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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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598/687

オレンヂか、オレンジか。それが問題だ。〜三十路前アイドル、しゃもじの海へ〜

新橋のヒロ室会議室。


空気はやたらと整っている。

壁には全国地図。机の上には資料。コーヒーはぬるい。


待っているのは三人。


遥室長。穏やかな駿河弁の理性。

ブラックキャププロダクション社長・野村吉彦、通称ノムさん。暴走機関車。

そして広島支部長・江波のどか。ツッコミ担当。


ドアが開く。


「失礼します」


入ってきたのは、松山ベテラン地下アイドル、越智美晴――みーちゃん。


すでに愛媛県当局から話は通っている。面談は形式。今日はほぼ「ようこそ」の会である。


ノムさんが立ち上がる。


「みーちゃん! いやぁ嬉しいのぉ! 一緒に安芸高田でやった仲じゃろ!」


上機嫌である。ヒロヒロを県外に拡大したい野望を抱く男にとって、松山で少しは知名度のあるみーちゃんの加入はありがたい。


「ヒロヒロは世界に羽ばたくけぇの!」


のどかが横から冷静に言う。


「まずは四国じゃ」


遥室長は静かに微笑む。


「広島中心で活動する形になりますが、よろしいですか」


「ヒロヒロ所属……ですか?」


みーちゃんが首をかしげる。


ヒロヒロは正式には存在しない。組織図にもない。だが誰もがそう呼び、遥室長も半ば公認している謎の勢力である。


「便宜上、ヒロヒロでええんじゃ」


のどかが即答する。


こうして、みーちゃんはヒロヒロを中心に活動することが決まった。


――ここで改めて、みーちゃんの紹介である。


愛媛県松山市出身。

年齢は秘密。公式には「永遠の二十代」。実際は二十九歳。言わなければバレないと思っている。


松山を中心に活動してきたご当地地下アイドル「オレンヂ☆ステップ」の元センター。十数年活躍したベテランだ。


「オレンヂ☆ステップ」はメンバーを入れ替えながら二十年続く老舗グループ。新潟の某ご当地アイドルを彷彿とさせる持久力である。


ここで重要なのは名前だ。


「オレンジ☆ステップ」ではない。


「オレンヂ☆ステップ」である。


ジではない。ヂである。


イベントのパンフレットや看板がうっかり「オレンジ」と表記されようものなら、古参ヲタがざわめく。


「ヂやろ!」

「ジはにわか!」

「踏み絵や!」


ジとヂの違いが新規ファンの通過儀礼。正しく書けなければライブ会場の隅で正座である。


ヒロ室の資料にも「オレンジ」と印字されていたが、みーちゃんは無言で赤ペン修正した。


「ヂです」


それだけは譲れない。


小柄で小顔の童顔。フリフリ衣装が似合う、教科書通りのアイドルステレオタイプ。


だが寄る年波には勝てない。


目尻の小じわ。ほうれい線。

肌の荒れはファンデーションで隠す。照明は味方。


確かに可愛い。二十九歳には見えない。だが本人は数年前から感じていた。


(可愛いだけじゃ、もう限界や)


それでもキャラは変えられなかった。


十年前から同じ芸風。妹キャラ。

加入当初は最年少、小柄、童顔で爆発的に人気だった。


だが三十路手前で「みんなの妹」はさすがに厳しい。


ファンも正直飽きていた。


イベント会場では心無い野次が飛ぶ。


「いつまでやるの?」

「そろそろ卒業では?」

「妹、何歳やねん」


マンネリ化していた。


だからこそ今回の卒業は、ファンにとっても事務所にとっても朗報だった。


古参ヲタは満足げに言う。


「やっと卒業か。これで真のファンや」


何が真なのかは不明だが、全員が納得していた。


そのみーちゃんが、今ここにいる。


ノムさんは資料を叩く。


「松山の知名度は武器じゃ! しゃもじも柑橘色にするかの!」


「やめんさい」


のどかが即止める。


遥室長は穏やかに言う。


「ご経験を活かして、イベント構成にも関わっていただければ」


みーちゃんは笑った。


「十年以上やっとるけん、場の空気読むのは得意です」


地下アイドルは、酸いも甘いも知っている。


ヒロヒロのバカげたイベントが、実は少し楽しかったことも認める。


「最後にもう一花、咲かせましょか」


三十路前、再出発。


妹キャラは卒業。

今度はベテラン地下アイドルヒロイン。


しゃもじを振るのか、柑橘を投げるのかは未定だが、少なくとも舞台は広がった。


ノムさんが両手を広げる。


「ヒロヒロは世界に羽ばたくぞ〜!」


のどかがため息。


「まずは松山じゃろ」


みーちゃんは心の中でつぶやく。


(オレンヂはヂ。ヒロヒロは公認非公認。人生、わりとカオスやな)


こうして、松山のベテラン地下アイドルは、瀬戸内海を越えてしゃもじの海へ漕ぎ出した。


世界か四国か。

それはまだ誰も知らない。


だが一つだけ確かなのは、

ジとヂの戦いは、これからも続くということである。

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