にはドライバー、
山口唯奈。
帽子をかぶり、手袋をしている。
トラクターはゆっくり畑を耕していた。
唯奈はのんびり話しかける。
「蒼牙」
蒼牙2000・改が答える。
「はい」
唯奈
「今日はいい天気だな」
蒼牙
「作業効率が向上します」
唯奈
「昼メシ何にすっかな」
蒼牙
「カロリー計算上、蕎麦が最適です」
唯奈は笑う。
「おめぇ」
「ほんと便利だな」
蒼牙
「ありがとうございます」
関東平野の午後。
農作業とAIの会話。
どこか平和な光景だった。
その時。
蒼牙2000・改のセンサーが反応した。
「唯奈さん」
唯奈
「なんだ」
蒼牙
「車両接近」
唯奈
「配達か?」
蒼牙
「いいえ」
一瞬の沈黙。
蒼牙は静かに言う。
「理世さんと」
「すみれコーチ」
「それに明日香さんも来ます」
唯奈
「……」
トラクターが畑の端で止まる。
唯奈は遠くの道を見る。
土煙が上がっている。
近づいてくる車。
唯奈はぽつりと言った。
「……嫌な予感しかしねぇ」
蒼牙
「理由は?」
唯奈は腕を組む。
「理世さんが来るときは」
「ろくなことにならねぇ」
その頃。
山道を爆走してきた研究チームの車が、
ついに農場へ近づいていた。
そしてこの数分後、
常陸太田の静かな農場で
前代未聞のAI感情実験
が始まることになる。




