新橋に舞い降りたブロンド旋風――初の米国人ヒロイン見参
新橋ヒロ室ミーティングスペースは、今日も平和だった。
赤嶺美月はソファにふんぞり返り、月島小春はその肘掛けに半分乗り、白石陽菜はクッションを抱えている。まるで親戚の従妹三人組の茶の間である。
「陽菜ちゃんさぁ、さっきのコンビニの新作、どうやった?」
「美月さん、甘すぎました。でも食べました」
「そら食べるやろ。甘さは正義や」
小春が横から割り込む。
「いやいや、甘さは暴力っしょ。あれは罪深きプリン」
「名前が悪いな。もっと“宇宙級プリン”とかにせな」
その流れで、陽菜がふと真顔になる。
「美月さん、そういえば宇宙刑事になって火星に赴任するって話、どうなったんですか?」
小春が噴き出す。
「何それ?」
美月は腕を組み、遠くを見る。
「火星はなぁ今、危険な状態や。タコ星団の親分の動きがどうも怪しい。そろそろ陽菜とウチが宇宙刑事となって光線銃でバァーンとやる時や」
陽菜、真顔で頷く。
「タコ星団、許せませんね」
小春が目を丸くする。
「え、ちょっと待って?こはるんも行く流れ?」
美月がニヤリ。
「こはるんも行くで〜火星に」
「えっ、私も火星なん??」
小春、困惑。
「パスポートいらんやろ。宇宙やし」
「いや宇宙のほうがいるだろ!」
三人で大爆笑。
その少し離れた席で、藤原詩織は静かに台本を読み込んでいる。姿勢は美しく、周囲の騒音を意に介さない集中力。まるで別世界。
水無瀬澪はソファに横たわり、スマホをぼんやり眺める。
「火星ってWi-Fiあるのかな」
やる気は今日も不在。
松本美紀は机で参考書を広げている。
「頻脈…洞結節…あぁ…」
完全に看護師試験モード。
新橋は今日も、地球規模で平和だった。
そこへ扉が開く。
遥室長が現れる。
「はいはい、宇宙刑事かっこええら」
一同振り向く。
「火星には行かないけど、米国には行くかもよ」
ざわつく。
「え?」
「米国?」
遥室長はいつもの穏やかな駿河弁で続ける。
「戦隊ヒロイン初の米国人が来るんだよ。みんな仲良くしてね」
静まり返る空間。
扉の向こうから、長身の白人女性が現れる。
ブロンドの髪、健康的な笑顔、完全にアメリカ映画のヒロイン。
小春が小声で言う。
「ガチのハリウッド…?」
陽菜がつぶやく。
「通訳さんどこですか?」
その女性は、すっと一礼した。
「本日より研修に参加いたします、エミリー・ハートです。どうぞよろしくお願いいたします」
完璧な日本語。
イントネーションも滑らか。語尾も自然。
美月、固まる。
「……ネイティブやん」
小春、目を見開く。
「え、逆に私より日本語うまくない?」
澪がぽつり。
「バグ…?」
詩織が静かに微笑む。
「美しい発声ですね」
美紀は参考書を閉じる。
「え、英語で話さなくていいんですか?」
エミリーは満面の笑み。
「日本には十年以上住んでいますので。母が日本人なんです」
場がさらにざわつく。
美月が腕を組む。
「ほな火星より遠いとこから来たんやな」
エミリーは首を傾げる。
「火星?」
小春が即説明。
「今ちょうどタコ星団と戦う話してたとこ」
エミリー、真顔で言う。
「それは外交案件になりますね」
爆笑。
遥室長が楽しげに締める。
「世界は広いら。けどね、ここは新橋だよ」
火星は遠い。
だが米国は、もう目の前に来ていた。
新橋ヒロ室に、ブロンドの旋風が吹く。
宇宙刑事より先に、国際ヒロインが誕生した瞬間だった。




