難波京の風に誓う――ヤジの聖地で響いた交通安全ライン宣言
森ノ宮駅から歩いてすぐ。
いまは巨大ショッピングモールとして家族連れでにぎわうこの場所、かつては“大阪らしさ”を凝縮したボロ球場があった。
スタンドとグラウンドの距離は異様に近い。
声はそのまま選手に直撃。
ヤジは文化。
気性の荒いファンからは、試合後にバスへ生卵が飛ぶ事件まであったという、誉めているのか貶しているのか分からない昭和の熱量。
「大阪って、ええ意味で圧が強いねん」
その跡地で今日行われるのは、戦隊ヒロイン交通安全イベント。
司会はもちろん、生粋の河内人・赤嶺美月(大阪)。
「さぁ始まりましたー!ヤジの聖地から安全運転を叫ぶでぇ!」
拍手。笑い。
登壇するのは、大西結月(香川)、坂井まどか(大阪)、みーちゃん(愛媛)、岡本玲奈(兵庫)、三好さつき(徳島)。
結月の横に立つのは、兵庫県警の現役警察官でもある玲奈。凛とした制服姿で一礼する。
「今日はな、自転車のルールの話や。最近ほんま厳しなっとるからな」
玲奈は神戸訛りの柔らかな関西弁で語る。
「ながらスマホあかんで?酒気帯びも当然あかん。青切符の対象も広がる方向やし、軽く考えたらあかんのや」
会場から「へぇー」とどよめき。
結月が実演用の自転車にまたがる。
「後方確認、手信号、減速。この三つ守るだけで事故は減ります」
太ももが頼もしすぎる。
説得力が物理。
まどかが横から茶化す。
「この脚で急ブレーキかけたらアスファルト削れるんちゃう?」
笑い。
さつきが丁寧に補足する。
「自転車も軽車両でございます。歩道走行や逆走は原則違反です。皆様どうかご注意を」
その真面目な説明に、会場から一人の子どもが叫ぶ。
「むずかしー!」
ここで歴女のみーちゃんが前へ出る。
「実はこの辺り、難波京の時代から交通の要衝でして――大阪城公園の成り立ちはですね――」
ライトが当たる。
強い。
まぶしい。
「みーちゃんライト眩しすぎー!」
「わからんー!」
ヤジ飛ぶ。
完全に昭和球場の再現。
しかし美月が即フォロー。
「ほら!ヤジの質は当時と変わらん!でも今日は生卵ちゃうで!拍手で頼むわ!」
爆笑。
みーちゃんはめげない。
「奈良時代からこの地域は物流の中心で――」
美月が割り込む。
「つまり昔から交通の要所や!せやから今もルール守らなあかんっちゅう話や!」
拍手。
玲奈がうなずく。
「せやねん。秩序は昔も今も大事や」
結月がマイクを持つ。
「競輪でもラインを守らないと落車します。公道も同じです」
一瞬、空気が引き締まる。
かつてヤジが飛び交った土地で、いまは交通安全の声が響く。
美月がまとめに入る。
「大阪のヤジは愛や。でも事故は愛ちゃう。ヘルメット被って、安全第一や!」
大歓声。
最後は全員で宣言。
「自転車は正しく乗りましょう!」
拍手喝采。
ショッピングモールの吹き抜けに反響する声は、かつての怒号とは違う。
生卵は飛ばない。
代わりに配られるのは反射材キーホルダー。
玲奈が小声で言う。
「今日のヤジは健全やったな」
美月がニヤリ。
「せやろ?大阪はちゃんと進化しとんねん」
結月は自転車を押しながら、静かに笑う。
ヤジの聖地に、今日はペダルの音が戻った。
それもまた、大阪らしい進化の形だった。




