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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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547/695

戦場で県勢プレゼン始めるな!――理知の暴走、グレースフォース逆転現象

「……本日も、平和のために参ります」


控室でそう呟いた駿河の良心・杉山ひかりは、いつも通り穏やかな笑顔だった。

その隣で千葉の叡智・館山みのりが、拡声器の電池残量を確認しながら小声で言う。


「ひかり、今日は“冷静に”ね。感情で行かない。理知で。理知」


「うん。理知で。……でも、みのりを侮辱する人は理知で裁く」


「怖い怖い。裁くとか言わないで」


二人の会話は、内容は物騒なのに、距離が近すぎて甘ったるい。控室の端では美月が河内弁でぼやく。


「はぁ……戦場に行く前に、もう新婚旅行みたいな空気出すなや……」


彩香が荒っぽい播州弁で被せる。


「ほっとけ。あれは常時、発酵しとる」


麗奈は空気を読まない顔で「発酵ってなに~?」と聞き、みのりが「聞かなくていい」と理知的に遮断した。


現場は、暴徒化したデモ隊で荒れていた。

投石、怒号、プラカード、そして謎にテンションが高い太鼓。治安維持のため、戦隊ヒロインたちが広域封鎖線を張り、静かに圧をかける。


任務の先頭に立つのは、グレースフォース。

みのりは拡声器を握り、深呼吸して、上品に声を通した。


「皆さま、落ち着いてください。デモはここまでです。危険行為は——」


一瞬、みのりが言葉を探した。

その“言葉の端”に、うっかり本音が混ざった。


「……私の愛する千葉県が……これ以上、傷つくのは……」


その瞬間だった。


デモ隊の後方から、野次が飛んだ。


「千葉なんて田舎だろ!」


空気が一瞬凍る。


みのりの眉が、ぴくりと動いた。

“房総の怒りスイッチ”が入りかける。

ヒロインたちが「あ、来るぞ」と察して身構えた。


美月「来た来た、みのりんの千葉防衛本能や」

彩香「今日の相手、命知らずやな」


ところが。


瞬時に反応したのは、みのりではなかった。


隣にいたひかりが、すっと拡声器を奪った。


奪い方が静かすぎて、逆に怖い。

そして、声の温度が一段下がる。


「事実誤認です」


デモ隊「……は?」

ヒロイン達「……は?」


ひかりは続けた。


「千葉県は首都圏の物流と製造を支える重要拠点です。港湾、空港アクセス、工業地帯、研究開発、農水産物——」


ひかりの視線が、すっと遠くを見た。

完全に“ニュース番組の解説コーナー”の目だ。


「県内総生産における規模、人口、企業立地、通勤流動。『田舎』の定義を適用するなら、先に定義が必要です。定義なき侮辱は、ただの雑音です」


デモ隊は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった。

いや、鳩よりさらに理解不能な顔だった。

プラカードを持ったまま、脳内がフリーズしている。


一方、みのりはというと——。


「……ひかり、ありがとう……」


みのりの目が、うるうるしていた。

怒りが収まったどころか、感動で胸が詰まっている。


「千葉の経済規模、そう……そうだった……私、数字まで愛せてなかった……」


「愛していいよ」


ひかりは即答した。


「みのりが愛するものは、私も愛する。みのりを侮辱することは、絶対に許されない」


言い方がもう、宣誓。

デモ隊鎮圧の現場で、プロポーズみたいな空気を出すな。


みのりは拡声器の横で小さく頷き、ほとんど恋人の顔で返す。


「……私も。ひかりが言うなら、千葉はもっと誇っていい」


「うん。千葉は誇っていい。みのりは、もっと誇っていい」


「……ひかり、近い」


「近くないと守れない」


美月が頭を抱えた。


「守れないちゃうわ!“守り方”が濃いねん!」


麗奈が横で拍手してしまう。


「わぁ~!すごい!なんか今、千葉の授業と告白が同時に来た!」


彩香が呆れて言う。


「戦場で県勢プレゼン始める奴、初めて見たわ……」


しかし、効果はてきめんだった。


デモ隊は勢いを失っていく。

怒りの熱量が、ひかりの“理知の冷水”で冷やされ、最後は「え、千葉ってそんな感じなの?」という学習フェーズに入ってしまった。


先ほどまで投石していた連中が、ぽつりと言う。


「……千葉って、うまい魚あるよな」


ひかりが即座に拾う。


「あります。漁港も、海産物も強いです。あと落花生もあります」


「落花生……」


デモ隊が静かになる。

落花生で鎮圧されるデモ隊。

革命の火が、ピーナッツで消える世界。


みのりがそっと補足する。


「……千葉は、やさしい県です」


ひかりが頷く。


「みのりがいるから」


もうダメだ。

現場の空気が治安維持じゃなくて、披露宴のスピーチみたいになっている。


隼人補佐官が無線で呟いた。


「……作戦成功。だが、何だこの成功の仕方」


真帆さんが遠くで腕組みして、しみじみ言う。


「鎮圧ってのはね、力じゃなくて“空気”で決まるのよ……ただし、あの二人の空気は種類が違う」


任務終了後。

撤収の列の中で、みのりはひかりの手を握った。握り方が普通じゃない。安心確認というより所有権の確認だ。


「ひかり、今日……私が怒る前に止めてくれたね」


「怒ってもよかった。でも、みのりが怒ると疲れる。だから私が代わりに怒る」


「代わりに怒るって、プレゼンで?」


「理知で怒る。私の怒りは、資料で殴る」


みのりが笑って、顔を寄せる。


「……ねえ、今度は静岡のことを誰かが侮辱したら、私がプレゼンするね」


ひかりが目を丸くする。


「……みのりが、静岡を?」


「うん。駿河湾と茶畑と、あと君の良心を守る」


「……百合が強い」


「今さら?」


そこへ美月が割り込む。


「おいコラ、二人とも。帰りのバスの座席、ずっと隣で手ぇ繋ぐのやめぇや。見てるこっちが照れるわ」


ひかりが丁寧に返す。


「美月さん、私たちは任務の一環として——」


彩香が遮る。


「任務ちゃうわ。恋愛や」


麗奈が満面の笑みでまとめた。


「グレースフォースって、強いだけじゃなくて、情報番組みたいだね!」


蒼牙2000・改が静かに言った。


「私は理解できません。ですが……鎮圧は成功しました。次回も、県勢プレゼンの準備を推奨します」


みのりが真顔で頷く。


「千葉の資料、更新しとく」


ひかりも真顔で頷く。


「私も静岡の資料、作る」


美月が叫んだ。


「やめぇ!戦隊ヒロインが戦場に資料持ち込むなぁ!」


—こうして。

暴徒鎮圧任務は無事成功し、グレースフォースの百合はさらに濃度を増し、なぜか“千葉県の経済規模”だけが一段詳しくなった。


誰が得したのかは不明だが、

少なくとも、みのりは幸せそうだった。


そしてひかりは、穏やかな笑顔のまま、静かに宣言した。


「みのりを侮辱する人は……事実誤認です」


その日、デモ隊は解散した。

理由は、よく分からない。

ただ、千葉を舐めるな——という空気だけが、妙に残った。

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