初陣はしゃもじより速い。讃岐ダッシュ娘、三原で空回る!?
瀬戸内の港町、広島県三原市。
タコが名物、瀬戸内の海がきらきら光る、城下町の風情も残る穏やかな町である。
その駅前広場に、不穏な横断幕が掲げられていた。
「テレビじゃ見れないヒロヒロ劇場 in 三原」
そして小さく、
「讃岐ダッシュ娘・大西結月デビュー戦」
元女子競輪選手、大西結月(香川)。
ついにヒロヒロのくだらない企画でデビューである。
本来なら中央分室で華々しく、と思いきや――
ノムさん(広島)が胸を張る。
「結月の初陣はヒロヒロじゃ!」
のどか(広島)が即答。
「なぜうちなん」
結月、真顔。
「ヒロヒロって……しゃもじの人たちですよね?」
「それは誤解じゃ!」
と言いつつ、今日の企画は。
『瀬戸内タコ足リレー選手権』
意味は、ない。
ルールは単純。
巨大なタコの足を担いで特設コースを全力疾走。
ただそれだけ。
司会のノムさんが紹介する。
「なんと!我がヒロヒロ動画の視聴者初の戦隊ヒロインです!」
会場、拍手。
結月、戸惑う。
「視聴者……?」
のどかが小声。
「勝手にそういうことになっとる」
みーちゃん(愛媛)がニヤリ。
「出世したねぇ」
第一競技。
タコ足担ぎダッシュ。
スタートの合図。
結月、爆発。
フォームが違う。
地面を蹴る音が違う。
五歩目で他のヒロインを置き去り。
観客、ざわつく。
「はやっ!」
ゴール。
圧倒的差。
ノムさん、苦笑。
「……強すぎるのぅ」
第二競技。
タコ足バランス耐久。
片足立ちで耐える。
結月、微動だにせず。
さつき(徳島)が丁寧に言う。
「さすがの安定感でございます」
三十秒。
一分。
二分。
他全員脱落。
盛り上がりポイント、なし。
観客、若干静か。
第三競技。
タコ足ジグザグスプリント。
結月、競輪仕込みのコーナーワーク。
鋭い切り返し。
他のヒロインがまだ二つ目のコーンを回っている間にゴール。
観客。
「……すごい」
盛り上がりよりも感嘆。
ノムさんがマイクを握る。
「いや、これは国家機密級の脚じゃ」
のどかが腕を組む。
「盛り上がらん」
イベント終了後。
楽屋。
ノムさんが真顔。
「結月」
「はい」
「強すぎる」
「……はい?」
のどかが続ける。
「圧倒しすぎると、ドラマがない」
結月、衝撃。
「全力出しました」
「そこが問題じゃ」
みーちゃんがフォロー。
「ヒロヒロはね、ちょっと転んだり、ちょっと失敗したりが大事なんだよ」
結月、混乱。
「失敗……?」
「そう」
ノムさんが真剣。
「勝つだけではダメなんじゃ」
競輪では“勝て”と言われ続けた。
ここでは“盛り上げろ”と言われる。
結月、メモを取り出す。
【反省点】
・圧倒的すぎる
・間を作る
・タコ足で一度つまずく?
のどかが止める。
「わざと転ぶな」
結月、真顔。
「では僅差を演出?」
「演出は要らん」
頭を抱える讃岐ダッシュ娘。
その夜、宿。
結月は動画を見返す。
確かに。
自分が速すぎて、周囲が追いつけていない。
笑いよりも、「すごい」になっている。
「……難しいな」
だが、燃える。
完全燃焼は、速さだけではない。
“空気を掴む”ことも含まれる。
翌朝。
結月は早朝トレーニング。
ダッシュ。
ストップ。
ターン。
そして、鏡の前でトーク練習。
「タコより速い讃岐ダッシュです!」
うん、少しマシ。
ヒロヒロのデビュー戦は、圧倒しすぎて空回り。
だが。
ノムさんが最後に言う。
「伸びしろしかないのぅ」
のどかがうなずく。
「本気なのは分かった」
結月、静かに拳を握る。
「次は……盛り上げて、勝ちます」
三原の海は穏やかだ。
だが讃岐ダッシュ娘の内側では、次のレースが始まっている。
速さだけではないヒロインへ。
今日も踏み込む。
そして次回、
タコはたぶん、もう少しだけ結月を困らせる。




