エベレストより高いプライド ― 孤高のシロガネーゼ理世、AIの設計図に殴り込み
戦隊ヒロインの世界には様々なタイプのヒロインがいる。
感情で突っ走るタイプ。
勢いで解決するタイプ。
とりあえず殴るタイプ。
その中で、ただ一人だけ理屈で戦うヒロインがいる。
欧州各地と白金台で育ち、有名私大の国際教養学部在学の才媛、
孤高のシロガネーゼ――
柏木理世。
彼女は戦隊ヒロインきっての理論派である。
論理。
合理。
体系的思考。
この三つを武器に、これまで幾多の作戦会議を制してきた。
……はずだった。
ただし。
相手が人間ならば。
理世には、どうしても勝てない相手がいた。
ドリームトラクター
蒼牙2000・改。
太田すみれコーチと稲生明日香によって開発された、AI搭載多目的作業支援車。
戦術計算、心理分析、統計解析、言語処理などを備えた、もはや農機の域を超えた存在である。
そしてこの機械は、
理世の理屈を毎回三秒で論破する。
数学で挑んだ。
三秒で解かれた。
哲学で挑んだ。
論理で返された。
ドイツ語で挑んだ。
スワヒリ語で返された。
結果。
柏木理世のプライドは、
エベレストより高いと言われていたのに、
今やヒマラヤの谷底くらいまで削られていた。
ある日。
理世は静かに決意した。
「弱点を突くしかありません」
蒼牙2000・改はAIである。
AIには必ず設計者がいる。
つまり。
設計者を当たればいい。
こうして理世は、新橋のヒロ室を出発した。
目的地は、
群馬県太田市。
北関東屈指の工業都市。
大手自動車メーカーの企業城下町として知られ、
工場の煙突と物流のトラックが街の風景を作っている。
一方で、
太田焼きそばの街でもある。
ソースの香りが街を包む、炭水化物文化の聖地だ。
理世は特急りょうもう号に乗り込んだ。
浅草から群馬へ向かうこの特急は、関東平野を一直線に駆け抜ける。
理世は窓の外を見ながら呟いた。
「AIにも必ず弱点があります」
隣の席のサラリーマンは、何の話か分からず新聞をめくった。
二時間後。
理世は太田駅に降り立った。
工業都市の風が吹く。
そして向かった先は、
太田すみれコーチの実家の町工場。
巨大な機械が並ぶ整備スペース。
その中央に、すみれコーチが立っていた。
腕を組んでいる。
理世は単刀直入に言った。
「蒼牙2000・改の弱点を教えてください」
すみれは即答した。
「ないわよ」
理世
「……」
すみれ
「自分がスキルアップすれば?」
理世
「……」
理世は一瞬黙った。
だが諦めない。
「弱点を知ることは重要です」
すみれ
「必要ないわ」
理世
「しかし」
「弱点をさらけ出すことで」
「次回のバージョンアップにつながるのでは?」
その瞬間。
すみれの表情が変わった。
科学者の目になった。
「……」
数秒の沈黙。
すみれは腕を組み直す。
「それもそうね」
理世
「……」
すみれはニヤリと笑う。
「完璧な機械なんてない」
「欠点は進化の材料よ」
理世の目が少し光る。
すみれは続けた。
「つまり」
「蒼牙2000・改の弱点を探せば」
「次の改良につながる」
理世
「その通りです」
すみれ
「面白いわね」
すみれコーチの科学者魂に、完全に火がついた。
ここで二人の利害が一致する。
理世の目的。
一度でいいから蒼牙2000・改に勝ちたい。
すみれの目的。
蒼牙2000・改をさらに進化させたい。
すみれは工具箱を閉めながら言った。
「理世」
「付き合うわ」
理世
「ありがとうございます」
すみれ
「蒼牙2000・改の弱点」
「一緒に探しましょう」
工場の奥で機械が唸る。
こうして――
シロガネーゼ柏木理世と
開発者太田すみれコーチによる
前代未聞の研究計画が始まった。
その名も
蒼牙2000・改弱点探索作戦。
ただし。
この時点でまだ誰も知らなかった。
この作戦が、
ヒロ室史上最大の
インテリコントへ発展することを。




