表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

622/685

金魚の城下町を捲れ!外堀ライン、蒼牙スプリント炸裂

奈良県大和郡山市。金魚の養殖日本一を誇り、城下町の風情と水の都の顔を併せ持つこの街は、観光パンフレットよりも実際に歩いた方が二割増しで情緒が出るという不思議な土地である。郡山城跡の外堀には水面を切るように赤い金魚が泳ぎ、町家の軒先では金魚すくいのポイが乾いている。つまり、事件が起きるには妙にのどかな場所だ。


その日、その外堀沿いの細道を、違法物資を積んだ軽トラックが逃走していた。


「狭すぎて蒼牙は入れないっぺ!」


ドリームトラクター蒼牙2000・改(愛媛)を操縦する唯奈(茨城)が悲鳴に近い声を上げる。助手席にはなぜかみーちゃん(愛媛)が乗っていた。理由は単純で、「奈良の歴史を生で見たい」という歴女の好奇心である。観光気分で来た結果、事件に巻き込まれた形だ。


「郡山城は筒井順慶の時代に整備されて――あ、逃げた!」


ウンチクを語りながら双眼鏡を覗いていたみーちゃんが、急に戦況報告に切り替わる。歴史の話をしている最中でも状況判断は速い。


その時、外堀外周の広い道路に一台の自転車が飛び出した。


大西結月(香川)。元女子競輪選手。


「私が引きます。番手、お願いします!」


それは競輪用語で言えば完全な“先行”。結月はペダルを踏み込み、軽トラックの前に出ると、あえて追いつけそうで追いつけない絶妙な速度で逃走車を外周へ誘導し始めた。


「速い……何あの脚……」


みーちゃんが素で呟く。外堀の水面に映る影がブレるほどのスピード。石畳をものともせず、風を読み、カーブを最短距離で抜けていく。


蒼牙2000・改が広い直線で待機する。


結月が手信号。


「今です!」


横に退く。


次の瞬間、蒼牙2000・改が前へ躍り出た。巨体とは思えぬ加速で軽トラックの進路を完全に遮断する。


逃走車、停止。


静寂。


観光客の拍手。


「任務完了だっぺ……」


唯奈がハンドルを離して大きく息を吐く。


蒼牙2000・改のスピーカーが淡々と作動する。


『本機単独では到達不能でした。結月殿の理想的な番手仕事が勝因です』


みーちゃんも身を乗り出して叫ぶ。


「そうそう!完全にライン戦の教科書だった!あの引き、郡山城の外堀より美しかった!」


唯奈も頷く。


「結月さんが前にいなかったら無理だったっぺ。全部あなたのお陰だっぺ」


三方向からの称賛を浴びた結月は、ヘルメットを外し、少し照れたように笑った。


「番手が仕事できる環境を作ってくれた皆さんのお陰です。ラインは一人じゃ成立しませんから」


競輪選手特有の、謙虚で職人めいた言い回しだった。


その背後で、みーちゃんが再び歴史解説を始める。


「ちなみにこの辺り、江戸時代は城下町の物流の要所で――」


「今それいる?」


唯奈が即座にツッコミを入れる。


外堀には変わらず金魚が泳ぎ、何事もなかったかのように町は静かだった。


ただ一つ違うのは、城下町の空気の中に、競輪場のような熱気が確かに残っていたことだった。


結月の太ももがまだ微かに震えていた。完全燃焼した者だけが見せる、あの震えだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ