最終1キロ、風を読め。河川敷ナイトレースの捲り一閃
大阪府内を流れる大きな川。その広い河川敷は昼はランナーと少年野球、夜は静かな風の通り道になる。だがその夜、闇の中で違法ドローン搬送グループが動いていた。信号妨害装置の起動キーを持ち、スポーツタイプの電動クロスバイクで一直線に逃走中だという。
「対象、下流方向へ高速移動!」
無線が弾ける。
赤嶺美月(大阪)が前へ出る。「追うで!」
坂井まどか(大阪)が続く。「一本道なら勝負や!」
山田真央(愛知)は状況を即座に整理する。「向かい風区間があります。後半で減速が見込まれますね、たぶん、いや、確実に、あの、理論上はですね――」
「長い!」と美月。
唯奈(茨城)はドリームトラクター蒼牙2000・改を河川敷入口で待機させる。だが段差と砂利で進入不可。
『車両重量および接地圧の観点から侵入は非推奨です』
今日も理詰めだ。
結月は後方で静かにヘルメットを締める。「私、後ろにつきます」
犯人の電動クロスバイクは一定のトルクで滑るように進む。ライトが揺れ、川面に反射する。
結月は追い抜かない。風下に入り、一定距離を保つ。ドラフティング。空気抵抗を削る。心拍は落ち着き、呼吸は一定。
真央が無線で興奮する。「今は脚を温存してますね!最終直線での加速を見越して――」
「実況やめ!」とまどか。
河川敷の風向きは刻々と変わる。結月は肌で読む。芝の揺れ、川面のさざ波、犯人の肩の上下。
「あと一キロ」
向かい風区間が近い。電動は一定出力。だが向かい風では空気抵抗が増す。
犯人が減速する。
「くそ、風が……!」
その瞬間、結月がギアを一段上げる。
踏み込む。
太ももが唸る。重いギアを踏み倒す。立ち漕ぎではなく、腰を安定させた強い踏み。
風を裂く。
外から一気に被せる。
捲り。
ライトが並び、そして前へ出る。
進路を奪い、減速させる。
ワイヤーデバイスが後輪を絡める。
停止。
静寂。
犯人、呆然。「なんで……電動なのに……」
結月は息を整え、淡々と鍵を回収する。
「四日市で勝ったときと、同じ風でした」
一瞬、全員が固まる。
美月がぽつり。「急に名言出すなや」
まどかが笑う。「風に勝つ女かいな」
唯奈が蒼牙2000・改のハンドル越しに親指を立てる。
蒼牙2000・改が低く唸る。
『勝因分析。第一に風向きの読解。第二に脚力の残存管理。第三に最終局面での加速タイミング。以上、完勝です』
「専門紙か!」と美月。
『本紙見解としては、仕掛けどころが絶妙でした』
「完全に記者やん!」
河川敷に笑いが広がる。
結月は静かに自転車を止める。呼吸は整っている。
「風は味方にも敵にもなる。読めば、味方です」
美月が肩を叩く。「かっこええやん」
まどかが頷く。「今日は完全にエースやな」
真央がメモを取る。「空力と心理戦の融合……」
唯奈が蒼牙2000・改に言う。「次は入れる道、探そうな」
『了解。空力研究を開始します』
「やめなさい」
夜の河川敷に再び静けさが戻る。
ライトは消え、風だけが流れる。
最終1キロで勝負を決める。
捲りは、逆転の技。
そして結月の脚は、今日も風を味方につけた。




