摩天楼より高いプライド ― ロッキーの風エミリーと理世のスカイライン・トラップ
東京・新宿。
高層ビルが林立する日本最大級の摩天楼地帯である。都庁を中心に、空を突き刺すようなガラスの塔が並び、昼はビジネスマン、夜はネオンと夜景が支配する街だ。外国人観光客は必ず写真を撮り、映画のロケ地にもなる“日本の摩天楼”。
その高層ビル群で事件が起きた。
企業機密を盗んだ産業スパイが、ビル屋上へ逃走したという。
ヒロ室に緊急出動要請。
今回の任務メンバーは
エミリー・ハート
月島小春
柏木理世
館山みのり
水無瀬澪
である。
現場のビル屋上に向かうエレベーターの中で、理世が腕を組んでいた。
「今回の作戦は私が立案しました」
小春が言う。
「お、出た理世のエリート作戦」
みのりは頷く。
「合理的な計画を期待しています」
澪は壁にもたれてぼそっと言う。
「まあ任せる」
理世はタブレットを開いた。
ビル構造図が表示される。
「犯人は屋上から隣のビルへ逃げる可能性があります」
「したがって三方向から包囲します」
小春が聞く。
「で、誰がどこ?」
理世は淡々と指示する。
「みのりと澪は正面階段」
「小春はエレベーター監視」
そして。
「エミリー」
「あなたは非常用通路から屋上へ」
小春が地図を見て言う。
「え、これ遠くない?」
理世は平然と答える。
「最も安全なルートです」
だが実際には――
遠回り。
狭い通路。
時間がかかる。
理世の心の中。
(ここを行けば確実に遅れる)
(犯人確保は私の作戦のおかげになる)
完璧な計算だった。
その頃。
犯人はすでに屋上へ出ていた。
「逃げ切った!」
しかしその瞬間。
背後から声。
「逃げ道はあんまり多くないね」
振り返ると。
そこには――
エミリー。
ブロンズの髪が風に揺れている。
犯人は驚いた。
「な、なんでここに!?」
エミリーは笑う。
「理世のルート、すごく分かりやすかった」
犯人は慌てて隣のビルへ逃げようとする。
屋上のフェンスを乗り越えようとした瞬間。
エミリーが軽くジャンプ。
そのまま腕をつかむ。
確保。
犯人は呆然。
「なんだこの女……」
エミリーは肩をすくめる。
「ロッキーでは、もっと高いところ登るよ」
数分後。
小春たちが屋上に到着した。
小春が叫ぶ。
「もう終わってる!?」
みのりが感心する。
「迅速ですね」
澪が言う。
「早かった」
小春が笑う。
「理世の作戦成功じゃん!」
理世は静かに頷く。
「当然です」
しかしその横でエミリーが言った。
「理世」
理世が振り向く。
「はい」
エミリーはにこっと笑う。
「作戦、すごく良かった」
「屋上の動線が分かりやすかった」
理世は一瞬言葉に詰まる。
「……そうですか」
その時、小春が騒ぎ始めた。
「やったー!任務成功!」
エミリーとハイタッチ。
パン!
「ナイスクライミング!」
「いいランニングだった!」
二人は派手に喜んでいる。
そして普段は感情を出さない澪も、少し笑った。
「まあ、よかった」
みのりも頷く。
「見事でした」
その光景の横で。
理世だけが腕を組んでいた。
表情はクール。
完璧なクール。
しかし――
奥歯は。
ガタガタ。
小春がちらっと見る。
(理世めちゃくちゃ悔しそう)
理世は平然と言う。
「計画通りです」
だが心の中では。
(なんで先回りできるんですか)
(遠回りルートだったのに)
(意味が分かりません)
その時、エミリーがまた言った。
「理世」
理世。
「はい」
エミリー。
「また作戦一緒に考えよう」
理世。
「……ええ」
その顔は冷静。
だが心の奥では。
(次こそは……)
(次こそ絶対……)
小春がみのりに小声で言う。
「理世、また嫉妬してる」
みのりが答える。
「良い刺激になっているのでは」
その頃。
新宿の摩天楼の屋上で。
ロッキーの風は今日も爽やかに吹いていた。
そして白金の孤高は――
今日も静かに歯ぎしりしていた。




