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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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太ももは裏切らない。讃岐ダッシュ娘・大西結月の再加速宣言

香川県観音寺市。


瀬戸内の穏やかな海と、銭形砂絵と、そしてうどん。


その町から現れた爆速娘がいる。


大西結月、23歳。


元女子競輪選手。


小柄な体格。身長は高くない。


だが――


太腿が違う。


ウエストと同じくらいの太さじゃないかと噂される、逞しきエンジン。


その脚から繰り出される爆発的ダッシュ。


スタートで前に出る。


踏み込む。


先行。


一気に主導権。


しかも顔は愛くるしい。


「結月ちゃん可愛い!」


「脚えぐい!」


観音寺の星。


高校から自転車競技を始め、卒業後に女子競輪選手へ。


努力型。真面目。負けず嫌い。


順調だった。


成績も右肩上がり。


確定板常連。


「将来有望」


そう言われた。


そして、あの日。


もらい事故。


前の選手がバランスを崩す。


巻き込まれる。


落車。


腰を強打。


コンクリートの冷たさ。


観客のざわめき。


長期欠場。


復帰はした。


だが、腰は言うことを聞かない。


踏み込みが一瞬遅れる。


爆発力が、ほんの少し鈍る。


ほんの少し。


それが命取り。


確定板に乗れない日々。


観客席から飛ぶ声。


「大西、良いのは顔だけか?」


「うどん食って練習しろ!」


「讃岐うどんみてぇなコシが足りねぇんだよなぁ!」


結月、心の中で思う。


(うどん関係ないやろ)


だが、笑えない。


焦る。


踏み込む。


空回り。


競争得点は積み上がらない。


そして、通知。


代謝制度。


登録消去。


強制引退。


「ルールですので」


冷たい言葉。


結月はうなずいた。


「……はい」


怪我は、もうだいぶ良くなっていた。


これから。


これからだった。


だが、数字は非情だ。


「仕方ないです」


そう言いながら、帰り道で泣いた。


観音寺の夕焼けが、やけに赤かった。


それから。


結月はスポーツインストラクターに転身。


大阪・岸和田のスポーツジム。


「膝が内に入らないように」


「腰、丸めない」


故障に強い体づくり。


怪我で悔しい思いをしたからこそ、説得力はある。


会員からの評判も良い。


「先生、わかりやすい!」


「元選手ってすごい!」


仕事は悪くない。


むしろ充実している。


だが――


何かが足りない。


夜、自宅。


スマホを眺める。


おすすめ動画。


「道後温泉 湯気でしゃもじ耐久選手権」


再生。


みーちゃんが湯気で滑る。


梨乃が転ぶ。


ノムさんが叫ぶ。


「ヒロヒロは世界へ!」


結月、吹き出す。


「アホやな」


次の動画。


「別子銅山リスペクト!」


掘ってない。


「なんやそれ」


だが。


全員、本気だ。


バカなことを、本気でやっている。


コメント欄。


《これぞヒロヒロクオリティ》


結月は考える。


自分は、本気だった。


でも、燃え切れなかった。


ゴールテープを切った感覚が、ない。


そのとき。


大阪でのシンポジウムで出会った遥室長の言葉を思い出す。


「踏み込めるなら、踏み込んでみる?」


柔らかい駿河弁。


真面目な目。


「完全燃焼できる場所、あるよ」


結月、立ち上がる。


その場で軽くスクワット。


太腿が動く。


まだ、やれる。


「本気で、バカやるんか」


口元が笑う。


競輪では、不完全燃焼。


なら。


次は、燃え尽きるまで。


しゃもじは持たないかもしれない。


うどんは食べるかもしれない。


でも。


踏み込む。


もう一度。


「よっしゃ、完全燃焼したるわ」


こうして、讃岐ダッシュ娘・大西結月は、


戦隊ヒロインという意味不明な世界へ足を踏み入れる。


太ももは裏切らない。


そして今度こそ――


ゴールは、自分で決める。

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