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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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しゃもじは海を越え、ペダルは止まったまま

ヒロヒロは、ついに瀬戸内海を越えた。


広島でふざけ、松山でしゃもじを振り回し、新居浜で鉱山を掘らず、今治でタオルを蹴った。


そのすべてが、なぜかウケている。


動画配信チャンネル「テレビじゃ見れないヒロヒロ劇場」は、安定の再生数。


コメント欄は今日も元気だ。


《これぞヒロヒロクオリティ》

《意味不明なのに見てしまう》

《みーちゃんが輝いてる》


松山の至宝(?)こと、越智美晴。


三十路を目前にして地下アイドルを卒業し、「最後にもう一花」と飛び込んだヒロヒロで、まさかの再覚醒。


湯気の中でも、鉱山でも、タオルの海でも、彼女は全力だった。


「環境って大事なんやね」


と本人は言う。


愛媛県当局は胸を撫で下ろす。


「送り込んで正解でしたな」


県民の声もおおむね好評。


「みーちゃん楽しそうやね」

「松山の誇りや」


一方、広島。


遥室長は配信を眺めて小さくため息をつく。


「……企画の次元は相変わらず低いですけど」


ノムさんが胸を張る。


「人気は高い!」


のどかが腕を組む。


「否定はできん」


遥は認めざるを得ない。


数字は正義だ。


飛ぶ鳥を落とす勢い……かどうかは知らないが、ヒロヒロは少なくとも海を越えた。


そして、うどんの国。


香川県。


県庁の一室で幹部がうどんをすすりながら言う。


「……愛媛、盛り上がっとるな」


若手職員が資料をめくる。


「香川、ヒロイン未排出です」


「まずいな」


もう一口、ずるり。


「誰かおらんのか」


場面は変わる。


大阪府岸和田市。


商店街の一角にあるスポーツジム。


トレッドミルの列。


その奥で、真剣な目をした女性がストレッチを指導している。


大西結月。


香川県観音寺市出身。


元女子競輪選手。


落車の怪我。


代謝制度。


強制引退。


「お疲れさまでした」


その一言で、レースは終わった。


今はスポーツインストラクター。


利用者に笑顔で言う。


「膝、内に入らんように。フォーム大事やで」


仕事は真面目。


評価も悪くない。


生活も安定。


それなりに満足。


……のはず。


その日の夜。


自宅のソファでスマホをいじる。


おすすめ動画に、見慣れないサムネイル。


「道後温泉 湯気でしゃもじ耐久選手権」


再生。


みーちゃんが湯気の中で転びかけている。


梨乃が滑っている。


のどかが冷静にツッコんでいる。


ノムさんが絶叫している。


コメント欄は大騒ぎ。


《これぞヒロヒロクオリティ》

《またやってる》

《みーちゃん姐さん最高》


結月、半笑い。


「……バカやな」


次の動画。


鉱山サバイバル。


タオル運動会。


うどん早食い。


意味が分からない。


なのに、目が離せない。


みーちゃんが笑っている。


全力で。


何かにぶつけるように。


結月はスマホを置く。


ふと、自分の脚を見る。


怪我はもう、ほとんど良い。


走れる。


踏み込める。


でも、レースはない。


号砲もない。


観客もいない。


代謝制度の紙切れ一枚で、自分の舞台は閉じた。


ジムの鏡に映る自分は、悪くない。


でも、足りない。


「……何か、もっと」


もう一度、動画を再生する。


みーちゃんが叫ぶ。


「全力でやろうや!」


ヒロヒロ一同が笑う。


結月は小さくつぶやく。


「全力で、遊ぶんか」


その言葉が、胸に引っかかる。


岸和田の夜は静かだ。


だが瀬戸内の向こうでは、しゃもじが舞い、タオルが飛び、笑いが響いている。


香川県はまだ動いていない。


だが、うどんをすする手は止まりつつある。


そして一人の元アスリートが、画面越しにその騒動を見つめている。


ペダルは止まっている。


けれど、脚はまだ死んでいない。


ヒロヒロは知らない。


次に踏み込まれる一歩が、

少しだけ本気の風を連れてくることを。

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