轟音に負けるな、那須のお嬢様!蒼牙2000・改 vs 13ポンドの逆襲
栃木県佐野市。
佐野ラーメンの澄んだスープは透明なのに、なぜかやたらとコクがある。
佐野厄除け大師は「とりあえずここで厄落としとけ」という万能感を漂わせ、
アウトレットモールは休日になると北関東の車が全部集まったんじゃないかというほど賑わう。
その特設ステージに、今日も北関東スリーアローズが降り立った。
山口唯奈。
そしてドリームトラクター――蒼牙2000・改。
ブルルルルル……!!
エンジン音が空気を震わせる。
子どもたちの歓声。
「うおおおお!」「でけぇ!」「かっけぇ!」
蒼牙2000・改がゆっくりと回転展示される。
その横で、塩原結花は立っていた。
白いユニフォーム、背筋はまっすぐ、気品は満点。
しかし。
(……皆さま、機械ばかり見ていらっしゃいますわ)
観客の視線はほぼ100%、トラクターに集中。
結花の自己紹介タイム。
「ごきげんよう、那須塩原の――」
その瞬間、蒼牙が空ぶかし。
ブオォォォン!!
歓声。
「おおおお!」
結花、微笑みが一瞬だけ固まる。
(……負けましたわ)
嫉妬である。
機械に。
13トンの鉄の塊に。
るみねぇが横からニヤリ。
「顔に出てっぞ、結花」
「で、出ておりませんわ」
「蒼牙に嫉妬してんだべ?」
「しておりませんわ!」
だが内心は荒れ模様。
(わたくしも“轟く”何かが欲しいですわ……)
イベント後半、デモンストレーション。
唯奈が蒼牙2000・改に乗り込む。
「おめぇら、目ぇかっぽじって見とけよ!」
茨城弁全開。
「こいつぁな、ただのトラクターじゃねぇかんな!ぶっちぎるぞ!」
ドギツい。
蒼牙が軽くウイリー気味に前輪を浮かせる。
歓声爆発。
結花は思わず拳を握る。
(音と大きさで勝負など……ずるいですわ)
そのとき、るみねぇがぽんと肩を叩く。
「轟かせりゃいいべ、ピンを」
「……はい?」
「ボールだっぺ。レーンで轟かせろ。ピン全部ぶっ倒しゃ、客の目ぇ引けっから」
「わたくしが……?」
「そうだ。静かに、でも派手にだ」
結花の瞳に火が灯る。
即席ボウリングチャレンジ企画が急遽組まれた。
会場隅の簡易レーン。
観客はまだ蒼牙に夢中。
結花はボールを抱える。
13ポンド。
重い。
だが、足腰は強い。
「……参りますわ」
助走。
優雅。
しかし、今回は違う。
るみねぇが叫ぶ。
「置きに行くな!連れてけ!」
結花の表情が変わる。
投球。
ボールが滑る。
観客の何人かが振り向く。
ガシャーン!!
ストライク。
おお……?
小さなどよめき。
唯奈がトラクターから顔を出す。
「結花ぁ!やれっぺよ!負けんなよ!」
茨城弁がさらに荒れる。
「おめぇの球、もっとぶちかませ!遠慮すんじゃねぇ!」
結花、目を見開く。
盟友の声。
(唯奈さん……)
「蒼牙ばっか目ぇ向けさせとくな!おめぇも主役だっぺ!」
結花は深く息を吸う。
二投目。
さらに鋭い回転。
ガシャァン!!
またもストライク。
観客の半分がこちらを向く。
「すげぇ!」「お嬢様、強ぇ!」
蒼牙のエンジン音と、ピンの破裂音。
轟音と衝撃音。
対決は続く。
唯奈が笑う。
「いいぞ結花!そんぐれぇやれりゃ十分だ!」
結花、口元が緩む。
「負けませんわ……!」
三投目。
完璧なカーブ。
ガシャーン!!!
会場が沸く。
蒼牙の轟音と同じくらいの歓声。
結花の胸が熱くなる。
(静かな戦いでも……轟くのですわ)
るみねぇが腕を組む。
「な?言ったべ」
唯奈が親指を立てる。
「おめぇ、やりゃできんじゃねぇか」
結花は静かに一礼する。
「機械に負けてはいられませんわ」
少しだけ栃木弁が混じる。
「……やるしかねぇんだんべ」
蒼牙2000・改の重低音と、
ボウリングボールの衝撃音。
どちらも戦いの音。
だがこの日、佐野の空に響いたのは――
お嬢様の逆襲の音だった。
観客が口々に言う。
「蒼牙もすごいけど、あの子もやばいな」
結花は微笑む。
「わたくし、プロになりますわ」
遠くで唯奈が叫ぶ。
「とっととプロなれや!」
るみねぇが笑う。
「北関東、静かに熱いべ?」
佐野ラーメンの湯気の向こうで、
那須のお嬢様は、新たな闘志を燃やしていた。
轟音に負けない、
静かなストライクの逆襲。
物語は、まだ転がり続ける。




