【きのこ・たけのこ戦争】第四部・ドロ沼化 消耗戦突入!菓子の砂漠に散る理性
戦争は、長引いていた。
ヒロ室を二分した「きのこ・たけのこ戦争」は、
もはや初期の小競り合いを越え、完全なる消耗戦へと突入していた。
会議室の空気は重い。
什器は元に戻されたものの、
机の配置は微妙に陣営ごとに固まっている。
左側、たけのこ軍。
右側、きのこ軍。
誰も口には出さないが、座る位置で立場が分かる。
国家級の任務会議より緊張しているのが、ただのおやつ問題というのが恐ろしい。
消耗戦の最大の特徴。
それは――
相手陣営の菓子には絶対に手を出さない。
たけのこ軍は、きのこを一切食べない。
きのこ軍は、たけのこに一切触れない。
飢えようとも。
喉が渇こうとも。
「それだけは越えちゃいけない一線や」
美月が真顔で言う。
「信念や」
彩香が腕を組む。
何の。
結果、奇妙な光景が生まれた。
たけのこ軍の机には、山のようなきのこ。
きのこ軍の机には、未開封のたけのこ。
誰も食べない。
在庫だけが増える。
けちのんが経理帳簿を見て震える。
「在庫評価が……」
ヒロ室は財政危機よりも、在庫危機に陥っていた。
戦闘は激化。
だが物理的な衝突は減った。
代わりに始まったのが、心理戦だ。
ヒロイン連絡用のSNSに、怪文書が出回る。
「たけのこのクッキー部分は実は湿気に弱い」
「きのこの傘は構造的に優れている」
「たけのこ派は感情論」
「きのこ派は軸が不安定」
大した内容ではない。
だが全員が本気で受け取る。
既読スルーすら疑われる。
ヒロ室は疑心暗鬼の渦へ。
そして最大の衝撃。
グレースフォースが分裂した。
杉山ひかり、きのこ軍。
館山みのり、たけのこ軍。
ヒロ室史上、前代未聞。
いつも隣にいる二人が、
今回はパーティションを挟んで対峙している。
みのりが言う。
「これは信念の問題だから」
ひかりが静かに返す。
「愛と菓子は別問題です」
何を言っているのか分からないが、
とにかく分かれた。
周囲がざわつく。
「グレースフォースが割れた……?」
美月が震える。
「世界の終わりや」
彩香も真顔。
普段は百合具合に呆れているヒロインたちも、今回は不安顔。
さらに追い打ち。
迫田ツインズまで分裂。
澄香はきのこ。
澪香はたけのこ。
双子の絆すら割った菓子。
ヒロ室の停戦は、もはや困難と見られた。
消耗は進む。
会議は滞る。
イベント資料は未完成。
コピー機は酷使され、また異音を立てる。
遥室長が呟く。
「イベントどうするの……」
隼人補佐官は遠い目をする。
「国家案件より菓子が優先される組織とは」
波田顧問がため息をつく。
「こりゃパレスチナ問題より複雑だぞ」
全員、静まる。
「停戦協定まとめたらノーベル平和賞モンだな」
冗談のはずだが、
誰も笑わない。
本気だからだ。
その夜。
ヒロ室は静まり返っていた。
きのこ軍、たけのこ軍。
双方、疲労困憊。
菓子は山積み。
食べない。
意地だ。
だが、ふと。
みのりとひかりが、給湯室で鉢合わせる。
沈黙。
視線が交わる。
ひかりが小さく言う。
「……お腹すいたね」
みのりも小さく。
「……うん」
だが互いに、相手陣営の菓子には手を出さない。
代わりに、二人はクラッカーを一枚ずつ手に取る。
当たりM田のクラッカー。
一番地味で、誰も奪い合わない存在。
二人、同時にかじる。
そして小さく笑う。
「これが一番平和かも」
その姿を、物陰から見ていたヒロインたち。
「……」
「……」
気まずい。
翌朝。
戦線はまだ続いている。
だがどこか、疲れている。
誰もが気づいている。
この戦争、意味はない。
だが引くに引けない。
ヒロ室は今日も真面目に、
バカバカしい。
そして戦争は、まだ終わらない。
だが誰も知らない。
本当の崩壊は――
次の補充で第三の勢力、
「アーモンド派」が登場したときに起きるということを。
ヒロ室の未来は、まだ混沌としている。




