凡庸査定、後方支援合格。レジェンド29歳の再配備。
松山のレジェンド地下アイドル、越智美晴――みーちゃん。
ヒロヒロ加入から間もなく、ついにやってきた。
富士川研修。
戦隊ヒロイン候補生たちが汗と涙と謎の筋肉痛を積み上げる、あの場所である。
初日の朝。
みーちゃんはストレッチをしながら小声でつぶやいた。
「……関節が鳴る」
パキッ。
鳴った。
年齢は秘密。
だが身体は正直だ。
隼人補佐官が腕組みをしている。ロジカル熱血の男である。
「基礎体力テスト、いきます」
ランニング。反復横跳び。懸垂。持久走。
結果。
悪くはない。
だが特別良くもない。
隼人補佐官が真顔で言う。
「正直に申し上げます」
みーちゃんが身構える。
「年齢的に老化は始まっています」
直球。
「ですよね」
「身体能力は……凡庸」
「ですよねぇ!」
周囲がざわつく。
「戦闘任務で前線に立つ水準には、残念ながら届きません」
バッサリ。
ノムさんが横から割って入る。
「待て!レジェンドやぞ!」
「戦場はレジェンドでは勝てません」
冷静。
のどかが腕を組む。
「拳は年齢を選ばんが、足は選ぶ」
妙に名言。
みーちゃんは苦笑する。
「分かっとります。三十路前ですけん」
しかし、ここで終わらないのがこの女だ。
次は座学。
戦術理解テスト。
地形図、兵站、包囲網、撤退ルート。
隼人補佐官の目が変わる。
「……理解が早い」
みーちゃん、ペンを走らせる。
「この陣形、桶狭間の逆応用ですね?」
教室が静まる。
「補給線が細い。ここを叩かれたら終わりです」
歴女の血が騒ぐ。
戦術を歴史で例える。
「島津の釣り野伏せみたいなもんです」
「誰が分かる」
だが理論は正確だ。
隼人補佐官が頷く。
「戦術理解度は高い。頭の回転が早い」
みーちゃん、胸を張る。
「暗記は得意です」
「歴女ですからね」
のどかが笑う。
さらに意外な事実が明らかになる。
「井坂農装の期間工をやっていたと聞きましたが」
隼人補佐官が問いかける。
「蒼牙の組み立てラインにいました」
空気が変わる。
「クラッチの締結トルク、規定値言えます」
さらっと言う。
整備班がざわつく。
「マジか」
実技テスト。
エンジンが不調の車両。
みーちゃん、工具を握る。
「この音、ベルトやない?」
数分後。
エンジン復活。
ノムさんが叫ぶ。
「うおおお!」
隼人補佐官、冷静に評価。
「前線は厳しい。だが後方支援、整備補助、簡易修理は可能」
「つまり?」
「後方支援なら行けます」
みーちゃん、ガッツポーズ。
「やった」
老化はしているが、油には強い。
そして本職。
イベント舞台テスト。
音楽が流れる。
みーちゃんのスイッチが入る。
ダンスはキレキレ。
十年以上やった身体は、戦闘よりリズムに反応する。
ターンが軽い。
ステップが正確。
笑顔は職人。
観客役のヒロインたちが拍手。
歌唱テスト。
声は安定している。
だが。
藤原詩織のように感動の渦にはならない。
西里香澄のように場内が拍手喝采にはならない。
隼人補佐官が淡々と記録する。
「歌唱力、平均以上。突出ではない」
みーちゃん、苦笑。
「ソロシングル出したことありますけどね」
「ほう」
「……廃盤です」
沈黙。
ノムさんが小声で聞く。
「何枚売れた?」
「聞かんといて」
倉庫の奥で眠っている幻のCD。
「プレミア付いてないの?」
「付くかい」
全員爆笑。
総合評価。
身体能力:凡庸。
戦闘適性:低。
戦術理解:高。
機械適性:高。
舞台適性:プロ。
年齢:非公開。
隼人補佐官がまとめる。
「戦闘の前線ではなく、後方支援・戦術補佐・整備・イベントの要として起用」
ノムさんが拍手。
「ヒロヒロの戦略担当じゃ!」
のどかが頷く。
「拳の代わりに頭を使え」
みーちゃん、静かに笑う。
「歴史は後方が勝つんです」
富士川の夕日が沈む。
レジェンド地下アイドルは、前線には立てない。
だが、戦場は前だけじゃない。
油まみれの手で、しゃもじを持つ日も近い。
そして彼女は今日も、関節を鳴らしながら言う。
「凡庸でも、続けたらレジェンドになりますけん」
それはたぶん、真理である。




