鳴り止まぬ野村ラッパ!しゃもじともみじが回線を焼き切った日
広島支部長・江波のどかは、ステージ袖で腕を組みながらうなずいていた。
「やっぱり、うちらがやればこうなるんよ」
隣でノムさんがラッパを吹く真似をする。
「プワァ〜!野村ラッパ絶好調!」
ヒロ室広島、通称ヒロヒロ。
第一弾の戦隊ヒロインしゃもじは、まさかの大ヒット。
広島市内イベント会場で叩かれまくったしゃもじは、SNSで拡散され、「必勝ヒロイン文化」として謎の流行を生み出した。
だがノムさんは止まらない。
「甘いのもいこう」
そうして誕生したのが――
戦隊ヒロインもみじ饅頭。
パッケージは各ヒロインの限定イラスト。
中身は王道のこしあん、クリーム、チョコ。
そしてなぜか紫芋味(のどか監修)。
試食会で梨乃が叫ぶ。
「これ美味しい!」
のどかが胸を張る。
「広島の魂じゃ」
発売初日、即完売。
翌日、ヒロ室の電話が鳴り止まなくなる。
「通販はないんですか!?」
「しゃもじ三本!」
「もみじ十箱!」
回線が悲鳴をあげる。
ジリリリリリリリリ!
ヒロ室スタッフが混乱。
真帆が苦笑い。
「しゃもじは……ノムさんとこ……じゃね」
遥室長も静かに言う。
「その件はブラックキャブさんに一任するら」
こうして“丸投げ”が決定。
ノムさんのブラックキャブプロダクション。
本来は芸能事務所である。
だがこの日、様子がおかしい。
「電話三十本待ちです!」
「回線増設!」
「饅頭在庫が足りません!」
しゃもじ工場もフル稼働。
職人が困惑する。
「なぜこんなに売れる」
電話が鳴り止まない。
ジリリリリリリリ!
事務所の奥からひょっこり顔を出すのは、所属タレントの氷見ゆりえ。
童顔色白、グラビア界の星。
「わたしも電話とります?」
「ゆりえちゃんは撮られる側だ!」
「でも今ヒマです」
結局、電話席に座る。
「はい、ブラックキャブです〜」
「えっ、ゆりえちゃん!?ほんもの!?」
「しゃもじ五本と饅頭三十箱ですね〜」
事務所騒然。
ファン歓喜。
スタッフ絶望。
「芸能事務所が通販窓口になってる!」
回線、再びパンク。
ノムさんは腕を組む。
「想定内だ」
のどかが目を輝かせる。
「全国展開じゃのう!」
だが現実は過酷。
発送まで三か月待ち。
「え、三か月!?」
「熟成期間です」
しゃもじも追加生産。
ヒロインしゃもじ第二弾、金しゃもじ仕様。
もみじ饅頭、季節限定さくら味。
売れる。
売れすぎる。
ブラックキャブの倉庫は段ボールの山。
ゆりえが段ボールに埋もれながら呟く。
「芸能って何だろう」
ヒロ室本部では。
真帆が苦笑い。
「広島は元気だねえ」
遥室長が静かにうなずく。
「ちゃんと企画すれば、ええら」
のどかは紫のしゃもじを掲げる。
「ヒロヒロは止まらんけぇ!」
梨乃も饅頭を頬張りながら叫ぶ。
「おかわり!」
野村ラッパ、再び鳴る。
プワァァァァ!
しゃもじが鳴る。
パチパチパチ!
広島から始まった悪ノリは、全国へ。
ヒロ室広島、ヒロヒロ。
それは正式部署ではない。
だが今、最も回線を焼き切っている部署である。
そしてノムさんは、次なる爆弾企画を考えている。
「次は……しゃもじ型キーホルダーだな」
広島の風は甘く、そして騒がしい。




