酒都炎上!ヒロヒロ東広島・巴投げ大惨事
広島県内を荒らしまわ…いや、盛り上げまくっている悪ノリコンビ、江波のどかとノムさん率いるヒロ室広島、通称ヒロヒロ。尾道で猫に囲まれ、三次で怪談を崩壊させ、呉で艦隊ショーを茶番に変えた二人が、ついに足を踏み入れたのは東広島市である。
東広島市――とりわけ西条は“酒都”。白壁の酒蔵が立ち並び、ほのかに甘い麹の香りが漂う、文化と発酵の街だ。広島大学の学生も多く、若さと伝統が同居する、どこか知的で落ち着いた空気をまとう町。
そこへヒロヒロ。
不安しかない。
今回のスポンサーは地元の老舗酒蔵数社。
テーマは「ヒロインと巡る酒都の夕べ」。
のどかは珍しく真面目な顔で言った。
「今日は落ち着いてやるけぇ。広島の誇りじゃけぇね」
ノムさんも神妙にうなずく。
「任せなさい。私は文化人だ」
その五分後、生配信の“生CM”が始まった。
酒蔵の樽を背に、ノムさんがグラスを掲げる。
「この酒はですね……実に透明感がある」
一口。
「うまい」
二口。
「これは夜を包み込む」
三口。
「まるで……瀬戸内の月が……」
止まらない。
スポンサーの好意で“味見程度”のはずが、いつの間にか普通に飲んでいる。いや、がぶ飲みだ。
そして始まる“絶口調”。
妙に艶っぽい、昭和深夜番組風ナレーション。
「この喉越しはですね……心の襟元をそっと開く……」
のどかのこめかみに青筋が浮かぶ。
「ちょっと、飲み過ぎとらん?」
ノムさん、聞いていない。
「この芳醇さ……これはもう、罪だ」
配信コメント欄がざわつく。
「始まった」
「今日もヒロヒロ」
「止めてあげて」
ノムさんは足元がおぼつかなくなり、マイクを握ったまま観客席へふらり。
「酒は……人生だ……」
その瞬間、のどかの堪忍袋が切れた。
「ええ加減にしんさい言うとるじゃろ!」
広島弁が炸裂する。
次の瞬間、のどかの動きは早かった。
柔道有段者、戦隊ヒロイン随一の武闘派。
がっちりと袖を取り、体を落とし、鮮やかな巴投げ。
ノムさん、宙を舞う。
白壁の酒蔵を背景に、スローモーションで回転する中年男性。
観客、静止。
配信コメント欄、爆発。
「飛んだ」
「のどか最強」
「巴投げきたーーー」
バサッ。
安全マットの上に叩きつけられるノムさん。
一瞬の沈黙。
梨乃が駆け寄る。
「社長ー!大丈夫だらぁ!?」
のどか、息を整えながら一言。
「文化人はまず水飲みんさい」
ノムさん、ゆっくり起き上がり、ふらふらしながら親指を立てる。
「いい技だ」
会場、爆笑。
同時視聴者数はヒロヒロ史上最高を記録。
「ヒロヒロクオリティ」
「ヒロヒロ最高」
「酒都で投げるな」
コメントが止まらない。
スポンサーの蔵元も苦笑しつつ拍手。
「宣伝効果は抜群ですね……」
結果的にイベントは大成功。
日本酒は完売。
ヒロヒログッズも飛ぶように売れた。
だが後日。
この回を視聴した遥室長は、静岡の自宅で頭を抱えていた。
「……ノムさん、はじけすぎだら」
画面には、宙を舞うノムさんの姿がリピート再生されている。
隣で隼人補佐官がぽつり。
「巴投げは美しかったですよ」
遥室長、ため息。
「問題はそこじゃないのら」
こうして“東広島巴投げ事件”はヒロヒロ史に刻まれた。
酒都で宙を舞った男と、
それを本気で投げた支部長。
文化と悪ノリの境界線を越えながらも、なぜか愛されるヒロヒロ。
次はどこで誰が飛ぶのか。
広島の夜は、今日も発酵している。




