藤堂隼人——霞ヶ関が育てた若き獅子、その微笑みは優しく、心は熱く
藤堂隼人という名は、霞ヶ関の廊下を吹き抜ける風のように語られる。
まだ三十歳。若すぎるほど若い。
だが彼の名には常に、重みと期待がつきまとう。
——“将来の政務次官候補”。
この肩書きは単なる噂ではなく、要職の大臣秘書官たちが真顔で言うほどの確度を持つ。
調整の妙は誰もが認め、相手が政務次官でも、大臣でも、筋の通らない要求には一歩も引かない。
端正な顔立ちと静かな声からは想像できないほど、隼人の交渉には情熱が宿っている。
「申し訳ありません。ですが、そのご提案は国民に説明できません。」
そう言って頭を下げるとき、
政務三役ですら押し切れない不思議な“品のある強さ”が彼にはあった。
熱く、真っすぐで、礼節を失わない。
霞ヶ関に久しく現れなかった、理想と現実を同時に握るタイプの男である。
だが、そんな“獅子の顔”とは別に、彼には別の表情があった。
誰に対しても低姿勢。
女性職員には常に優しく、気遣いを忘れない。
「重い資料ですね。お持ちしましょうか?」
「会議、長引きましたね。お疲れさまです。」
こうした一言をさらりと言えてしまう。
それでいて、わざとらしさが一切ない。
自然体なのだ。
そして、戦隊ヒロインたちに対してだけは、特別に丁寧だった。
「美月さん、今日の任務もどうかよろしくお願いします。」
「綾乃さん、いつも的確なご判断に助けられています。」
「彩香さん、お怪我はありませんか。」
「あかりさん、無理はなさらないでくださいね。」
「麻衣さん、いつもありがとうございます。」
名前に“さん”をつけて丁寧語。
まるでプリンセスを扱うような手厚さで、ヒロインたちを尊重した。
だが、その柔らかさの奥には、熱い鉄が流れている。
大学時代、彼はアメリカンフットボール部で快足ランニングバックとして鳴らした。
試合が白熱すると、
自分よりずっと大きい相手のタックルをかわし、
味方のために走り抜け、突破する。
その瞬発力と胆力は、今も交渉の現場で顔を出す。
「資料は夜のうちに整えます。皆さんは先にお休みください。」
「相手省庁には、わたしが直に説明します。」
「美月さんたちが安全に任務に向かえるよう、環境は必ず整えます。」
走り抜ける姿勢は、職場でも変わらない。
そして彼を語るうえで欠かせないのが——遥広報官の存在だ。
二人は同期入庁。
ただし、隼人は大学院卒、遥は学部卒なので二歳差。
入庁時から気が合い、食事に行く仲だった。
“友人以上、恋人未満”。
そんな言葉がぴたりと当てはまる関係だったが——
ここ数年は、国家の仕事に追われ互いに疎遠になっていた。
だが、西日本司令室で再会した瞬間、
遥の表情は一瞬だけ、あの頃の柔らかさに戻った。
隼人は少し照れたように微笑み、
丁寧に一礼した。
「遥さん……また、ご一緒に働けて光栄です。」
その声の温度は、彼の真心そのものだった。
藤堂隼人。
霞ヶ関が誇る若きエース。
熱い交渉人であり、優しい紳士でもある。
その両方を兼ね備えた男が、
西日本司令室に新たな風を吹き込もうとしていた。
ヒロインたちはまだ知らない。
この“丁寧すぎる男”が、
これからどれほど大きな存在になるのかを——。




